第三十三話 勇者の国 3
わりと書きたかった話
「どうしたのかね?」
グラスを片手にへの字のヒゲを生やした人背の高い老人がやってきた。その人物を見るやクエルフは驚き固まってしまう。
「?! れ、レーリッヒ様!?」
すぐさまクエルフは頭を垂れようとしたがレーリッヒはそれを察して制止するよう手を前に出した。
「宴の席だ。仰々しいのはやめにしよう」
「っはい。レーリッヒ様、こちらアイシャ殿下です」
自分のことは棚に、アイシャを紹介するとレーリッヒは目を丸くさせながらニコリと笑みをつくる。
「君がアイシャくんだね? 私はレーリッヒ・サラム。聖都シルバリックの教祖をしているんだ。以後、よろしくお願いするよ」
いささか子供に対してあいさつするには堅苦しいが、肩書は子供ではないのでこのくらいは最低限のマナーだろう。
「アタシはアイシャ・フォン・テルナリアよ」
テルナリア皇国第二皇女アイシャ・フォン・テルナリア。まだ六歳にして皇位継承権第三位という似つかわしくない肩書きを持っている。
「お会いできて光栄ですの。ミーシャ・フォン・ヴィールムですの」
ミーシャ・フォン・ヴィールム。炎帝ビーリアン(通称勇者の国とも言われている)の第一王女であり、皇位継承権第二位である。ちなみにまだ八歳だ。
レーリッヒはニコリと笑顔をつくるとグラスをクエルフに渡し、両手で二人の頭をポンポンと撫でた。
「……ミーシャくんに、アイシャくん。すべての出会いに、すべての別れに。神のご加護があらんことを」
聖都シルバリックでは人々への無事を願うときや、お別れの時にこうして頭を撫でながら祝詞を贈っている。
ミーシャは目を閉じニコリとうれしそうに、アイシャはなんだこれはとばかりに困惑し少し怪訝そうだ。
「またどこか、運命によって会うだろうね。それでは失礼するよ」
クエルフに渡していたグラスを回収すると後ろ手に去って行った。
「なんなのあのじーさん!? アタシのかみにさわるとかありえない!」
「アイシャ様……どこで誰が見てるかわかりませんの。それに他の国と亀裂が入れば戦争になるかも知れないですの。大人しくしますの」
「まあまあ二人とも落ち着いて……」
喧嘩ではないにしろあまり騒ぐと悪目立ちしてしまう。アイシャのせいで友好な国の王女や王太子といざこざにでもなればそれこそ一環の終わりだ。
クエルフはやれやれと言った感じでため息を零すとまた声を掛けられた。
「よお! てめぇも来てたんだな」
「久しぶりだね、神魔。その後の調子はどう?」
「悪かねぇがちょっと危ういな」
半分心配だが、なんとも言えない表情で「そっか」とだけ言う。
神魔は訳あってクエルフの前世の名前を知っている。
「それで、何かを探しに来たの? それとも、もう見つけたのかな?」
「……やっぱてめぇに隠し事とかは不可能だな」
「そう思うのなら、ちゃんと彼らを護ってよね」
苦笑いも含めながら肩をすくめてみる。神魔は一瞬ギョッとした後、額を押さえながらため息を零す。
「それができれば苦労しねぇんだよ……ったく」
と、二人で話していたからかアイシャがふくれっ面でクエルフを見つめていた。
「クエルフ兄はどっちの味方なの!」
「アイシャ殿下、ここでその呼び方は誤解を招きますよ」
「アタシがそうよびたいからよぶの!」
クエルフはテルナリア皇国と、というか一家と昔から仲良くさせて貰っている。なのでアイシャからはクエルフ兄と親しまれ、アイシャの本当の兄からも弟のように可愛がられていた。ちなみにアイシャは四人兄妹で一番末っ子だ。
「……クエルフ、少し話したいことがある」
唐突に改まって神魔が言う。クエルフはなんとなくそんな予感がしていたのかあまり驚かず「わかった」とだけ零すと膝をつき、アイシャと目線を合わす。
「アイシャ殿下。僕たちは席を外しますので、どうか騒いだり目立つような言動は辞めてくださいね」
「ふん! いわれなくてもわかってるもわよ」
「ミーシャ殿下も、アイシャ殿下のことよろしくお願いします」
「はい。ミーシャ様、行きますの」
ミーシャはぺこりと頭を下げ、アイシャは腕を組んでそっぽを向いたままクエルフと神魔がその場を去るのを見送った。
今日はね、友だちの学祭に来てるからねちょっと早めな投稿になっちゃったかな?
ええっと、この調子でいけば次章に入るのは来年の3月辺りだろう。ストックがたくさんできたら月3投稿もできるけど、今のところは無理そうかなぁ
次の投稿は来月の6日にしようかな。もうすぐで大晦日だし、大晦日は毎度のごとく今まで更新できてなかった作品も更新するからねぇ大忙しだよ()
ほなまた――




