祭りの前の日の話2
「おい、お前。名前を言うんだ。」
ムーフリッドの容貌は珍妙である。体躯はまったく大きくて、顔にはぜんたいおかしな入れ墨があった。
外洋の人食い人種を思わせる体であったため、美しい男は大変怯えていた。
こんな奴と同じ部屋にいたら、明日になったら骨だけか、もしくは身包み剥がされ外に放っぽり出されるに違いないだろう。
「おっおっ俺の名前は…サダルメリクと申します。旦那…」
「ふふっ、面白い奴だな。俺はムーフリッドだ。お前はとても美しい顔をしているんだな!大変素敵だ!!」
そう言ってムーフリッドはサダルメリクの顔をぐりぐりぐりぐりと凝視した。
初対面の人食い人種に穴が開くほど容姿を伺われてサダルメリクの寿命は縮んだ。
「へっへっ部屋を恵んでくれてありがとうございます!旦那…」
「いいさ、どうせベッドは二つあるんだ。神様の思し召しだ。」
『噴火亭』の主人たちの愛の巣は今奇妙な二人の一夜の宿となったのだ。
「サダルメリク…ああ、サダで良いか。お前タバコは吸うか?」
「いえ吸ったこともございません…旦那!」
「そうか、男なら是非吸ってみろ。」
嫌とはとても断れないので、サダルメリクはすごすごとタバコを口にしたが大きく咽せかえった。
「何だ、点で駄目じゃないか!」
「すみません…旦那…」
「お前歳はいくつだ?」
「17ですっぜ…旦那…」
「おい!旦那はやめねーか!」
「へい旦那…」
「…まあいいや。俺は25だ。俺の方が年上だな。よし、今日巡り会ったのも神様が導いてくれたんだ!俺とお前は今日から兄弟。お前の面倒は全て俺が見てやる!」
一方的にこう宣言されたが拒否することも出来ず、承諾したがサダルメリクは生きた心地がしなかった。
すると、ムーフリッドは荷物から小さな包みを取り出してきて、中からは小さな偶像が出てきた。
「さぁ、今日の出会いを感謝して祈れ、さぁ!」
そう言って祈らされた。
サダルメリクは雨の中歩き通しでとても疲れていたが、ムーフリッドが色々話しかけてきてなかなか眠れなかった。
ムーフリッドはやはり外洋からやってきた蛮族の戦士で、島の総長の皇子だったそうだ。
利発なムーフリッドは22の時好奇心の翼で海を渡り、大陸にやってきた。
彼は大陸各地を回り旅をしているそうだ。
「おい、サダ。お前金を出せ」
そう言われてサダルメリクは俄に青ざめた。これが奴の本性だろうか、金子を巻き上げられると気が動転した。
断っては大変だとおずおず財布を取り出すと、ムーフリッドも汚い布袋を取り出した。
そして中からワラワラと金を取り出した。驚くかな、金貨が30枚も入っている。それに比べてサダルメリクは銀貨が3枚に銅貨が5枚ばっかりだ。
それをムーフリッドはまぜこぜにして綺麗さっぱり二つに分けた。
「良いか、サダ。俺とお前は兄弟だ。財産も半分だ、良いか。困ったら何でも俺を頼るんだ。」
何だい、この人食い人種。まるで気前が良いじゃないか。サダルメリクは困惑した。
「さぁさぁ、明日からお前も働くんだ。きっとお前ならすぐ働き口が見つかるよ。おや、足が大変冷たいじゃないか。おれの腿っ玉で温めてやろう」
そう言うとムーフリッドは二台のベッドをくっつけて横になった。
「ほら坊主、寝るぞ!」
こんな男と枕を並べるのかと、サダルメリクはガッカリしたが渋々布団に潜り込んだ。
布団は湿っぽくてひんやりしていた。ぶるっと身震いしてムーフリッドの布団に足を突っ込むと大変暖かく、こいつは良い暖炉じゃねえか…と思った。
二人は5分とたたぬ間にピープーと寝てしまった。




