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ランツ王国物語  作者:
1/2

祭りの前の日の話

ある雨の晩だった。

明日っから山岳祭(山開きの事。山開きから15日は山岳祭となり全国から登山者がキオヌの山岳道に集まる。)だった為に町は大変賑わった。

山岳祭は最高司書(※1)の文皇様一行が最初に登山なさり、祈例祭を奉じた後に一般の巡礼登山者が頂上を目指すのだ。

夏山登山開始のこの時期はキオヌは世界中の熱狂を一斉に集めたように沸き上がっていた。

ムーフリッドが町にやってきたときはすでに宿屋はどこもいっぱい状態だったが『噴火亭』と言う宿屋で一室にありつけた。

「旦那運が良いね、ここは元々わしら夫婦のスイートルームじゃったんだよ。」

「何だい、あんたらの愛の巣のお下がりか。ところで酒場を教えてくれないか?仕事を探してるんだ。(※2)」

「タイタン酒場ってのに行ってみな、朝食は魚と肉どっちが良い?」

「魚が良いな。パンじゃなく米にしてくれ。」

「朝は7時半からだよ、明日は祭りだタンと働くんだね!」

そう言って二回の奥の部屋に行ってみた。確かにスイートルームだっただけあって広い、ベッドが二つあった。

腰の大きな武器ホルダーとでかいバックパックを部屋に残し、一路タイタン酒場に向かった。

「親父、溶岩酒(※3)ぬる燗で…それと仕事を探してるんだが…何か無いか?」

「ふぉわ!人食い人種かい?おまえさん」

「俺は魚食だよ」

「なんでーでかい図体でよく言うぜ。料理は出来るか?」

「何でも作れるぞ。」

「よし、何かつくってみろ。」

「よし、まかせろ!」

そう言って厨房に入った。

ムーフリッドという男は大変器用な人である。

体はうんと頑丈だ、それにうんと働いた。

働き口と言ったら何でもやった。

用心棒から飲み屋の料理場まで場所は選ばない、何でもやる。

手際よく、ジャージャーと炒め物を作ってみるが見るも鮮やかな手つき!

皿に盛ってみれば何とも旨そうだ。親父は喜んでわらっと口に運んだ。

「おっ、ほっほっ!おいお前さん、なかなかの腕前じゃないか!1日…そうだ銀貨15枚やろう!!」

「そいつぁ、景気のいい話だ!」

「おい、おめぇ何て名前だい?」

「はい、ムーフリッドです。」

「じゃぁ、早速今夜から働きな!!」


店は人が入りきらないほど盛況であったが、明日はさらなる来店が見込まれた。

ムーフリッドが店から『噴火亭』に帰ったのも夜も更けてからであった。

雨は小雨になり、霧雨で足下がうるうると塗れるのが不愉快だった。

宿に帰るとカウンターで一人の客が呆然と立ちつくしていた。

「親父、鍵をくれ。」

「おー旦那!待ってたんだよぅ、あんたぁ。」

「何だい、恋人にすがるような声を出して…」

「実はこのお客さんが…部屋が無くてひどく困ってるそうでよぉ。」

「どうぞ、ご主人、哀れな私に台所の一間でも貸してください…」

か細い声で哀願するその言葉は何とも同情を誘った。

マントのフードからのぞくその顔は陶器の様になめらかな面で精緻な作りである、相当な美人であった。

「おい親父、こんな美しいお嬢さんを台所の床の間に寝かせてみろ!山神様が憤怒すっぞ!俺の部屋を譲ってやれ。」

「あれあれ、よろしいんですか旦那?よろしゅーございましたね、お嬢さん!」

「大変申し訳ございません、俺は男です。」

「まぁ!」

「はぁ!」

親父とムーフリッドは大変驚いた。






(※1)百年図書館と言われる世界の書物全てを集めたという6角形の図書館が存在する。

そこの最高責任者である最高司書を文の皇、つまり文皇と呼ぶ。

文皇は山岳信仰であるアーカ教の最高権威でもある。


(※2)酒場は大概、職安である。


(※3)キオヌ名物の酒。溶岩の地熱で温めて飲む。溶岩の成分で味がまろやか。

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