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調理部部長のリボン  作者: 大和麻也
Episode 5 -- 天保学園の未来
49/58

5-3

「そうは言っても、アクセスが伸びなければポータルサイトの計画に乗っかる部活も少ないでしょう」


 初鹿野くんはそう言って、わたしたちの提案を却下した。

 乗り気に見えていたのに、結局その気にはさせられなかった。

 ポータルサイトを創設するに足る、各文化部に提示できるサイトにするための案が必要だ、ということだった。確かに、文化部の中にも吹奏楽部のような大規模なものがある。そのような部にとっては、ポータルサイトに魅力を感じなければ自力でブログを立ち上げたほうが発信力を持てる。

 要するに、調理部に対して情報科学部のブログを盛り上げる提案をしろ、というわけだ。

「思わぬ意地悪をされたね」

 コンピュータ室を出て、ラウンジに座席を確保する。食堂の受付にはすでにシャッターが下ろされ、グラウンドからは運動部の賑やかな声が聞こえていた。

 桜木先輩は、思ったより飄々としていた。

「意地悪されるような先輩だったのですよ」思わず、小言を言ってしまう。「日頃の行いというやつです」

 半分本音、半分冗談だ。

 先輩は後者と受け取ったらしく、腕を組みつつ肩を揺らした。そうやって笑いながら揺れているリボン、それこそが「日頃の行い」なのである。これを見るたびに彼が鼻つまみ者なのだと思い出されるのだから、ため息のひとつもしたくなる。

「とかく、何か案を出しましょう。初鹿野を説得するため、アクセスを増やせる何かを」

「いや、その前に」

 建設的に話を勧めようとするわたしを、桜木先輩が制する。

「葉山。今回の計画、鮎川先生の手前、言えなかった部分があるよな?」

「……やっぱり気がつきました?」

「そう思うなら半月も黙っていることはなかったろうに」

 彼に話す気がなかったのではなく、話す機がなかっただけだ。

 調理部部長にこびりついた悪いイメージを払しょくするためにインターネットで発信する、とは提案したが、まさかそれで足りるとは思っていない。それこそ、どれだけ時間がかかるかわかったものではない。情報科学部のブログが高校生の学校生活にどれだけ影響を与えられるだろうか。

 そして、影響を与えるだけでも足りない。騒動が大きくなればいいというわけでもないのだ。やみくもに情報をばら撒いたところで仕方がない。それだけのミッションならば、SNSを利用したほうが手っ取り早いのだから。

 そのくらいのことに気づかない桜木先輩ではないのだ。

「役に立ちそうもない情報科学部のブログにも、価値はないでもない。文化部唯一のブログであり、貴重な生徒主体の発信源。情報科学部のコンペでの功績もあって、注目も多少はある。これをポータルサイトの計画で盛り上げることができたなら、どんな良いことがあるか?」

 彼の問いは自問自答に過ぎない。返事をしないで待っていれば、彼は勝手に続きを語りだす。


「卒業生や保護者の注目を効率的に集められる、そうだろう?」


 隠すつもりはない、素直に頷く。彼の指摘の通りだった。

 わたしたちが目指す校則の変更に向けて、大きな障壁は協力者の不足である。その原因のひとつは、桜木先輩や江森さんの理解者が少ないこと。声が届かないのでは仕方がないが、かといって、ブログでの発信がこの特効薬とはいえない。

 ブログが力を持ってくれるのは、もうひとつの障壁を乗り越えるために役立つから。

 校則を変えたい桜木先輩と、それに協力できない町田先輩とでは、相容れないようで共通認識があった――もはや生徒の力では天保高校は変わってくれない、という諦めである。

 生徒が校則通りに署名を集め、臨時の生徒総会を開けるのか。生徒総会の議決は、職員会議を動かせるのか。職員会議は、大きなスポンサーとして機能している卒業生たちの賛同を得られるのか。

 そんな疑心暗鬼を振り払うには、不安なステップを省いてしまうのがよい。開き直るならば、これはクルージだ。もとあるシステムが機能しないなら、別の個所を書き換えてしまえ。

「はい。わたしたちでも記事を投稿できる既成事実を作ったうえで、OBOGに向けた告発をアップしよう、と」

 インターネットなら、一度誰かの目に留まれば噂が広がってくれる。在校生の学校生活に関心のある卒業生に、わたしたちの訴えが伝わってくれれば――学校側が記事に気づいて削除をはじめ火消しに走ったとしても、少しくらい現状が変わってくれるだろう。

 それには、情報科学部のブログが最適だ。SNSの匿名の投稿では、誰に届くかわからないぶん、わたしたちに賛同しない人々を引き出してしまうおそれもある。学校側も強硬姿勢で迎え撃ってしまうだろう。訴えるなら、確実に卒業生たちに届けたい。

「乱暴すぎますか? インターネット上の動きは不透明です。学校に迷惑をかけるのはもちろん、やはり成功する保証はないので」

 わたしの策は、明らかに、桜木先輩の行ってきた主張とは性格が異なる。

 彼や江森さんが求めない方法でわたしが強引に進めるわけにはいかない。

「いや、いいんじゃないかな。やってみれば、告発までいかなくても、ひょっとすると調理部の知名度を上げるところから上手く事が運ぶかもしれない。やらないよりは、やったほうがいい」

「…………」

「どうかしたか?」

「意外な答えだったな、と」

 ふん、と彼は鼻にかけて笑った。




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