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すべての色をなくした世界で  作者: 氷田まりか
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『恋というのはそれはもう、溜息と涙でできたものなのだ。』

そんな言葉で失恋を綺麗なものにした人はシェイクスピア。

それなら、愛はいかほどに悲しいものなのだろう。

子孫を残し繁栄させるための本能を『愛』と嘯くのであれば、それは実はとてもビジネスライクなものなのかもしれない。

暗闇の中ほのかに光るアロマディフューザーの光を眺めながらぼんやりとそう思えば、そんな思考に反応したかのようにメールの到着を知らせる着信音が響き渡る。

『久しぶり、桃原さん。元気?』

簡素なメールの内容の主は遠い昔に無理矢理連れて行かれた飲み会にいた人だった。

見惚れるような笑みを浮かべて寄ってくる女性をうまく躱す彼は、愛想笑いする私を見て哀れんだような目をしていた。

『お久しぶりです。元気じゃありませんって答えたらどうにかしてくれるんですか。』

思わず悪態付くような言葉を打ち込んだ後で我に返る。

こんなのただの八つ当たりだ。

慌てて文面を消して愛想が悪いと思われない程度の返事をかえした。

『元気ですよ。夏宮さんはお元気ですか?』

名前は…なんだっけ。ああ、確か夏宮だ。夏宮輝刻。

参加女子たちが他の男たちに脇目も振らずにちやほやしていたから覚えている。

その自分の魅せ方を知ったうえで色気を纏った笑みも、その表情に隠された心底くだらないというような雰囲気も。

あまり良い印象が残らなかったのはお互い様だろう。

そんな彼がなぜ今になって連絡をしてきたかは理解できない。

もしかしたらこの人も合コンのセッティングしてほしいとか言うんじゃなかろうか。

苛つくような、ひりつくようなピリピリした感情がわき上がる。

こんな感情知りたくなかった。

卑屈な感情はいつだって人の倍あって辛いのだから、これ以上強くするようなことはやめて欲しい。

涙があふれそうになるのを堪えながら、感情もそうできれば良いとでも言うように携帯端末をベッドから遠いソファーへと放り投げた。

音楽の音量を大きくして、毛布に身をゆだねる。

ほら、もう何も聞こえない。見えない。

目をつぶるだけで私は私を守れるんだ。

だからお願い。

誰も私を壊さないで。

この安穏の中で生きていければそれでいいの。

分かって欲しいなんて思っていない。

理解してなんて誰にも望んでない。

だから、だから。

どうか誰も、私の心を揺さぶらないで下さい。

祈るようにうずくまった私は、端から見ればひどく滑稽だったに違いない。


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