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すべての色をなくした世界で  作者: 氷田まりか
3/11

『3対3ぐらいで飲み会しない?』

久しぶりに来た連絡は大きな溜息を吐かせるには十分な内容だった。

なけなしのプライドがもう粉々。

なんだって気になってた人に出会いの仲介を頼まれなければならないのだろう。

断るか、無視するか。

一瞬脳裏に浮かんだ失礼な選択肢をどうにか振り切ってなるべく明るくみえるような返信を打つ。

粉々になったプライドがなんとか意地を振り絞ってくれる。

『いいですね♪どんな女の子がいいですか?』

こうなったらもう幹事に徹しよう。

そして彼曰く「飲み会」、私からしたら「合コン」を早々に終わらせて完全にさよならだ。

好きな人に合コンのセッティングを頼まれるなんて滅多にない経験が出来て良かったじゃないか。

滅多打ちにされて放心状態の心をそう励ました。

『失恋の痛みって普通に怪我する時に痛い!!って思う神経が反応するらしいですよ。…ってことは血液検査したら炎症反応とかわかるんですかね。CRP上がるとか。』

遠い昔に神山が神妙な顔で話していたことを思い出す。

そうね、神山。

もしかしたら私の体も炎症反応を起こしているのかもしれない。

だって、痛い。

胸の奥がツンとしてまるで冬の朝に吹き荒ばれたようだ。

『楽しく飲めたら誰でも良いよー!!桃原ちゃんのセンスに期待(笑)』

都合の良いときだけすり寄ってくるこの男の、どこが好きだと思ったのだろう。

瞬時に萎えた気力と恋心は今や氷点下だ。

明確に好きなところをいえない当たり、私も彼を『疑似恋愛』に利用していたのかもしれないけど。

『ハードル上げてきますね(笑)わかりました!!頑張って探します。』

相手に乗ったふりをして同じようなテンションで返す当たり自分の滑稽さが余計浮き彫りになる。

ものすごい可愛い子で揃えてやる。

品が良くて話もおもしろくて可愛い子、そんなの友達にたくさんいる。

「ってことで神山、一緒にいってくれない?」

一番最初に顔が浮かんだ神山にそう電話すれば、悩んでいるようなうなっているような何ともいえない声を出された。

「…だめ?」

だめなら仕方ないと聞き返す。

「んー…私個人としてはそいつを見たいという気持ちとぺしゃんこにしてやりたい気持ちが半々なのですが。」

つまり彼女的には行きたいのだろう。

濁された言葉の後ろに『彼』の存在を感じた。

神山の『彼』。

いつも一生懸命で、誰も癒やすことの出来なかった--理解することが出来なかった神山の心を掬い上げた人。

「あー…アキさんがスネちゃうか。」

暁川総司。新米Drの彼は私たちより年上のくせにまるで子犬のように素直な感情表現をする。

私たちが持ち得ない直接的な感情表現は時に驚くほどに神山を柔らかくさせた。

「わからない。…あの人は、よくわからないんです。」

うめくように言ったその言葉こそが彼女の本心なのだろう。

人の気持ちに敏感で、誰よりも他人が欲しがる言葉を理解する神山にとって『わからない』人は貴重に違いない。

「そうだよね。ごめん。また2人で飲もうね。」

彼氏がいる人間を頼ってしまった罪悪感と自分だけが取り残されてしまったような疎外感を感じる。

いつだって私と神山は同じだったのに。

そう思うことさえ醜悪だと感じながら、なんだかまた無性に笑えた。


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