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すべての色をなくした世界で  作者: 氷田まりか
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いつからこんなに弱くなったのだろう。

そんな体の奥底がえぐれるような思いを打ち消すべく、彼女は小さく細く息を吐いた。

それでもくすぶる澱んだ気持ちが全身を支配しているせいか、実際のところ何ものどを通らない。

「…桃原、あんた溜息吐きすぎ。」

何回目かの溜息の後、先輩にそう言われてからは無意識に吐かないようずっと口に力を入れている。

おかげで笑顔だけが取り柄のはずなのにそれさえもぎこちない。

でも、だって。

そうしなきゃ崩れてしまう。

端から見れば滑稽でちゃっちな一方通行の恋愛に見えただろうけど、当事者にしてみれば一世一代の恋愛だった。

あの人を運命の人だと思いたかった。

いつだって自分だけの王子様を探していたから、彼こそがそうだと信じたかった。

それも、もう終わり。

いつの間にか間隔が開いたメールの返信。

返ってきてもそっけない、私に興味も無いような当たり障りの無い内容。

次に会える日を聞いてきたくせに、とどうにもならない怒りがわいてくるのも今だけは許して欲しい。

気を抜けばあふれそうになる気持ちを必死に堪えて、私は無理矢理頭を切り換えた。


桃原はる。

社会人7年目で、もうそろそろ結婚…という周囲の圧力に押しつぶされそうになりつつ仕事もぱっとしない凡人。

可も無く不可も無い容姿に少しだけテンポのズレた人間、というのが大部分の人たちの評価だ。

自分でもそう思ってるからその意見に反論はない。

でも、平凡な人間だってちゃんと恋ぐらいしたかったんだ。

「はる先輩はきちんと可愛いですし平凡でもないですよ。少しのんびりさんなだけです。」

励ましてるんだか本音で言ってくれているのか分からない高校時代の後輩の言葉に曖昧な笑みで返して、なにが悪かったのかなとか考えてみる。

ご飯の時はちゃんと綺麗な服装で言った。

お酒も嗜む程度に飲んだ。

相手の話も笑顔で聞けたと思う。

…実際楽しかったし。

人見知りであまりおもしろい話が出来ない私の話もゆっくり聞いてくれた彼は、だけどメールの返信だけはもの凄く早かった。

仕事中にスマホを見る習慣のない私はいつも彼に返信を待たせていた。

だから、もしかしたら自業自得なのかもしれない。

急に返信がこなくなった。

既読した形跡はある。

いわゆる既読スルーだ。

返信が返ってこない期間、たくさんの事を考えた。

なにか悪いことを言ってしまったのか

もしかしたら好きな人が出来たのか

仲の良い先輩からの紹介だったからとりあえず連絡をとってみただけだったのか

それでもつまらなすぎて我慢できずに切ってしまったのか。

巡りに巡るネガティブな感情は遠い昔にも覚えがあって、そういえば誰かにこんな思いを抱いたのも久しぶりだったと思い出した。

何年も使っていなかった恋愛スキルはただでさえ低かった物がついには無くなったかのようにどうしようもないレベルになっている。

(これじゃフラれるのもあたりまえか。)

自嘲気味に心の中で吐きだして、私は私を守るために心から彼を閉め出した。


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