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ルーカス・アヴィ

ルーカス視点。諸々のフラグ回収になっていると良いな……(;゜ロ゜)


「おい。ルーカス」

「……何?」

眉間にシワを寄せながら読みかけの本から顔を上げると、僕の机の前には『筋肉ワンコ』ことハワードが立っていた。


『筋肉ワンコ』とは言い得て妙なもので……長年の付き合いのある僕から見ても、ハワードを表現するにはこれ以上ない位に相応しい言葉であると言えよう。

因みに、ハワードを陰で『筋肉ワンコ』呼ばわりしているのは、僕の妹の《シャルロッテ・アヴィ》だ。


ハワードは、『単純で根が真面目な熱血馬鹿』である。

良く言えば『素直で明るい馬鹿』と言ったところだろうか?

誤解をして欲しくないが、僕はハワードのような裏表の少ない人間は好きだ。

能力を使わずとも考えている事が分かるから。

深読みをしなければならない相手との付き合い程、疲れるものはない。


妹のシャルロッテもハワードと同じ仲間である。

考えている事が全て顔に出る。『無鉄砲な可愛いお馬鹿さん』

本人はハワードと一緒にされたくないと怒るだろうけど、僕から言わせれば大した差はない。


色々一緒に経験し、乗り越えてきただけあって、シャルロッテの中で僕は絶対的な地位を確立しているのだが……ここ最近までシャルロッテには秘密にしていた事がある。

成り行きで明かす事になってしまったが……本当ならば明かすつもりはなかった。

シャルロッテとギクシャクした関係にはなりたくなかったからだ……。


僕は【全知】という能力を持っている。他にも使用出来る魔術は保持しているが、この能力は別格である。この全知は人の心を鑑定する事が出来る。……つまり、人の心を読める能力なのだ。

今は完全に制御が出来る為に、勝手に他人の思考が流れ込んで来る事はなくなったが……全知に目覚めたばかりの幼い僕はそうは簡単にいかなかった。

止めどなく流れ込んでくる他人の思考の波に……このまま頭の中がパンクしておかしくなってしまうのではないかと、鬱々とした気持ちで日々を過ごしていた。

……シャルロッテが産まれるまでは。


産まれたばかりの赤ん坊だったシャルロッテは、ドロドロとした思考を持つ大人達とは全く違い、生きる為の本能しか持っていなかった。……赤ん坊なんてそんなものなのだが、幼かった僕には知るよしもなく、

真っさらなシャルに縋るように依存した。

常に妹の側にいて、シャルの素直な心の声だけを聞く……という生活を一ヶ月弱程過ごした頃。

ふと、他人の思考が勝手に流れ込んで来ていない事に気が付いた。

能力がなくなった訳ではない。心を読もうと思えばいつでも読めたから。

僕はシャルロッテと一緒に過ごす内に、いつの間にか能力を制御する事が出来るようになっていたのだ。


能力が制御出来るようになり、周りを見る余裕が出来ると今まで気付かなかったが、シャルロッテの大きなアメジスト色の瞳の中に【()()()】が見える事に気付いた。


それを素直に両親に告げると、二人は目に見える程に動揺し出した。

ただならぬ大人達の様子に、子供ながら()()()()だと理解した僕は、シャルロッテの事は自分が守らねばならないと思った。


幼い子供の頃のシャルロッテは、今のように無鉄砲なお転婆だった。

シャルロッテがしでかす何かを、僕はハラハラしながらも楽しんでいた。

僕にとって妹と過ごす時間が何よりも尊い時間だった。


なのに……クリスの婚約者候補として名前が上がった時から、妹は()()()()()()()に成り果てた。

僕はそんな妹から一気に興味を失った。

ガチガチの常識に囚われたシャルロッテはちっとも面白くなかったからだ。

兄として可愛がってはいたが……それ以下もそれ以上もなかった。



そんなつまらないシャルロッテが、一年前に()()()来た時には、歓喜で胸が震えた。


シャルロッテの中にいる【赤い星の贈り人】は、異世界人の《天羽あもう 和泉いずみ》という女性だった。

和泉は僕よりも年上だというのに、昔のシャルロッテの様に突然の思い付きで突拍子もない事をしでかした。貴族の常識や身分、差別に捕らわれない自由な思考の持ち主で、規格外の能力を全力で使用してみたり、お酒に固執してみたり。シャルロッテの年齢を思い出して大人しくしてみたり……と、今思い出しても可笑しい。


自由で楽しそうな……だが時折、大人の顔に戻る()()

彼女の側に一緒にいて、彼女の持つ独特な世界感を共有したい。ずっと守ってあげたい……。


和泉にはこの世界に想い人がいた。

先日、公式に婚約を発表した《リカルド・アーカー》。狼系ハーフ獣人だが、穏やかで優しい僕の友人だ。家格が近い事もあり親交はあったが、始めはそんなに仲が良かった訳ではない。

だが、和泉があの日……泣きながら『リカルド様に会いたい』と言ったから、彼女の心の不安を少しでも軽くしてあげられる様にと、不本意ではあったがリカルドと()()()()()()

初対面で和泉がプロポーズし出した時は、流石に唖然としたけどね。

思わずすごんで待ったをかけてしまった。後悔はしていないが。



この世界の常識に囚われない自由な彼女は……本人は気付いていなかったが、警戒心の強かったはずのリカルドをあっという間に堕とし……男女問わず周囲の者達を何だかんだあってもなつかせてしまう。

シャルロッテは人たらしの素質があるのだろう。それが面白くなくて、僕は兄権限を振りかざし相手を遠ざける事も多々あった。


スタンピード回避の為に沢山悩んで、泣きながらも前を向いて、次から次へと沸いてくる困難に立ち向かおうとする彼女には何度も胸を打たれた。そんなに頑張らなくても良いんだよと……何度も口から出そうになった。頑張る彼女を見ていたら言えなかったけど……。


僕にとってシャルロッテは、産まれた時から特別な妹で……和泉はシャルロッテの大切な一部だ。

僕を救ってくれたシャルロッテには誰よりも幸せになって欲しい。


だけど……目の前でイチャイチャされたら、やっぱり面白くないから意地悪しても良いよね?


僕の目の前にいる女性が……シャルロッテではなく『()()()()()()』と思ってしまった時があったのは……僕だけの永遠の秘密。

だから、この胸の痛みが無くなるまでは、存分に義弟を苛めてやろうと思う。

覚悟しててよね?




「ルーカス、聞いてんのか?……副会長?!」


「……何?」

耳元で怒鳴るハワードに顔をしかめながら問い返す。

考え事をしていたから、ハワードの話を全く聞いていなかった。


「師匠がいないと、本当にお前は感じ悪いぞ?」


うん。それは否定しない。

だってシャルロッテがいないのに取り繕う必要がどこにある?

と言うか、まだハワードは妹の事を『師匠』呼びしてるのか。シャルロッテに嫌がられる訳だ。


「……で、何?」

「……口調だって違うし!師匠の時はもっと優しいくせに……!」

「ハワード?」

男友達と可愛い妹を一緒にするな。

ジロリとハワードを睨み付ける。


「……っ悪い。先生がまたやらかしたみたいなんだよ」

僅かに身体を引かせたハワードはやっと本題に入った。こういう所は空気を読んでくれるから話が早くて助かる。

自分の態度がそうさせている事を棚に上げながら内心で苦笑いする。


「……またか。生徒会長(クリス)は?」

「違う教師に呼ばれてる」

「仕方無いな」

軽く舌打ちし、読みかけの本に栞を挟んで席から立ち上がった。


まだ一年生ではあるが、この春の選挙で最上級生を見事に打ち破り……クリスが生徒会長で、副会長が僕に決まった。学院内の揉め事の仲裁は生徒会の仕事だ。ハワードは書記で、サイラスが会計である。

この栞はシャルロッテが作ってくれた物だ。ラベルの花を押し花にした物である。

苛立っている気持ちを押さえる為に、僕は一瞬だけ栞に触れた。


…………よし。

「それで、どこ?」

歩き出した僕を誘導する様にハワードが前を歩く。


「こっちだ」

ハワードの早歩きに合わせて僕も足早に歩いた。



*******


「……理事長。何度言ったら分かるのですか?生徒の実力を視るのは授業の時だけにして下さいと、いつも言っているじゃないですか」

「だって……」

「『だって』じゃないでしょう?」

「試してみたくなったんじゃもん」


『じゃもんじゃ』……って可愛くもないのに……。


僕の目の前には、年齢不詳の老人であるルオイラー学院理事長が、白く長い顎髭を片手で撫で付けながら『カッカッカー』と独特の笑い声を上げている。


ルオイラー理事長は、この学院の創設者であるのだが……現在は息子に学院の全権を預けて、自分はフラフラと学院内を歩き回り、生徒に突然呪術を掛けてみたりと、色んな問題を引き起こしている迷惑な暇老人である。

……そして、この暇老人の本当の姿は……この国に存在している古の竜の一人なのである。

人間が……特に子供が大好きで、こうして紛れて生きている珍しい竜だ。


はぁー。

僕は溜息を吐きながら、眉間を押さえた。


子供の様な言い訳を並べる、この(じじい)……理事長の相手をするのは疲れるのだ。


「そうだ。ルーカス。またあいすくりーむを作ってくれんかの?」


……ほら。全く反省していない。


「嫌です」

「ケチ」


……誰がケチだ。


「シャルロッテちゃんはあんなに優しくて可愛いのに。お兄様はケチじゃのう」

「……は?」

このじじいはどこで妹と繋がった?


「この前、お前さんに会いに来てたじゃろ?その帰り道に《《なんぱ》》したんじゃ。美味しいお菓子をくれたのよ。カッカー」

ニコニコと笑いながらまた何度も髭を撫で付ける爺。


いつの間に……。

て、いうかシャルロッテ……大物ばかり《《たらす》》の止めてくれないかな。

確かにシャルロッテの作るお菓子は美味しいから気持ちは、分からないでもない。

だけど、(うち)にこれ以上余計な物要らないんだけど。


全く……僕の規格外の妹は本当に僕を飽きさせないよ。


「僕はケチなので、ルオイラー理事長には今後二度とアイスクリームはあげませんから」

僕はニコッと笑った。


「……る、ルーカス!それは!その…………わしが悪かったから勘弁してくれい!」


「駄目です。僕はケチですから」

「ルーカスー!!」


「……ルーカスすげえな」

僕達のやり取りを黙って見ていたハワードは苦笑いを浮かべた。

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