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魔王の名は。

すごーく短いですが、魔王と金糸雀の話です^^

「お父様、頑張って下さいませ」

「う、うむ。頑張るぞ」


グルグルグル。

魔王は猫の手で器用に『ルー君』のハンドルを回している。

その傍らには、黄色の小鳥姿の金糸雀がいる。


「慣れてくると楽しいぞ」

グルグルグル……。



うーん。和むなぁ。

私は頬杖をついて、二人を見つめていた。


魔王と金糸雀は、先日ミラと作った魔道具の『ルー君1号』を使って、おやつのアイスクリームを作っているところなのだ。


目の前にいる二人の肩書きは、『魔王とその娘』という。何とも物騒な二人ではあるのだが、魔力を封じられた黒猫と小鳥姿になっている今の二人からは和やかな雰囲気しか感じられない。

楽しそうにおやつを作っている親子でしかない。

……黒猫と小鳥が親子?という視認的な現実問題は、フィルターを修正すればOKだ。


今は和やかにしている二人だが、魔王が我が家に来たばかりの頃は、やはり多少はギクシャクしていた。それがいつの間にか解消されていた。歩み寄ろうとした両者の努力の賜物なのだろう。


……え?息子はどうしたか?


【道化の鏡】こと、クラウンは基本的に私がいる時には近付いて来ない。

魔王城への転移の際にやらかした事や諸々のお仕置きをしたら……余計に距離を置かれてしまった。

まあ、必要な時は無理矢理にでも捕まえるから何ら問題は無い。


魔王や金糸雀とは違い、クラウンは魔力を封じられていない。簡単に逃げる事も可能なのだが、本人はそうする気がないらしい。

お父様やリアのメンバーとは気が合うみたいだし、もしかしたらクラウンも、魔王である父親と一緒にいられる事が嬉しいのかもしれない。



この平和がいつまでも続けば良いのにな……。


「出来たぞ。後は……主、宜しく頼む」


ハンドルから手を離した魔王が、ペコリと頭を下げた。


「うん。分かった」

私は頷いてから立ち上がり、二人の元に歩み寄った。


ハンドルを外して蓋を開け、中にドライフルーツのメイ酒漬けをパラパラと入れる。

それらをゴムベラでさっくりと混ぜ合わせれば、完成である。


ハンドルをグルグルグルと回す事は出来ても、まだ慣れない猫の手では、ドライフルーツを掴む事も、ゴムベラで混ぜ合わせる事も出来ない。なので、そこは私がお手伝いをする。


「はい。どうぞ」

二人の前に出来立てのアイスクリームの器を置く。


「主よ、ありがとう」

「ありがとう、シャルロッテ」

魔王と金糸雀はニコニコとアイスクリームを食べ始めた。



「シャルロッテ、おかわり!」

「主よ。もっとくれ」


相変わらず……早いな。

食べ始めてまだ少しし金糸雀経っていないというのに。


おかわりの要求に応え、アイスクリームを二人の器に取り分ける。

まあ、嬉しそうだから良いんだけどね。


「ねぇ。魔王?」


夢中でアイスクリームを頬張っていた黒猫が顔を上げ、首を傾げる。その口元はアイスクリームでいっぱいだ。


「主よ。どうした?」

口元をベロンと一舐めした魔王が私をジッと見る。


「聖女召喚って止められないのかな?」

「ふむ……。聖女召喚か」


唐突な私からの質問に、魔王は眉間にシワを寄せた。


これはずっと誰かに聞いてみたかった質問だ。


「あれは、神によるものだから、まず無理だと思って良いだろう。止めようにも神と交信が出来なければ話にならないぞ?」

「……そうだよね。やっぱりそうか……」

私は大きく溜息を吐いた。


この世界のラスボスである魔王の魔力が封印された今。彼方の召喚は必要なのか?という疑問が沸いてきた。


神が召喚するという……聖女。

神と交信する為には、彼方がいた方が手っ取り早いのかもしれない。

しかし、一方通行な召喚は彼方の為にくい止めてあげたいとも思う。


お互いが望むwin winは、難しいか……。

上手くいかないな。



「ところで……主よ」

「何?魔王」

神妙な顔でこちらを見ている魔王を、私は首を傾げながら見つめ返した。


「私の事は『魔王』とではなく、何か別の名で呼んで欲しいのだが」


……はい?

「……魔王は魔王だよね?」

「嫌だ」


……名前を付けろと?私に?……魔王の?


「ごめんなさいね。シャルロッテ」

今までアイスクリームに夢中だった金糸雀がクスクスと笑い始めた。


「私やクラウンが名前を付けて貰えた事が、羨ましいみたいなのよ」

「えー?でも魔王に名前を付けるなんて……」


それに、金糸雀とクラウンの名前を付けたと言っても、二人の通り名から簡単に取ったり、言葉を多少変えただけである。


それを魔王にって……ハードルが高過ぎない?!


「頼む!主よ」

目の前の黒猫が、両手を合わせながら拝み倒す様にしている。


「私からもお願い。お父様の願いを叶えてやってくれないかしら」

金糸雀はパタパタと羽ばたき、私の肩に止まった。


はぁ……。

……二人に頼まれたら断れないじゃないか。


「私、ネーミングセンスないからね?」

溜め息を吐いた私は、うーんと首を捻った。


「全然、構わないぞ!主よ」

嬉しそうに尻尾を立てながら、魔王は微笑んだ。


魔王の名前は確か……『サイオン』だったはず。


魔王、魔王、魔王、魔王、魔王、魔王魔王魔王……。


……駄目だ。『《《ラスボス》》』しか出て来ない。


「……サイオンだから『サイ』で良いかな?」

迷いすぎて訳が分からなくなった私は、ダメ元で尋ねてみた。

ただの安易な名前の縮小だ。


それなのに……名前を聞いた魔王の顔が、パーっと明るく輝いた。ヒゲや尻尾がピンと伸び、恍惚そうな笑みさえも浮かべている。


「『サイ』……か。良いぞ!主よ」


……良いんだ。

魔王が良いなら私は良いんだよ。

ただ、捻りも何も無いんだけどねぇ……。


肩に止まっている金糸雀は、生暖かい笑みを浮かべている。

『良いんだよ。私は分かってるよ』的な笑みである。


うわーん!……複雑だ!


今からでも変えるべき?!

そう思って、魔王を見たが……既に言える雰囲気ではない。


もの凄く……喜んでいる。


……ま、良いか!!

深い事は気にしない様にしよう。自分の為にも。



……とは言いつつ、魔王の名前を呼ばされる度に、この事を思い出し悶絶する事になるシャルロッテであったとさ。



~終わり~

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