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プレゼント

《ダンジョン消滅~ルーカスの入学の間》の話です^^


私はその日、お兄様がお父様と揃って一緒に出掛けたのを見計らってミラの部屋を訪れた。


明日までお兄様達は帰らなーい!!

自由だーー!!ヒャッホーイ!


……って、そうじゃない。

お兄様の目が無い、貴重なこの機会を逃してなるものか。



トントン。

ミラの部屋のドアを軽くノックし、返事も良く聞かずに部屋の中に滑り込む。


おおっ……と。

ミラの部屋の中は、前よりもたくさんの魔道具で溢れ返っている。

一体何処で寝ているのか……と思える位に足の踏み場がないのだ。


早く、広々とした研究施設が出来れば良かったのだが……。

先日、ダンジョンを攻略した事で、思わぬ障害が生まれてしまった。

アヴィ家の裏山にあるダンジョンは、ダンジョンマスターだった【終焉の金糸雀】を外に出した事により、間もなく自然消滅する予定だからだ。


私としては……裏山のダンジョンがいつまでも形を残しているよりも、さっさと消滅してもらった方が安心出来る。残ったダンジョンに、新たなマスター誕生!なんて事は勘弁して欲しいからね。


当初の予定としては、ダンジョン探索と平行しながら、裏山の一角に魔道具開発の研究施設と、ダンジョン解明の為の研究所を作る予定であった。既に建設は着工されているのだが……大事な研究資源が消滅してしまうのだから、方針転換も仕方ないだろう。

その為に、一時的に工事を中断させている状態なのだ。

そう遠くない日に工事は再開するだろうけど、研究施設の完成を待ち侘びているミラからすれば、一時的な中断とはいえ、堪ったものじゃないだろう。


折角ミラが作った魔道具を踏んだりしない様に、私はしっかりとワンピースの裾を持って、部屋の中をゆっくりと慎重に進んで行く。

机に向かって座り、作業に集中していたミラには、ノックの音は聞こえていなかったらしい。


この状態で声を掛けたら……驚くよねぇ。

私なら確実に驚く自身がある。


声を掛けるか否か……。

私は顎に手を当てながら首を捻った。


しかし、そもそもミラに声を掛けないと、話が始まらないのだ。

息を吸って、呼び掛けようとしたその時……。


「シャルロッテ。今は手が離せないから、ちょっと待ってて」

こちらを振り返りもせずにミラが言った。


「え!?……あ、ああ、うん。分かったー」

……私の方が驚いた。ミラは初めから気付いていたのだろうか?


そんな素朴な疑問を持ちつつ、ミラが作業を終えるまで黙って待つ事にした。




作業が一段落したミラが、ソファーに二人分のスペースを無理矢理に作った。

空いたスペースに座る様にと私に向かって視線で促して来たので、私はそれに従いミラと向かい合う形で腰を下ろした。


「お待たせ。で、今度は何を作りたいの?」


うっ……。

まだ何も言ってないのにバレてる。……って、まあ、いつものパターンか。


「あ、その前に!私が部屋の中にいたのには……気付いてたの?」

「うん。アレでね」

ミラは机の上の天井を指差した。

ミラが指差した先にあったのは、小さな箱状の物で……和泉の世界で見覚えのある()()に見えた。


アレは……。

ジーッとその箱を見ていると、『ピコン』と小さな音が聞こえた。

その瞬間に、パッと箱の中に人の影が映り込んだ。


この部屋の扉に張り付いて、中を伺っている侍女の姿だ。


えーと、マリアンナは何してるの……?


「分かった?」

ミラの言葉の指す意味は、箱状の物のアレだよね?


「う、うん。ミラの部屋に近付くとアレが教えてくれるんだね!」

「……驚かないの?」

ミラは眉間にシワを寄せて首を傾げた。


しまった!

ここは驚く所だったのか!


「え……?!ええ……と、凄いと思ってるよ?!」

私は身振り手振りを加え、多少オーバーとも思える様なリアクションを取った。


ミラがこの世界で初となるだろう、監視モニターを作った事は驚いた。流石はミラ。発想力が柔軟だ。


しかし、私的にはマリアンナのこの行動に非常に困惑しているのだ。


大方……私達が何かやらかさない様に『見張れ』という、お兄様の指示かもしれないけど……。

素早いマリアンナの動きはプロの密偵の様だ………。監視モニターで全てバレてるけどね!


「……ごめん、充分に驚いてるんだけど、それよりもマリアンナの方が気になって……」

「……知らなかったの?」

「何が……?」

「彼女は君の護衛みたいだけど……って、その顔じゃ、知らなかったんだ」


……護衛?マリアンナが……??


「ていうか、アヴィ家の使用人はみんな、素人じゃないよね?執事からして普通じゃないし」


……なんだって!?


確かに執事のマイケルは、お父様達リアのメンバーで、それなりに名の知れた実力者であるらしい。それは分かる。でも、その他の普通だと思っていた皆が……素人でないとは、どういう事?


「で、でも!マリアンナも他の侍女さん達も、我が家でお預かりしている大事な娘さん達なのよ?!」

にわかには信じられない。私は否定したい為だけの理由を連ねて行く。


「彼女達の家名は?」

「ええと……マリアンナはルーズベルト男爵の娘よ?」

他にも、知っている侍女達の家名を連ねる。


「それ……全部、騎士とか軍事関係の家名だよね?しかも男女問わずに優秀な人材なら家督を継がせるって明言してる、珍しい家ばかりだ」


……そこまで言われたら、偶然とは言い切れない。

王城でもないのに、この邸は一体どうしたいのだ。


「まあ、アヴィ公爵家だったら仕方ないんじゃない?」

ミラはケロッと言うけど……何だろう、この取り残された感は。


……まあ、でも逆にこんな家だからこそ、皆が私の事を受け入れてくれたのかもしれない。

そう思うと、少しは気分が晴れる。


「シャルロッテは、ムームーみたいだからね」

「……ムームーって何?」

「それも知らないの?」


ふむふむ。ムームーとは……『猪突猛進の四足歩行の生き物』

……って、猪じゃないか!!


誰が猪だ!!!

……全否定したいのに、否定しきれない自分が悲しい。


「それで?何作りたいの?」

苦虫を噛み潰した様な顔になった私に、苦笑いを浮かべたミラが尋ねてくる。


……うん。話題を変えよう。



かくかくしかじか。

一通り説明を終えると、ミラの赤みがかった瞳がキラリと輝いた。


「何それ!ミラも欲しいんだけど!!」

ミラは興奮した様子でソファーから立ち上がり、こちらに向かって詰め寄って来ると、私の両手をギュッと握った。


……外から『キャー!!』と言う、黄色い声が聞こえた気がするのは……気のせいだよね?

しかもマリアンナ一人の声じゃない。

チラッとモニターを見ると、部屋の前には黒山の人だかりが出来ていた。


ちょっ……君達は何をしてるの!?


「ミラ。ちょっと待って」

おもむろに部屋の扉を開けると……黒山の人だかりが中に崩れて来た。


「……コホン」

軽く咳払いをしながら彼女達を見ると、マリアンナを始めとした侍女達は『おほほほっ』と不自然に笑いながら足早に去って行った……。




さて……と、今日、私が作りたいと思っているのは、和泉の世界にあった『材料を入れて、レバーをクルクルと回せば完成!』となるあの有名な氷菓玩具に似せた魔道具だ。

これを入学するお兄様の贈り物にしたいと思ったのだ。

長い学院生活で、今までの様に自由にアイスクリームを味わえなくなるお兄様が、『いつでも美味しいアイスクリームを食べられる様にしてあげたい』と思う妹の真心だ。


……なんてね。実は下心がありありだ。

勿論、『お兄様の為に』というのは本当だけど、一緒に『リカルド様が食べてくれたら!』という思惑も含まれている。

それに、最早……アイスクリームの教祖になりかけてるお兄様が使っていたら、貴族達や市井を問わず、王都内に広まるのも早いと思うんだよね。

アイスクリームの材料はどこでも普通に手に入る物ばかりだしね。

市井にアイスクリームが出回れば、いつでもどこでも美味しいアイスクリームが食べられるじゃないか!

ふふっ。


ということで……いつの間にかアイスクリームの信者だったミラと一緒に、作業を開始させた。


*******


「「出来た!!」」


アイスクリーム製造機1号『ルー君』の完成だ。


試しに材料を入れてハンドルをグルグルと回してみる。

すると、五分足らずでアイスクリームが完成した。

おお、早い!!これならお兄様でも簡単に出来る筈だ。


味も問題ない。美味しいアイスクリームが出来た。


……お兄様喜んでくれると良いな。


その後、ミラに強請られたので自分用とミラ用の二台の『ルー君』を無事に作り終えた。




後日。

お兄様にプレゼントをした『ルー君』が、思惑以上の威力を発揮し、学院内や王都で大旋風を巻き起こす事になるのを……この時の私はまだ知らなかった。





                                       -終わりー


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