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そして・・・➁

「あら。お帰りなさい」

部屋に戻ると、今日はずっとお留守番だった金糸雀が出迎えてくれた。

ふかふかクッションを加工して作った籠ベッドの上で、ポッコリとお腹を膨らませながら寛いでいた金糸雀。


・・・最近、金糸雀のお腹が丸くなって来たのが若干気になる。


「金糸雀・・・太ったよね?」

「そうねぇ。あなたの作る物が美味しいから仕方ないわ」

金糸雀は特に気にした様子もなくカラカラと笑う。


「・・・大丈夫なの?」

「え?ああ・・・元に戻った後を心配してるのね。魔術でどうにか出来るから大丈夫なのよ」


・・・何だって!?

『魔術でどうにかなる』そう言った?!

あの羨まけしからんボディは、魔術による物だったのか!

と、いう事は・・・


「胸はどうにもならないわよ?」

思わず自分の胸元を凝視してしまった私に、金糸雀はニコリと笑いながら無情な宣告をする。


「え・・・でも」

「減らすのは簡単なのよ。魔力を消費し続ければ良いだけだもの」


サラッと言うけど、魔力を消費し続けるというのは並大抵の事ではない。

魔力と一緒に体力や精神力も消費するから、加減を間違えば廃人コースである。


「胸なんて魔術に頼らなくても、彼氏に頼めば良いじゃない。彼に・・・」

「ストップ!!」


急にとんでもない事を言い出した金糸雀の口を私は慌てて押さえた。

慌てる私を金糸雀はニヤリと笑って見ている。


・・・からかわれた!?

だって、それってリカルド様に・・・って事だよね!?

確かに今は子供(シャルロッテ)だが、過去に彼氏がいた和泉は初心ではないし、金糸雀が言おうとしている事の意味も分かってる。

だけど、それとこれとは話が違うのだ!!


っと、いけない。

これ以上この話題を続けているとオーバーヒートを起こしてしまいそうだ。



それよりも金糸雀にはきちんと話しておきたい事がある。


金糸雀の意外にも気安い性格のお陰で、気兼ねなく話してはいるが・・・本来の金糸雀は魔物を統べる魔王の娘。【叡智の悪魔】である。


金糸雀が小鳥の姿でここに住む様になった日に、私は彼女から色々な話を聞いた。


金糸雀には弟である道化の鏡(クラウン)の他に、母親違いの兄姉が七人いる。

金糸雀達は厳密に言えば、魔物ではなく高い知性を持つ【魔族】と呼ばれる存在なのだそうだ。

この広い世界に散々《ちりぢり》になり、魔物を統制しながら生活しているのだと言う。

母親違いの兄姉とは幼い頃から交流がほとんどなく、()()()()()()()()()()()(興味がない)らしい。

金糸雀曰く【父親が一緒だけの他人】という認識だそうだ。


父親である魔王も子供達には干渉せず、放任主義。人間でいう所の親子の交流らしきものは一度もなかったそうだ。『魔族なんてそんなものよ』と金糸雀は笑っていた。


しかし・・・そんな父親でも、金糸雀からすれば血の繋がった親である。


「金糸雀・・・」

「なあに?そんなに深刻そうな顔して」

金糸雀は首を傾げた。


私はそんな金糸雀を見ながら深呼吸を数度繰り返した。握り締めた掌は緊張の為にうっすらと汗ばんでいる。私は覚悟を決めてから口を開いた。


「私ね・・・魔王の所に行ってみようと思うの」

心臓が口から飛び出そうな位にバクバクと脈打ち、汗が背中を伝っている。私は金糸雀を黙って見つめながら、彼女の反応を待った。


「あら、そう。良いんじゃない?」

なのに・・・金糸雀はあっさりと言い放った。


「・・・へ?」

予想外すぎる金糸雀の様子に、呆然としてしまったのは私の方だった。

どうしてそんなに金糸雀はケロッとしているのだろうか。


「金糸雀・・・今、何て?」

「『良いんじゃない?』って言ったわよ。そんなに不思議な事かしら?」


もしかしたら聞き間違えたのかもしれないと思って聞き返してみたのに・・・金糸雀の態度はやはり変わらない。


「場合によっては会うだけじゃなくて、そのまま魔王を倒しちゃうかもしれないんだよ?!」

思わず詰め寄ると、私の剣幕に押された金糸雀は小さな頭を少しだけ引かせながら首を傾げた。


「それもちゃんと分かってるわよ。何で人間のあなたが魔王の心配をするのよ。魔王とは倒されるものでしょう?頂点にいる者はその覚悟を常に持っているわ」

「・・・そんなものなの?」

「ええ。《弱ければ倒される》それだけ。これが自然の理だから私は何とも思わないわ」

「そ、そうなんだ・・・」


あっさりしているというか、冷たいというか・・・人間と魔族とはこうも感性が違うものなのか。

ここまで平然とされてしまうと、悩んでいた自分が馬鹿みたいに思える。


はぁ・・・。

私は深い溜息を吐きながら、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。

金糸雀はベッドのスプリングでベッドが跳ねる瞬間に羽ばたいて私の顔の横に飛んで来た。


「あなたは他人の事を自分の事の様に考え過ぎじゃないかしら?もっと楽に生きなさいよ」

金糸雀がツンツンと私の頬をつつく。


・・・確かに、金糸雀の気持ちを勝手に想像して・・・無駄に精神力を使ってしまった気がする。

完全な空回りだ。しかも、自分でやると決めた事なのに揺らいでどうするんだ。


『楽に』・・・か。

私は早くお酒を飲みながら楽しく暮らしたい。


その為にも魔王は避けて通れない。

本来ならば、ヒロインである聖女の彼方の仕事だが・・・彼女を待っている余裕は今の私にはない。

一刻も早く平穏な日常を手に入れたいのだ・・・。


「・・・金糸雀。魔王は何処にいるの?」

「魔王城ならクラウンに頼めばいつでも直ぐに行けるわよ」

私の顔の横で毛繕いをしていた金糸雀が顔をこちらへ向ける。


クラウンって・・・まさか・・・。


「あの子は望む所に繋がれるから」

「それって・・・鏡の中に入るって事?」

「そうよ。その方が手っ取り早いもの」


やっぱりか・・・。


この前、お父様と一緒に【お礼】という名のロシアンルーレット仕掛けちゃったんだよね・・・。

報復で無音な真っ暗闇の無限回廊にでも入れられたらたまったものじゃない。

・・・うーん。ここは何か賄賂を考えておこうか。


「因みに、魔王の好きな物とか嫌いな物は分かる?一応、話し合いが出来ればそうしたいと思ってるんだけど」

私はベッドに座り直しながら金糸雀を見た。


「ふふっ。話し合いを前提にしているのに、相手の弱みもしっかり握ろうとするシャルロッテのそういう所、私は好きよ?」

金糸雀はニコリと妖艶に微笑む。


・・・褒められているのだろうけど、ここは喜んじゃいけない気がする。


「そんなあなただから特別に教えてあげる。魔王の嫌いな物は【シャルロッテ】よ」

「・・・私?」

「そう。正確には【赤い星の贈り人】のシャルロッテだけど」


・・・やはり、金糸雀には気付かれていたか。

【叡智の悪魔】恐るべし。


でも、魔王はどうして【赤い星の贈り人】が嫌いなのだろうか?

素朴な疑問を口にしようした時・・・ふいに金糸雀のお腹がぐうっと鳴った。


「ええと・・・金糸雀さん?」

「ああ。ごめんなさい。沢山お話したらお腹が空いてきちゃったわ。それで?」

金糸雀が恥ずかしそうに笑う。


私は机の上に置いておいた白いポシェット型の異空間収納バックの中から、お皿とチョコチップクッキーを取り出してそれを金糸雀へと渡すと、私にお礼を言った金糸雀は一心不乱にクッキーをつつき出した。


「魔王はどうして【赤い星の贈り人】が嫌いなの?」

私はそんな金糸雀を頬杖をついて見守りながら口を開く。

食べ物に夢中になっている目の前の黄色い小鳥はかなり愛らしい。


「魔王は贈り人には手を出してはいけない決まりがあるの。面倒だから近寄りたくないはずよ」


金糸雀が説明してくれた話によれば・・・

この世界に多大な影響をもたらす、聖女と並ぶ稀有な存在である【赤い星の贈り人】は女神の愛し子である。女神の選んだ特別な存在に手を出すという事は・・・神側を敵に回すのと同じ。

つまり・・・神VS魔王の大戦に発展してしまう事案らしい。


神と魔王が戦争って・・・!

【赤い星の贈り人】ってそんな重要なポスト!?


・・・あれ?

()()()()は良いの?クラウンにはかなり挑発的な事されたけど」

「あの子は・・・馬鹿だから。あなた達を驚かせて遊びたかったんだと思うわ」

金糸雀は首を横に振りながら苦笑いを浮かべた。


クラウンめ・・・。


魔族達が私を傷付けたり殺したりするのはアウトだ。

但し、魔物は知能が低い為にその中には含まれない。仮に魔物に私を害された場合は、管理者である魔族が責任を負う事になる。

私の場合は特殊な能力を持っているのが分かっていた為に、《大丈夫》だと踏んだ金糸雀が放置してたって所なのだろう・・・。まあ・・・チートさんのお陰で大丈夫だったけどさ!!


・・・話が大きくなり過ぎていて、大切な事を聞き流してしまった。

『贈り人には手を出してはいけない決まりがある』

さて、その決まりはどう魔王に伝えられたのか。

それは・・・魔王が神や女神とコンタクトが取れるという事にならないだろうか?


どうにかして神達と接触する事が出来れば、和泉の両親達にもコンタクトが出来るのではないだろうか?

和泉(わたし)は残してきてしまった家族に伝えたい言葉がある。

それが叶うかもしれない。

私は両手をギュッと握り締めて前を見据えた。


「金糸雀。明日の朝・・・お兄様達が王都に出発したら行向かおうと思うの」

「分かった。私も行くわよ」

「良いの?どうなるか分からないよ・・・?」

「大丈夫よ。魔力が封じられた私に出来る事なんて少ないけど、あなたに死なれたら私が困るもの。美味しい物が食べられなくなるのは嫌よ」

上目遣いで様子を伺う私に向かって金糸雀は足を上げながら【籠の鳥】の腕輪を見せつける様にする。


「うん。じゃあ、よろしくね」

私は笑いがら、腕輪の付いた金糸雀の足と握り拳を突き合わせた。

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