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チョコレート革命➀

ダンジョン攻略から一週間。

私は自室のベッドの上でゴロゴロと転がっていた。


ダンジョンが消滅するまで後三週間位。

消滅したのを見届けるまでは、安心する事は出来ない。


しかし・・・この間は特にする事がない。


今日に至ってもするべき用事は全て済ませてしまっている為・・・私はとても暇だった。


・・・何か新しい物でも作ろうかなぁ・・・。

ボーッと天井を見つめていると、視界の隅から黄色い物が写り込んできた。


金糸雀カナリアである。


金糸雀は、アヴィ家の裏山にあったダンジョンのマスターであり、何と魔王の娘でもあるのだ。

そんな彼女は現在、黄色の小鳥姿となってアヴィの邸に住んでいる。

金糸雀が私の側にいるのは・・・メイ酒漬けアイスクリームや美味しい食べ物が目当てなのだ。


私部屋の中を自由に飛び回る金糸雀は、ベッドに転がる私の顔の横辺りに舞い降りた。


「今日は何を作ってくれるのかしら?」

尋ねてくる金糸雀へと、私は横になったままの状態で視線だけを彼女に向けた。


「何が良いかな?昨日は、フルッフのアイスサンドだったよね」


【フルッフ】とは、ワッフルの様な形をしたパンケーキだ。

甘いカリふわなパン生地の間にアイスクリームと甘酸っぱい果物を挟んだ、フルッフのアイスサンドを昨日はデザートとして用意をした。


王都でフルッフを食べて以来、フルッフにはアイスクリームが合うと思っていた。

そんな期待を裏切る事なく、想像以上に美味しい組合せだった。

お兄様も大満足だった様なので、直ぐに再リクエストがくるだろう。


因みにフルッフのパン生地は、愛娘大好きスケさんに教えてもらって私が作った。



「あれも美味しかったわね・・・。私はシャルロッテが作る物なら何でも良いわ」

金糸雀は嬉しそうな顔をして、小さな頭を傾げてみせた。


普通の小鳥の姿をしているというのにも関わらず、金糸雀の表情は驚くほどに豊かである。



・・・ふむ。

ここはそろそろ、()()を作る時なのかもしれないが・・・その肝心の物を私はまだ見た事がない。


しかし!!【叡智の悪魔】である金糸雀がここにいるのだ!!


という事で、長命で知識も豊富な彼女に相談してみる事にした。


私が欲しい物は【カカオ】だ。

お酒の次にチョコレートが大好きだった和泉(わたし)としては、そろそろ我慢の限界に近い。


冬場は必ずといっても良いほどに作って飲んでいたホットチョコレート。和泉はそこにほんの少しだけブランデーを入れて、大人ホットチョコレートにして楽しんでいた。

記憶を取り戻した今、冬を越える為にも是が非でも欲しいのだ。

アルコール分を飛ばせばシャルロッテでもいけるはずだしね!!


私の知る限りでは、この世界にチョコレートはない。

つまり、作るしかないのだ。

その為にもどうしてもカカオが必要になる。


一度チョコレートを作ってしまえば、色々な物に使えるから便利だという思惑もあるけどね。


今までの経験上、類似品かそれに近い物がこの世界のどこかに存在していてもおかしくない。

問題はそれがどこにあるか・・・だ。


瞳を閉じて暫く考え込んでいた金糸雀の瞳が、ゆっくりと開いた。


「見つけたわよ」



魔力を封じられてはいるものの、弟である【道化の鏡】とだけはシンクロする事が可能らしい。どうやら二人で一緒に探してくれていたらしい。


・・・仕方がないから、チョコレートが出来たら道化の鏡にもあげよう。仕方ないからね!

大事な事だから二回言ったよ!!

リカルド様に化けた事をまだ根に持っているのだ。私は。


・・・まあ、それは一旦置いておこう。



それよりも今は待望のカカオの方だ。

カカオは何と!!

《《アヴィ家の厨房》》にあるのが分かった。


これは何という偶然か。

偶然にしては出来過ぎている気がするが・・・考えても答えは出ないだろうから気にしない事にしよう。



早速、金糸雀と一緒に厨房へと向かった。



******


トントン。


「失礼しまーす」

扉をノックしてから、厨房の中にひょっこりと顔を出した。


「あ、シャルロッテ様。いらっしゃいませー」

私を見つけてニコリと笑ってくれたのは、魔術の使える料理人であるノブさんだ。

デザート担当のひょろっと細長い青年である。


「また何か作るんですか?」

「はい。その前に、探してる物があるんですけど・・・」


私はカカオ豆の特徴を思い付く限りに次々とノブさんに説明した。


「んー・・・豆・・・ですか」

ノブさんは眉間にシワを寄せながら、腕を胸の前で組みながら考え込んでいる。


早く!早く!思い出して!

と、急かしたい気持ちを堪える。

焦らせてしまったら、思い出すものも思い出せなくなってしまう。


宿題の漢字を頑張って思い出そうとしている様な姿にも見えるノブさんを、私は生暖かい眼差しで見守っていた。


「あ、そういえば!」

ノブさんがポンと小さく手を打った。

何かを思い出したらしい。


「半月ほど前に、行商から仕入れた調味料の中に、お嬢様がおっしゃる物に近い物があったかもしれません!いまいち使い方が分からない物だったので、料理長が一度だけ試した後は食料庫に置きっ放しになっている・・・()()かもしれません!ちょっと待ってて下さいね!」

ノブさんは食料庫の方へと駆けて行った。


「あの料理人は魔術が使えるのね」

私の肩に止まっていた金糸雀が、ノブさんの背中を見ながら言う。


普通の鳥なら厨房はアウトだが、アヴィの邸に住んでいる皆は、金糸雀が普通の小鳥ではない事を知っている為、咎める者はいない。


「・・・分かるの?」

「ええ。魔術を使えるほどの魔力持ちは、身体の周りに色が浮き出て見えるの」

「へー!」


それは、所謂(いわゆる)オーラみたいな物だろうか?


「あの料理人は一般的な青。・・・シャルロッテは、赤に金色の縁取りの珍しい色をしているわよね」

私をジッと見つめながら、意味ありげな微笑みを浮かべる金糸雀。


もしかして・・・気付いてる?

私が【赤い星の贈り人】な事に・・・。


魔力を封じられているはずだというのに、金糸雀の能力は全く底が見えない。


「金糸雀・・・」

金糸雀の言葉の真意を聞こうとした所で、ノブさんが戻って来てしまった。


うーん・・・タイミング。


「ありましたよー!」

走って取って来てくれたノブさんは、少し息を切らしながら白い布袋を広げながら中を見せてくれた。


金糸雀には色々聞きたい事があるが・・・。

取り敢えずは、目の前にある目的の物に専念する事にしよう。

聞きたいならば、後で聞けば良いだけだ。


私はノブさんの広げる白い袋の中を覗き込んだ。


「これが・・・?」

「はい。【ココの実】というのだそうです」


私は白い袋の中から、ココの実を一粒取り出した。


茶色と緑が混じった様な色をした実であった。

カカオの実と違うのは、形が真ん丸な所・・・な?

実を上下に振ると、カラカラと可愛い音が中から聞こえた。


私とノブさんがココの実を手に取って眺めていると・・・


「シャルロッテ様・・・ソレを使うのですか?」

「ソレは食えたもんじゃないですよ?」


最近、髪が薄くなってきた事が悩みの最年長の料理長のカクさんと、『娘は目に入れても痛くない』と公言している愛娘溺愛中のスケさんが近付いて来た。


「大丈夫です!ココの実は全部使っても構いませんか?」

「全部ですか!・・・いえ、構いませんよ。残念ながら私では手に負えませんでしたから」

「カクさんは調理してみたのですよね?」

「はい。聞いたままの調理方を試したんですが・・・やたら時間は掛かるし、苦いしで散々でした」


料理長の腕を持ってしても散々とは・・・。


ってあれ・・・?『聞いたままの調理方』?


「因みに、どんな調理方法をしたのですか?」


カクさんが聞いた調理方法は、私の知るチョコレートの作り方にとても良く似ていたが、聞いた限りでは甘味料を一切入れていない。

それでは苦いのも当たり前だろう。


この調理方で作った物を【ココトート】と言う。遠く南の小国の伝統的な食べ物なのだと行商の人が言っていたらしい。

響きは凄く『チョコレート』っぽいのだが・・・甘味料を加えていない事を考えると、恐らくは薬として使われている物なのかもしれない。


チョコレートには、血圧低下、動脈硬化防止、老化防止、虫歯予防等の効果があるらしいからね。


話してる内にその味を思い出したらしいカクさんは、苦虫を噛み潰した様な凄い顔をしていた。


機会があれば、いつか現地に行って本場の【ココトート】を試してみたいな。




「・・・さて、作業に取り掛かりますか」

私は自分専用の白いエプロンを身に付けた。


本日の見学者はカクさん、スケさん、ノブさんに金糸雀だ。

四人は、私の正面に回り込むと、私の手元へと注目を始めた。

修正が終了しました(>_<)

すみませんでした。

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