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ダンジョン➃-5

「あげたら良いんじゃない?」

軽ーくそう告げたのはニコニコと笑うお兄様だ。


思わずといった様に金糸雀がハッと顔を上げる。


「シャルロッテの作るアイスクリームはこの世の食べ物の中で一番かと思える位に美味しいよ?」

「た、食べたいです!!」

「んー、あげても良いんだけど・・・」

お兄様は瞳を細め意味深な含ませながら、金糸雀を見下ろしている。


「な、何でもします!!」

お兄様の足元にすがり付く金糸雀。


「じゃあ、君の知ってる情報を全部教えてくれる?」

「はい!喜んで!!」

金糸雀は敬礼をしそうな勢いで即答した。


・・・それで良いのか。魔王の娘よ。


まるで、薬物の依存者と提供者の様な会話になってるけど・・・。

ドライフルーツが入ったアイスクリームをあげるかどうかの話だからね?!


・・・我が家の魔王様(おにいさま)が、ヒールっぽい事すると、とても似合ってしまうのが恐ろしいのだが・・・。


私はそんな二人のやり取りが終わるまで、ミラ達と共に黙って見続ける事にしたのだ。

怖くて余計な事なんて言えないからね!



「はい。どうぞ」

「これが・・・夢にまで見た・・・!」


夢に見たんだ・・・。


特別な時に食べようと思って、コッソリ隠していた私の大事なメイ酒漬けアイスクリームをお兄様が強制的に私から奪い・・・金糸雀に手渡した。


私の大事なアイス・・・。ぐすん。


アイスクリームを与えられた金糸雀は、一口、一口と感激した様子で口に運んでいる。

魔物でも美味しいと思える味の様だ。


そんなこんなで、魔王様(おにいさま)が引き出してくれた情報を纏めると・・・


やはりこのダンジョンは地下十階が最終階層だという事が分かった。

ダンジョンの支配者(マスター)である金糸雀が倒されるか、或いは、ここから金糸雀が立ち去った後、一ヶ月間ほど戻らなければ、自然にダンジョンが消え失せる仕組みになっているらしい。


そういう事ならば、一刻も早く金糸雀をここから連れ出したい。そうすれば、スタンピード回避になるはずだから。

その為にも、余裕を持って一年位は金糸雀を手元で抑えておきたい所だ。


今は、メイ酒漬けアイスクリームに夢中になっている金糸雀だが・・・彼女は魔物だ。

しかも魔王の娘で知能がかなり高い。

約束を反故にした金糸雀が、急に牙を向かないと誰が保証出来るだろうか?

監視を兼ねて、アヴィ家に置くのは良い。

しかし・・・【叡智の悪魔】を側に置く事での弊害は果たしてないのだろうか?

怒った魔王が攻めて来たりしない?



プニッ。

一人で黙って思案していた私の頬をお兄様がつつく。


プニッ。プニッ。

また二度、頬をつつかれた。


「・・・お兄様?」

人が真剣に考え事をしているというのに、この人は・・・。


「可愛い顔が台無しだよ?シャル」

こちらはお兄様を睨み付けているというのに、本人はケロッとしている。いつも通りに微笑むお兄様。


誰のせいですか・・・。


お兄様を更にジロッと睨むと・・・


「シャルロッテ!あのアイスクリーム美味しかったわ!凄く凄ーく!!・・・もうないの?」

空気を全く読まない金糸雀が乱入してきた。



「ありませんよ」

「そう・・・」

「・・・そんなに美味しかったのですか?」


シュンと眉を下げ、悲しそうな顔をしている金糸雀に向かって、私は素朴な疑問を投げ掛けてみる事にした。


「ええ。こんなに冷たくて甘くて・・・美味しい食べ物は初めてだわ!」

「・・・アイスクリームを毎日あげるって言ったらどうしますか?」

「アイスクリームを?それは勿論、貴女に服従するしか・・・って。ああ!あなたは私が約束を違えたりしないのかが心配なのね?」

「えっ!?」

核心を突かれた私は、思い切り驚いた顔をしてしまう。


・・・うっ。油断した。


そんな私をクスクスと笑いながら見ている金糸雀は、胸の谷間から一つの腕輪を取り出して見せた。

金色に輝く腕輪には、蔦や鳥等の綺麗な細工が施されており、見ているだけでも楽しくなりそうなのだが・・・。


しまう所そこ?!

そう、突っ込みそうになったのは許して欲しい。

よくありがちな展開が目の前で見られるとは・・・。けしからんお胸が羨ましい。

ツルペタにそんなしまえる所なんてないもんね!?



「これは・・・?」

「あなたに【飼われてあげる】って言ったのは何も口約束だけの話じゃないのよ?」

首を傾げる私に、金糸雀は丁寧に説明をしてくれる。


これは【籠の鳥】と言う、魔封じの腕輪だそうで、その名の通り腕輪をはめた者を鳥に変化させてしまうらしい。

この腕輪は、《本人が死ぬ》か《腕輪をはめた者に外してもらう》又は《腕輪をはめた者が死ぬ》という、三パターンで外す事が可能だそうだ。

つまり、うっかり自分ではめてしまえば、死ぬまで外せずに鳥のまま。

他者にはめてもらう・・・従僕関係であれば本人が死ななくとも外す事が可能なのだ。


腕輪がはめられている間は、魔術が使えなくなる。元々魔力の高い者ならば話す事は出来るが、魔力の低い者は本物の鳥の様に鳴く事しか出来ない。

誰が何の為に作ったのか・・・。怖い腕輪である。


「本当はあなたを捕まえて、私のペットにしようと思ってたのよ?・・・って、そんな顔しなくてもしないわよ。『思ってた』って言ったじゃない!」

金糸雀は苦笑いを浮かべる。


「あなたから魔力を奪って籠の鳥にするよりも、私が鳥になって付き従いながら、あなたの見る世界を一緒に見た方が面白そうだと思ったのよ。どうせ人間の寿命なんて百年位なんだから。私達からすればそう長くもない年月だし・・・。どう?これで安心した?」

首を傾げながら金糸雀は楽しそうに笑う。


「見返りは、メイ酒漬けアイスクリームか、美味しい食べ物でも良いわよ」


見返りが食べ物か。

これで金糸雀を拘束出来るなら、願ったり叶ったりだが・・・。


「こ腕輪が信用出来ないのであれば・・・そうね。そこの坊やに鑑定してもらったら?」

金糸雀は視線でミラを指した。


ミラが鑑定を使えるのも知っている・・・か。


「・・・鑑定しようか?」

尋ねてきたミラに、私は首を横に振って答える。


「いえ。鑑定は必要有りません」

「そう?じゃあ、これからよろしくね」


微笑む金糸雀から腕輪を受け取った私は、差し出されたほっそりとした左手に、【籠の鳥】をそっとはめた。


腕輪が金糸雀の腕にはまった瞬間・・・

私と金糸雀の周りを黄金の光が包み込んだ。


・・・・っ!!


黄金の光が消え失せた後には・・・

黄色の小さな《《カナリア》》が居た。


「・・・金糸雀?」


「ええ。そうよ。これで信じてくれた?」

黄色の小鳥が小さく首を傾げる。


金糸雀なだけに・・・カナリアって、安易ではないだろうか?


「細かい事を気にするんじゃないわよ」

金糸雀はフフっと小鳥の姿で笑う。


・・・うっ。可愛い。

金糸雀の姿に和んだ私は、異空間収納バッグの中に残しておいた、ドライフルーツ入りのパウンドケーキを手の平に乗せて、金糸雀の口元に差し出した。


「な、何コレ!?美味しいんだけど!」

金糸雀は驚きながらも一心不乱に、パウンドケーキをつついている。


「はぁ・・・。し・あ・わ・せ~」

お腹をポッコリと膨らませた金糸雀は、私の肩に止まって瞳を細めた。


もしかして、金糸雀が小さな鳥になりたがった理由って・・・。

小さな鳥なら少量でも、大好きな物をお腹いっぱい食べられるという食い意地からじゃないよね・・・?


私が意味深な視線を金糸雀に送ると、その視線の意味に気付いたのか金糸雀は、小さく首を傾げながら『テヘッ』と小さな小さな舌を出して笑った。

その左足には、金色に輝く小さな輪っかがはめられている。




・・・色々あったけど。


「ダンジョン攻略完了ー!!!」

私は大きく背伸びをした。



「シャルロッテ、お疲れ」

「シャルロッテ様。お疲れ様でした」

安心した様な笑みを浮かべるミラと、サイラスに、私は深く頭を下げた。


「二人共、本当にありがとう。そして、お父様も皆さんもお疲れ様でした」

そして、お父様達にも頭を下げた。


お父様とリアの面々は、しおらしい私の姿に違和感でも感じたのか・・・途端に険しい顔でヒソヒソ話を始めた。


・・・感じ悪いと・・・また凍らせるよ?

ニッコリ笑うと、お父様達の背筋がピーンと伸びた。


「「「「お疲れ様でした!!」」」」

斜め四十五度の角度に皆が揃って頭を下げる。


うん。挨拶は大事よ?



私達は地下十階層から転移魔法を使用して、ダンジョンからアヴィ家の玄関まで一気に戻って来た。


本日はこれで解散だ。

また一ヶ月後に調査をする事が決まった。

その時に、ダンジョンが消滅したのを確認出来たら、この探索チームはそこで本当に解散となる。


最終日には、ご馳走を用意して・・・皆で祝うのも良いかもしれない。そう私は決めた。



余談だが・・・

別れ際にサイラスが、アヴィ家の執事であるマイケルに弟子入りしようとしたのを止めるのが、なかなかに骨が折れた・・・。

・・・勘弁して欲しい。良いから早く辺境に帰りなさい。


そして、アヴィ家のお父様の書斎に【道化の鏡】が壁に掛けられた。

まるで、白雪姫に出てくる魔法の鏡の様な圧倒的な存在の鏡は、お父様と一緒になって、私に対する愚痴や悩み相談を日常的にしているそうだ。

へぇー・・・。そうか。そうか・・・。


小さな小鳥の姿で私の側にいる事を選択した【叡智の魔女】の金糸雀は、気が向いた時に、人生のノウハウを私に語りながら、美味しい物を堪能し続けた。

そんな幸せそうな金糸雀を見ていたら・・・魔王の娘なのも忘れ、私自身も充分に癒されてしまった。


こうして我が家には、二人の魔物が仲間入りしたのであった。

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