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ダンジョン➃-4

と・・・何とも微妙な流れで、地下十階層を目指している私達。


所謂(いわゆる)、ラスボスがいる階なのだから、気を引き締めないと危険だ。

相手は【叡智の悪魔】であり、【終焉の金糸雀】とも呼ばれる魔物なのだから。

ここで私達の命運が別れると言っても決して過言ではない。



そんな深刻な状況のはずなのに・・・。


今までは、お父様達が前衛で、私やお兄様達は後衛だった。

しかし、現在は前衛と後衛の立ち位置が逆になってしまっている。

それは何故かといえば、道化の鏡と和やかに話すお父様達のせいである。


「ここを出たらうちに来ると良いよ」

『マジすか!』

「うん、歓迎するよ」

『うわっ!マジ嬉しいっす!』


・・・・・・。


おい、現アヴィ家当主(おとうさま)

そんなに軽くて良いの・・・?

相手は、油断したらパクリと飲み込まれる鏡なんだよね?!


お父様と道化の鏡は和やかに話しているけど、穴から救出された時よりも多少大きくなった道化の鏡は、相変わらずロープでグルグル巻きにされているし・・・しかもリアのメンバーにズルズルと引き摺られている状態だ。

階段降りる時なんて、段差でガッコンガッコン上下してたからね?!よく割れなかったね?!


「お父様達だからねー」

お兄様は瞳を細めながら、チラッと横目でお父様達を見た。


府に落ちないが、それだけで説明が済んでしまうのが腹立たしい・・・。


まあ・・・お父様に何かあっても、お兄様がいるから良いか!うん!


私はモヤモヤして気持ちを吹き飛ばす為にポジティブに考える事にした。



そんな一部の間で、和やかな雰囲気を醸し出していた私達一行が、地下十階に足を踏み入れると・・・・・・



「遅い!!」


闇色の髪に・・・瞳孔の縁が金色に見える不思議な闇色の瞳を持ち、メリハリのある身体は透けるように白い肌をしていた。

スリットの入った、サラリとしたシルクの様な光沢のある真っ赤なロングドレスを纏っている美女?が腕を組み仁王立ちの状態で立っていた。


見た目は二十代半ば位に見えるが、魔物だから実際の年はもっと上だろうか。

・・・おばさんではないな。

お祖母ちゃんよりもっと上の・・・曾祖母ひいばあちゃん(?)な女性が金糸雀カナリアなのだろう。


「・・・なっ!?あんた失礼ね!!私を【曾祖母ちゃん】なんて呼ばないで頂戴!!自分がちょっと若いと思って・・・!!」

真っ赤な顔で憤慨する金糸雀。


えっ?

まさか・・・金糸雀は心が読める魔物なの?


私は瞳を丸くしながら首を傾げた。


「シャルロッテ・・・全部口に出してたよ」

ミラが呆れ顔で言う。


なんですと・・・!?

やっちゃったね!テヘッ。


「この状況でそれが出来るなんて・・・シャルロッテの強靭な心臓が羨ましいよ」

ハァーっと深い深い溜息を吐くミラ。


「そこも魅力的ではないですか。やはり若いあなたには、シャルロッテ様の魅力は伝わってないのですね」

サイラスはフフンと挑発的な笑みをミラに向けた。


「はあ?伝わってるし!シャルロッテは基本的に猪突猛進で、気遣いが斜め上なんだ!発想は奇想天外で意味不明だし!」

そんなサイラスにミラは食って掛かった。


・・・ミラ。それは褒めてるの?貶してるの?


「お人好しで、どうでも良い事でも放っておけなくて、自分の許容範囲を越えていっぱいいっぱいになって泣きそうなのに、馬鹿みたいに必死になって・・・!」


ば、馬鹿みたいに・・・って!

ミラ。やっぱり貶してるよね!?


「へえ。ちゃんと分かってるのですね」


サイラス?!

わ、分かってる・・・って、私そんななの?!

ふ、ふーん。

・・・二人は私の事をそんな風に見ていたのか。良いんだけどね!?

本当は構われたくないんだから、二人にどう思われていたって良いんだからね!


・・・傷付いてなんてないんだから。


「はいはい。ストップ。その辺で止めないと怒るよ?」

お兄様はミラとサイラスの間に割って入り、二人の首を私の方に向けた。


「「あ・・・」」

不機嫌に頬を膨らませている私に気付いた二人の瞳が極限まで見開かれた。


「シャルロッテ!・・・違っ!」

「そうです!私達が言いたいのは・・・!!」

慌てた様子のミラとサイラスは私の両隣に来て、揃ってワタワタと弁解を始めた。

二人はまるで阿波踊りをしているかの様な動きだ。私はそんな二人をただ黙ってジトッとした目で見ていた。


そんな時。

「・・・あんた達。揃いも揃って、良い度胸してるわね?」


私達に流れていた微妙な空気をスパッと切り裂いたのは、今まで一人で放って置かれていた仁王立ちの金糸雀だった。


「私は無視されるのが嫌いなのよね」

金糸雀は眉間にシワを寄せ、腕をギュッと組んで胸元を強調させる様にしながら身体を反らした。


・・・金糸雀の存在を忘れてた。マズイな・・・怒らせたかな。


背中に冷たい物が伝うのを感じながらも、つい気になってしまうのは・・・金糸雀の豊満な胸元だ。


・・・羨ましい。

私のお胸はツルペタを卒業した位の慎ましさである。


「だ、大丈夫よ!あなたはまだ若いんだから!ね?!あんた達もそう思うでしょ?!」


シュンと眉を下げ、金糸雀の胸元と自分の胸元を見比べて大きな溜息を吐いた私に、何故か金糸雀がフォローし出した。


『あんた達』と言われた面々を見やれば、さっと視線を逸らされた。

ミラとサイラスの顔が赤いのは気のせい?


・・・それよりも気になるのはお兄様だ。

爆笑って酷くないですか!?

お兄様は一人だけお腹を抱えて笑っている。


もー!暫く口を聞いてあげないんだから!!

私はぷぅっと頬を膨らませた。



「あーもう!ホント、調子が狂う娘ね・・・」

私達のやり取りを見た金糸雀は、呆れた様に溜息を吐いた。


「で?あんたはそっち側に付いたのね?」

金糸雀は横目で道化の鏡を見た。

見られた道化の鏡は、ダラダラと汗を流し始めた。


「・・・ごめん。姉さん」

ふいっと気まずそうに目を逸らしながら呟く道化の鏡。


って・・・『姉さん』だと?!


「道化の鏡とは・・・姉弟なの?」

私は道化の鏡と金糸雀を交互に指差す。


「ええ。正真正銘の弟よ。私達は魔王の子供よ」


『正真正銘の弟』は納得しても・・・。


【《《魔王の子供》》】って!!

これって、サラッと流して良い話(汗)?


魔王・・・って、彼方(ヒロイン)達が最終的に倒す予定の《《あの魔王》》だよね!?

それが、金糸雀達の父親だと?!


「どうしようかしら。貴女と戦っても私の方が少し部が悪いのよねぇ・・・」


私の動揺に気付いてるのか、いないのか・・・。

金糸雀は人差し指を唇に当て、瞳を細めながら私をジッと見ている。


「そうだ。私、あなたにお願いがあるのよ」

金糸雀は蠱惑的な笑みを浮かべ、フラッと私に向かって近付いて来る。

お兄様達が私を庇おうとするのを押し留め、私も一歩前に出た。


「・・・何でしょう?」

万能結界を強化し、身構えながら答える。


すると、私の目の前にまで来た金糸雀が、急に姿勢を低くしたかと思えば・・・


「お願い!私にメイ酒漬けドライフルーツの入ったアイスクリームを食べさせて!!」


そう言って、頭を床にくっ付けながら土下座をし出した。


はい!?

私は絶句した。・・・何なんだこの状況は。


しかも・・・メイ酒漬けのアイスクリームって。どうしてそれを知っている?


「どこでそれを・・・?」

「実は、あなた達がこのダンジョンに初めて来た時から、弟を通して()()()()()()()()()()()のよ」

金糸雀は正座の状態で私を見上げた。


・・・はい。ストーカー発言入りました!


「・・・ダンジョン内での規格外の魔術や、エルフの里での復讐劇・・・。私には手に追えないと思い知ったわ」

金糸雀は、どこか遠くを見る様な虚ろ気な表情を浮かべる。

そんな視線が、現実世界の私の方へ戻って来たと思ったら・・・


「ねえ!私を()()()良いから・・・!!私にアレを頂戴!!そしたら、私はあなたに永遠の忠誠を誓うわ!・・・お願いよ!!」

そうしてまた土下座をしながら額を床に擦り付けた。


取り敢えず・・・。

メイ酒漬けのアイスクリームは依存性のある薬物じゃないからね?!

これだけは声を大にして言いたい。



・・・それに、色々突っ込みたい所もある。


【叡智の悪魔】であり、【終焉の金糸雀】である金糸雀を《《飼う》》って・・・。

魔王の娘だよ!?その娘って飼えるの?!

いや、まあ、既にお父様のせいで息子の道化の鏡の方はアヴィ家に住むことが決まってるけどさ・・・。


困惑した私はお兄様達の助言を得ようと、クルリと後ろを振り返った。


背後に控えていたる面々は・・・

これまたお兄様とサイラスだけがニコニコ笑顔で、その他の皆は瞳を見開き、口をあんぐりと開けた状態で硬直していたのだった。

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