表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/213

夢③

残酷なシーンがあります。

ご注意下さい。

ここに確か・・・・・・!


力任せに本棚を動かそうとするものの、ビクリとも動かない。


「ルーカス、どうした・そこに何かあるのか?」

カイルが近付いてくる。


カイルが父の友人であっても知らないのは無理もない。

ここにあるのは、アヴィ家の一部の人間しか知らない秘密の通路なのだから。


「ここに隠し通路があるんだ!」

「隠し通路だって?」

ルーカスの言葉に、カイルは目を丸くして驚いている様だ。


「これが動かないという事は・・・・・・中から鍵が掛かってる!!」

ルーカスはハッと弾かれた様に踵を返して、書斎から駆け出した。


シャルロッテはあそこにいる!!




ガサガサと庭の横の茂みをかき分けながら進むルーカスは、少し開けた場所に見知った姿が横たわっているのを見付けた。


「・・・・・・マイケル!?」

駆け寄ると、執事のマイケルが血だらけで倒れていた。


近くには三体の魔物の死骸が転がっている。


まさかこの魔物と戦ったのか・・・・・・!?


マイケルの片眼は抉られ、顔面は真っ赤に染まっていた。

心臓に耳元を近付けると、凄く弱いが・・・・・・鼓動が聞こえた。


「マイケル!マイケル!?しっかりするんだ!」


何度目かのルーカスの呼び掛けで、マイケルがピクッと小さく反応した。

口元が微かに動いて何か言葉を紡いでいるが・・・・・・小さ過ぎて聞こえない。


口元に耳を寄せると

「ル・・・・・・カス・・・・・・さ・・・・・・ま。すみませ・・・・・・ん。だんなさま・・・・・・やくそく・・・・・・かなえられな・・・・・・た」


今にも死んでしまいそうだというのに、マイケルは父との約束を気にしている様だ。

執事(マイケル)の忠心に涙が滲む。


「もう、大丈夫だ。陛下が騎士団を貸して下さった。だから、今は安心して眠ってくれ!」

ルーカスは一筋の涙を溢しながら、マイケルに向かって回復の呪文を唱えた。

翳した手が光に包まれる。


失った瞳は戻す事が出来ない。だけど傷は塞がった。

弱っているが、ゆっくり静養すればマイケルはもう大丈夫だ。


一人だけでも間に合った事にホッと安堵する。



そして、彼がここに居たという事は、間違い無くシャルロッテがあそこ居るという証になる。


マイケルが父とした約束。

それは多分、シャルロッテの事。


マイケルはシャルロッテを安全な所に隠した後、助けを呼びに行こうとした。その時に、あの魔物に襲われたのだろう。

マイケルの片眼が失われた頃に父の魔術が作動し、深手を負いながらも命は助かったのだ。

よく・・・・・・無事でいてくれた!


マイケルの身体をゆっくりと木の根元に移動させ、周りの安全を確保したルーカスはシャルロッテの待つ場所へと駆け出した。





辿り着いたのは、隠し通路の出口。


少し錆び付いた重い扉をゆっくりと動かす。

太陽の光が差し込み、暗い通路を照らし出す。


「シャルロッテ!!」


扉の直ぐ近くにシャルロッテが見えた。


呆然と座り込んだまま動かないシャルロッテ。


駆け寄って、ケガが無いかを確かめる。


服は汚れているが大丈夫そうだ。

「・・・・・・無事で良かった!」

ルーカスはシャルロッテを力一杯抱き締めた。

腕の中にある愛しい妹の体温を実感したルーカスは潤む瞳を止められなかった。


「・・・・・・おに・・・・・・いさ・・・・・・ま?」

ルーカスの背中にそろそろと両手を伸ばしてくるシャルロッテ。

そんなシャルロッテをルーカスは更に強く抱き締めた。


「そうだよ!一人にしてごめん・・・・・・。もう・・・・・・大丈夫だから」


「お、お兄様・・・・・・!!」


ルーカスに抱き付きながらシャルロッテは大声で泣いた。

大きな瞳が溶けてしまいそうな程にボロボロと涙を流して泣き続けた。


暫く泣き続けていたシャルロッテの身体がふと、重くなった。

どうやら、泣き疲れて意識を失ったらしい。

眠る妹を横抱きに抱え上げたルーカスは扉の外へと出た。


意識を失ったシャルロッテは、そこから丸二日もの間、眠り続けた。



シャルロッテが目覚めた時には、両親や邸の使用人達の合同葬儀の日になっていた・・・・・・。


「お父様・・・・・・お母様・・・・・・マリアンナ・・・・・・みんな!!」

両親の死に顔を見たシャルロッテは泣き崩れた。

たくさんの棺を前に、シャルロッテの涙は止まる事が無かった。


「・・・・・・ごめんなさい。私なんかが・・・・・・生き残って・・・・・・ごめんなさい!!」

焦点の合わない瞳で壊れた様に泣き続けるシャルロッテをルーカスは黙って抱き締める事しか出来なかった。


ルーカスはシャルロッテを抱き締めながら、両親の棺を見つめ・・・・・・亡くなった両親の分もシャルロッテを愛すると決めた。

・・・・・・そして、両親や皆の仇を取る為に忌まわしき魔物達を殲滅させると心に堅く誓ったのだ。



『どうか幸せになって』『あなた達を愛してる』

母の最期の言葉はルーカスに伝えられる事はなかった。

歪んでしまったシャルロッテと、復讐に意味を見出だしてしまったルーカス。



二人は破滅へとカウントダウンを始めた・・・・・・・・・・・・。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ