お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

揺れる想い➁

庭園に辿り着いた私とリカルド様はそのまま庭園の隅にある定位置へと向かった。

リカルド様に先に椅子に座ってもらい、私は座らずにお茶の用意を始めた。

さて、ここに取り出しましたのは、あって良かった異空間収納バッグ！！

白いレースの付いた可愛いポシェットは、今日の服装でも違和感無く使えます！

ポシェットの中から冷え冷えのアイスティー入りのポットとグラスを取り出した。

時間停止機能が付いているので、お茶やお菓子等を常に入れてある。

その為に、こんな急な対応も可能なのだ！ふふっ。

「・・・それは異空間収納バッグ？」

「はい。ミューヘン辺境伯から頂きました」

私は透明なグラスに氷を作り入れ、アイスティーを注ぎながら答えた。

「辺境伯から？」

「はい。ちょっとお孫さんの方と色々ありまして・・・その関係で頂きました」

サイラスの復讐の手伝いをした件の迷惑料だとは・・・・・・言い辛い。

「孫・・・ってサイラス？彼にも会ったの？」

「はい。リカルド様はサイラス様とお知り合いですか？私は最近お兄様に付いて行った王都で、初めてお会いしました」

「年が一緒だから、特に仲が良いわけではないけど交流はあるよ」

眉間にシワを寄せながら、何かを考える様な素振りをするリカルド様。

・・・何か気になる事でもあるのかな？

グラスにアイスティーを注ぎ終えた後は、シロップ漬けにしていたシーラの花弁を数枚その上に浮かべた。完成したアイスティーをリカルド様に差し出してから、私はリカルド様の正面に座った。

そして・・・話すオーブンこと、【ロッテ】で作ったドライフルーツ入りのパウンドケーキやレーズンクッキーならぬ、《アーマスクッキー》も添える。

『ロッテで作った焼き菓子を恋する相手に渡せば、願いが叶う』

ふふっ。ちゃっかり実行してみましたが何か！？

「私が作りました。どうぞ」

ズイッとリカルド様に薦める。

リカルド様はパウンドケーキを手に取った。

「この中に入ってるのは・・・もしかして、今、人気のドライフルーツ？」

「はい。このお陰で大変な事になりましたけど・・・」

「これもシャルロッテが？・・・ああ、そういえば流行の火付け役はジュリア様だったね」

お忘れかもしれないが、ジュリアは私のお母様の名前である。

私は苦笑いを浮かべながら、アーマスのクッキーを摘まんで口の中に入れた。

んー。サクサクで美味しい。

刻んで入れたアーマスが良いアクセントになっている。

リカルド様はパクッとパウンドケーキを一口で頬張った。

食べやすい様に小振りに切ったが、それを一口で食べられるとは・・・流石、男の人だなと

私は感心した。

「・・・っ美味しい！」

カッと見開かれるブルーグレーの瞳。

リカルド様のお耳はピンと立ち、尻尾は機嫌良さそうに左右に揺れている。

「アイスティーも冷たい内にどうぞ」

・・・良かった。笑ってくれた。

早くも願いが一つ叶った。

私は大好きな人達には笑顔でいて欲しいのだ。

これは美味しいお菓子を焼いてくれたロッテのお陰だろう。私は心の中でロッテに感謝した。

「シャルロッテは凄いね」

リカルド様がポツリと呟いた。

・・・え？

キョトンとする私を見たリカルド様は苦笑いを浮かべた。

「新しい物を生み出す君の発想力とそれを実行してしまえる行動力が凄いと思う」

すみません・・・。それは和泉の知識とチートさんのせいです。

「僕はシャルロッテが羨ましい。この一ヶ月でそう思わざるを得なかった。君の教えてくれたシーラのジュースは、僕が思っていた以上に早くもアーカー領で浸透してしまった。君との差を感じさせられた日々だったよ」

「リカ・・・ルド様・・・？」

ちょっと待って・・・。

この先は・・・聞いたら駄目な気がする・・・・・・！

ブワッと嫌な汗が全身から噴き出してくる。

「僕はシャルロッテが好きだ。会う度に君の魅力に牽かれ、どんどん好きになっている。でも・・・駄目なんだ」

リカルド様はギュッと目を瞑った後に、綺麗な透き通ったブルーグレーの瞳を開けて私を真っ直ぐに見た。

「今の僕では君には釣り合わない」

・・・ズキン。

ズキン、ズキン、ズキン・・・・・・。

心臓が痛い。

先程までの幸せな痛みではなく・・・悲しく・・・辛い痛み・・・。

・・・そうか。

私は・・・・・・振られたのか。

まだきちんと今の想いを告げていなかったのに・・・・・・。

ジワッと涙が溢れそうになるのを必死で堪える。

泣いちゃ駄目だ。リカルド様を困らせるだけだ。

それに、シャルロッテは想いを告げられても・・・応えて良いのかって思ったよね？

これは自分が望んだ結果だ。良かったじゃないか。

だから、笑え。涙を見せるな。

あーあ・・・ロッテの噂・・・嘘だったな。

ははっ。残念。

涙を堪え、笑おうとした時・・・・・・

『和泉は俺に涙を見せた事ないよな。お前は強いから・・・俺は必要ないんだろう？だから別れよう』

和泉の記憶がフラッシュバックしてきた。

最後に付き合っていた彼氏に言われた別れの言葉だ・・・。

『・・・そっか。分かった』

私はそれにニコッと笑って答えた。

・・・本当は泣いてすがりたい位に・・・・・・好きだった。

だけど、必死で・・・・・・必死に涙を堪えた。

家族や友達の前では泣けるのに、大好きな人の前でだけは素直に泣けなかったのだ。

強がって、笑顔を作って・・・影で泣いてきた。

だって、泣いたら重いと思われるじゃない？

迷惑かけるし・・・嫌がられる。

私はそれが嫌だった。だから・・・我慢した。

・・・私は決して強かったわけじゃない。

泣き虫で、弱虫だっただけだ。

彼との別れから、私は乙女ゲームにのめり込んだのだ。

現実世界《リアル》に疲れ、自分に優しい非現実世界《バーチャル》にのめり込んだ。

私はせっかくシャルロッテに生まれ変わったのに、また同じ事を繰り返すの？

このまま・・・『だったら・・・仕方ないですね』なんて、本音を隠して強がるの・・・？

でも・・・・・・