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揺れる想い➀

最後にリカルド様に会った日から間もなく一ヶ月が経とうとしている。

この一ヶ月間はあっという間だった様な・・・長かった様な・・・。


色々な事があったが・・・やはり私の胸の中の大半を占めているのはリカルド様との事だ。


「また直ぐに君に会いに来るから」

リカルド様は別れ際にそう言って私を抱き締めてくれ・・・


「余所見しちゃ駄目だから・・・ね?約束」

と、私の頬にキスを落とした。



・・・何度思い出しても軽く気絶出来るという、なかなかに衝撃的な出来事だった。



・・・これって・・・両思いなのかな?

私は何度か自分の気持ちを伝えている。・・・本気とは思われていないかもしれないけど。


ハッキリとリカルド様の気持ちを聞いたわけではない。

『違う』って言われたら気絶する。・・・・・・確実に。

もしも・・・リカルド様に『好きだ』なんて言われたら嬉しくて天にも昇ってしまうかもしれない。


だけど・・・()()応えて良いのだろうか?

と、拭えない不安がまだまだ残っている。


【スタンピード】

これを確実に回避出来なければ・・・例え、リカルド様が側にいてくれても私は心から幸せだとは思えない。

私が今まで頑張って来た事が無意味になってしまう。

私の望みは、自分を含めた、私を取り巻く全ての人の幸せなのだから・・・。

自分だけの幸せなんか望んではいない。


明後日からはまたダンジョン調査を開始する。

ダンジョンの探索も後、地下二階分で終わる予定だが・・・。

今までの魔物とは格段に違う、強い魔物との戦いになる事だろう。


これで本当にダンジョンが全階攻略出来るのか・・・それとももっと下があるのか・・・ダンジョンに潜ってみなければまだ分からない。

ダンジョンを攻略すればスタンピードが起こらなくなると言う確証も得られていないのが現状だ。


一人きりで今後の事を考えると、どうしてもネガティブになってしまう。

この先の見えない不安に潰されそうにもなる・・・。

だけど、()()を乗り切れば『未来』が見える。と、・・・そう自分に言い聞かせ心を奮い立たせる。



・・・なんだかリカルド様に無性に会いたくなってきた。


またお耳と尻尾をモフモフしたいな・・・。

リカルド様の匂いはシーラみたいな良い匂いがして、とても癒される。

あの匂いはアーカー領で作られているシーラの石鹸によるものなのだろうか?

リカルド様と同じ匂いになれる石鹸なら私も欲しい。


ふむ・・・。

シーラの石鹸・・・か。シーラ・・・シーラ・・・シーラ。


・・・そうだ!!良い事を思い付いた。

石鹸は今直ぐには手に入れることは出来ないが・・・だったら・・・!!



私は早速、自室のソファーセットのテーブルの上に道具を広げた。

用意するのはシーラのシロップと、和泉の世界でいう所の【白色ワセリン】だ。

この世界にも白色ワセリンに似た物があり、日頃から潤いを保つ為のスキンケアには欠かせない大事な物なのだ。

私の様な子供は刺激の少ない自然な物を使用し、お母様達の様な大人の女性達は、香りや美肌効果がプラスされた物を使用するのが一般的だ。

その他のスキンケアとして化粧水の様な物もきちんとある。


今回、私が用意したのは、子供が良く使うタイプの刺激のすくない【ナーナ】という物だ。


先ずはシーラのシロップを小さな容器に注ぎ入れる。

それを私のチートさんによって、更に濃縮させるのだ。

肌に使用しても良い様に、肌に影響が出そうな不純物はこの際に全て綺麗に取り除く。


別の丸い蓋付きの容器にナーナを適量取り入れ、濃縮されたシーラのシロップを小さなヘラでナーナに少しずつ混ぜながら練り込んで行く。


これで、あっという間に【練り香水】の完成である。


私は完成したばかりの練り香水を少量だけ指先に取り、耳の後ろと手首に塗り付けた。

香水とは違いふんわりと優しいシーラの香りが辺りを漂う。



・・・うん。リカルド様に包まれている様な感じがする。

私はソファーに深く腰を掛けて目を瞑った。


・・・変態じゃないよ?

恋する乙女です!!ドヤァ。




トントン。

部屋の扉がノックされた。


「はい。どうぞ」

「シャルロッテ様。失礼します」

返事をすると、マリアンナが部屋の中に入って来た。


「あら。とても良い匂いですね」

マリアンナは部屋の中をキョロキョロと見回す。


「うん。【練り香水】を作ったの」

「練り香水ですか!普通の香水よりも優しい匂いで・・・シャルロッテ様に合ってますね」

ニッコリと微笑むマリアンナ。


「ありがとう。それでどうしたの?」

私が首を傾げると、用事を思い出したマリアンナが慌てながら言う。


「あ、そうでした!リカルド・アーカー様がお見えになっています」


・・・リカルド様だと?!


「え・・・嘘・・・本当?」

会いたいと思っているタイミングで、本人が訪ねて来てくれるだなんて・・・どんな奇跡だろう。


「はい。リカルド様のご希望で、玄関ホールにてお待ちです。早くご用意下さいませ」

マリアンナはパチッと片目を瞑り、ウインクする。


「うん!手伝って!!」

急いでドレッサーの前に移動をした。


今日は淡いピンク色のワンピースを着ていた。

・・・服はこれで大丈夫かな?

鏡に写して、シワや汚れ等がないかどうか確認をする。


ドレッサーの前の椅子に座れば、マリアンナが手慣れた手つきでササッと髪を結ってくれる。

淡いピンク色のワンピースに合わせた清楚系の髪型をイメージしたのか、緩い三つ編みのおさげになっている。


「どうですか?」

マリアンナに渡された手鏡で360度髪型を確認をする。


おお・・・!ゆるふわな三つ編みだと、なんとなくだけどつり目が柔らかく見える気がする。

アクセントとして、ピンクの花や蝶を型どった飾りが付いているのが可愛い。


「バッチリ!可愛くしてくれてありがとう!」

マリアンナにお礼を言った私は、逸る気持ちを堪えきれずに返事も聞かずにパタパタと部屋を駆け出した。


淑女たる者、どんな時でも走ってはいけない。

そんな事は百も承知だ。

だけど、そんな事なんか構っていられない!


だって!大好きなリカルド様が私を待っているのだ!

一秒だって惜しい。こんな時は、無駄に広いアヴィ家が恨めしい・・・。


玄関ホールへと伸びる螺旋階段に辿り着くと、私の足音に気付いていたのか・・・透き通る様なブルーグレーの優しい色の瞳がこちらを見上げていた。


「こんにちは。シャルロッテ」

にこやかに微笑むリカルド様。


「リカルド様!お待たせしました。」

急いで階段を降りると、逆に階段を上がって来たリカルド様が私に向かって手を差し伸べてくれた。

そして、階段を降り終えるまでゆっくりとリードをしてくれた。


この然り気無い紳士さ・・・・・・格好良すぎだよ!!



「突然訪ねて来て・・・ごめんね?」

ペロッ舌を出しながら悪戯っ子の様な笑みを浮かべるリカルド様。


・・・私の胸は早くも鷲掴みされた。


「いえ、リカルド様ならいつでも大歓迎です!」

「そう?それなら良かった」


爽やかな笑顔が尊い・・・・・・!! リカルド様大好きだ!!



「一ヶ月振りですね?」

上目遣いをしながら首を傾げると、リカルド様は困った様な顔で笑った。


「・・・どうかしましたか?」


何でそんなに微妙な顔をしてるんだろう?

私はジッとリカルド様を見つめた。


「・・・うん。初めて会った時から可愛かったけど、一ヶ月会わなかっただけで・・・こんなに可愛くなるなんて、これからどんなに綺麗になるんだろうって・・・想像したらちょっと困った」

「・・・え?」

「君の事を好きになる奴が増えると思うだけで・・・妬ける」


ちょっ・・・!?

リカルド様に『可愛い』とか『綺麗』とか言われたら・・・・・・!


「・・・・・・っ!!」

ボンッと大きな音が響いたんじゃないかという位の勢いで、私の顔は真っ赤に染まった。


・・・何でサラッとそういう事を言えちゃうのかな・・・。

私は真っ赤な顔を両手で押さえた。


悶絶しながらのたうち回らなかった私を褒めて欲しい。


しかも『妬ける』・・・って!

・・・冷静になれ・・・冷静になるんだ! 私!!


「・・・・・ありがとうございます。リカルド様もまた背が伸びたのではないですか?前よりもっと格好良くなられてます」

「うん。少しだけ伸びたんだ」

まだ熱を持ったままの頬を押さえながらリカルド様を見ると、リカルド様は嬉しそうな顔をしながらまた私に手を差し出して来た。


「そろそろ。移動しようか?」


え?・・・て、手を繋いで行くんですか!?


「・・・嫌かな?」


嫌なわけがない。


私はブンブンと大きく首を左右に振り、リカルド様の少し大きな手に自分の手を重ねると、少しだけ顔を赤らめはにかんだリカルド様にギュッと手を握られた。


私は今日・・・・・・キュン死するかもしれない。

胸がギュッと締め付けられて息をするのがもどかしい。

全身が心臓にでもなってしまったかの様にドキドキが止まらない・・・。



そんな私は、リカルド様に手を引かれアヴィ家自慢の庭園へと向かった。

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