ブームの後始末④
「で、どうするのこれ?」
お兄様がオーブンをトントンと指で叩く。
現在、私とミラはお兄様からのお説教中である。
「作るなら迷惑の掛からない物にしてくれないかな?」
「・・・はい」
「すみません」
『ゴメンナサイ』
私とミラは頭を下げた。
「全く・・・。シャルロッテだけじゃなくて、ミラもここまでの規格外とは」
《規格外》。
チラッとミラを見れば、ミラは腑に落ちないといった表情を浮かべている。
ミラが否定しても、ミラは規格外なんだよ。
私は内心でフフッと笑った。
仲間だ。仲間。フッフッフー。
「・・・シャル。反省してるの?」
氷点下の微笑みを浮かべるお兄様。
「ごめんなさい・・・魔王様」
『ゴメンナサイ。魔王様』
私はテーブルに頭が付く位まで頭を下げた。
そして、ふと思う。
・・・さっきから、一人分の声が多いよね?・・・と。
頭を少し上げながらチラッとお兄様やミラを見ると、二人は引きつった顔で固まっていた。
「・・・どうしたのですか?」
「シャルロッテ・・・コレが・・・!」
ミラは震えながらオーブンを指差した。
「オーブンがどうしたの?」
「「オーブンが言葉を話した!!」」
そんな馬鹿な。この世界のどこに言葉を話すオーブンがあると・・・
『・・・ミ、皆サン、コニチワ』
ここにあった!!
え・・・?どうして?どうして話せるの?!
『ワタシ、ゴ主人様カラ魔力モライマシタ。ソレデ話セマス』
ええと・・・【ご主人様】は・・・私で良いんだよね?
もしかしなくても、私から抜け出たという透明な私のせいだよね。これって・・・。
混乱している私の代わりに、お兄様がオーブンと話し始める。
「君には・・・感情があるの?」
『感情ハ少シダケ有リマス。知能モ有リマス』
「へえー。それは凄い」
最初は引いていたお兄様も関心を持った様だ。
「・・・凄い!しゃべる魔道具なんて初めて見た!」
興奮したミラは、オーブンを隅から隅まで眺め始める。
どうやら、開発者のスイッチが入ったらしい・・・。
『恥ズカシイデス』
チーンとオーブンが鳴った。
恥ずかしいと鳴る仕組みなのだろうか・・・。
知能や感情があって、しかも会話が出来るなら、【お願い】すれば話が済むじゃないか。
「ええと・・・あのね?ドライフルーツを作る時にもっと能力を抑えてて作れないかな?」
私はオーブンに向かって手を合わせた。
オーブンに向かって手を合わせるという・・・なかなかにシュールな光景だが、オーブンに感情や知能があると分かった今では、お兄様もミラも私の行動を暖かく見守ってくれている。
『モット抑エルトハ・・・ドノ位?』
「んー・・・さっきのが100%なら、30%とかかな?」
『出来マスヨ』
「本当?!じゃあ、これから毎日30%でドライフルーツを作って欲しいの!」
『了解シマシタ。ゴ主人様』
「ありがとう!!オーブン・・・!って言うのも何か変だね」
うーん。
腕を組んで名前を考える。
【シャルロッテなオーブン】でしょ?
シャルロッテなオーブン・・・シャルロッテ・・・。
シャル・・・・・・ロッテ。
「ロッテ!!ロッテはどうかな?」
「良いんじゃない?」
お兄様とミラは頷いた。
『ロッテ・・・。私ハ、ロッテ!』
嬉しそうな声が響く。
うん、うん。気に入ってくれたみたいで良かった。
「これからよろしくね?ロッテ」
『ハイ。ゴ主人様。コチラコソ、ヨロシクオ願イシマス』
「よろしく。ロッテ」
「よろしくー!ロッテ!」
『ハイ。ルーカス様。ミラ様』
「あれ?お兄様達の事も知ってるんだね?」
私は素朴な疑問をロッテに尋ねた。
『ハイ。ゴ主人様ノ知ッテイル事ナラ分カリマス』
「そうか。それは便利だね!」
『ゴ主人様ノ好キナ人モ分カリマス。チューサレタ事モ・・・』
「・・・そろそろ黙らないと、壊すよ?」
『ハイ・・・・・・』
こら!お兄様にミラ!!
「オーブン脅した!可哀想!」とかコソコソ言わない!!
・・・もうアイスクリーム作らないよ?
私の負のオーラを察したのか、全員が黙り込んだ。
分かればよろしい。
「お兄様。ロッテはどこに置くのですか?」
「作業的に調理場だね。そこでカク達とドライフルーツを作って貰おう」
カクさん達に?
「それではカクさん達の負担が増えませんか?」
「カク達はフルーツを切るだけだし、実際にドライフルーツを作るのはロッテだから大丈夫だと思うよ。駄目な時は、きちんと人を増やすし。梱包とかは侍女達にお願いするからね」
『ロッテ頑張リマス!』
「うん。宜しくね?」
お兄様がロッテを優しく撫でると、チーンと音がした。
おお・・・照れた。
その後、お兄様にロッテを運んでもらって私達は調理場へ向かった。
お兄様は大きさの割にとても軽いロッテに驚いていた。
カクさん達にロッテを紹介すると、流石に最初は話す箱形の不思議な魔道具に戸惑いを見せていたものの・・・直ぐに調理人同士(?)打ち解けてくれた。
それからは、私に代わりアヴィ家の皆と日々ドライフルーツを作り続けてくれ・・・・・・。
私達にとって欠かせない大事な家族の一員入りを果たしたロッテだった。
たまにお母様が効果100%のドライフルーツをロッテにねだっているそうだが、ロッテはお兄様の指示を忠実に守り、50%の物しか渡さないらしい。
うん。偉い。偉い。
また、ロッテが増えた事により、新しい料理や焼き菓子と・・・アヴィ家の食卓が更に潤ったのは言うまでもないだろう。
何しろ、絶対に焦がさずに美味しく調理が出来る機能付きなのだから。
腕の良い料理人が使えば更に美味しくなり、料理や焼き菓子作りが苦手な恋する侍女達でも美味しい物が作れる。万能なロッテである。
《ロッテで作った焼き菓子を恋する相手に渡せば、願いが叶う》
そんな噂がアヴィ家では持ちきりだ。
私もロッテでお菓子を作ってリカルド様に渡そうかな!?
ミラは、あの日から暫くの間、【話す魔道具】開発に手を出したのだが・・・上手くいっていないらしい。
私も協力してみたが駄目だった。
まあ、ミラなら近い内に自分一人で作っちゃいそうだけどね!
こうして、私がしでかした一つの問題が終わりを迎えたのだった。
良かった。良かった。




