ブームの後始末③
私は驚愕した。
ハッキリ言って、私が魔術で作ったドライフルーツよりも格段に美味しいのだ。
きちんと乾燥されているはずなのに、生のフルーツを食べているかの様な瑞々しさ・・・。
何よりも、濃厚な・・・それでいてしつこくない甘さが一瞬にして全身を駆け巡るこの感覚。
・・・二人の奇妙な行動の理由が分かった気がする。
これは悶えたくもなる。・・・引いてごめんね。
しかし、何だこれは。
自慢じゃないが、私のチートさん万能なのだ。
そんなチートさんが出来たてのオーブンに負けただと?
「《【レップル】のドライフルーツ
新陳代謝アップで、超お肌ピッチピチ!冷え性も便秘だって即効改善!奥さん、実はこれ・・・痩せるんです。嘘じゃないんですよ。《《確実に》》美しく痩せさせます!今なら、使用後も安心の返金保証付き!
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ミラが呟いた。
いつの間にか鑑定をしていたらしい。
・・・はい?
何この・・・通販番組みたいな効果説明は・・・。
しかも『byシャルロッテ通販』って何?!そんなの知らないよ!?
もう・・・滅茶苦茶だ。
しかも、私が作った時よりも効果アップしてるよね?
こちらを真顔でジーッと見つめるミラから、私は逃げる様にサッと視線を逸らした。
視線を逸らした先には・・・・・・。
「ドライフルーツを一口食べただけで、ウエスト回りの余計なお肉がなくなったわー!」
通販番組のサクラ並みの大袈裟さで喜び出したマリアンナが、嬉しそうにクルクルと回転しながら部屋の中で踊っている。
・・・こんなマリアンナは見た事がない。
このドライフルーツ・・・人格を変える様な駄目な成分入ってたりしない?(汗)
私の肌は艶々になったけど、体型が変わらないのは子供の身体だから・・・?
そんな所まで勝手に調整してくれるの?
・・・・・・チート仕立てのドライフルーツ恐るべし。
「・・・シャルロッテ。あのオーブンはマズイよ」
「『マズイ』って・・・どういう事?」
私が尋ねるとミラがオーブンをジッと見つめた。
「《【シャルロッテなオーブン】
我が神の力にかかれば乾燥も焼きも思いのまま・・・!失敗?そんな事は有り得ない。安心してお使いなさい。至高の一品が出来るでしょう!・・・くっ!!眼が、眼が疼く・・・!!わ、私の中に何かが・・・!
(・・・はっはっはー。我が邪眼よ、全てを焼きつくせ!、凪ぎ払え!!………くそっ!私の邪魔をするな!)
・・・そんな勝手は許しません!・・・コホン。えー、このオーブンを使えば誰でも一流シェフになれるでしょう!!》」
淡々と読み上げるミラ。
何だ、この中二病的な文章は・・・・・・。
多分、ユーモア付き・・・のオーブンって事だよね?うん。・・・きっと。
「何かごめん・・・」
ジト目をしているミラに思わず謝ると、ミラが大きな溜息を吐いた。
「さっき・・・魔石にイメージを込めてもらった時に、シャルロッテの中から君の形をした透明なモノが抜け出て・・・それが魔石の中に入っていったんだ」
透明な私の形?
それは・・・生き霊的なヤツですか?
確かに、イメージを込める時にいつもと違う感覚がした。
・・・仮に、私の一部が含まれていたとしても、このオーブンは私のチートさんの能力を上回っている。
それはどう説明する??
・・・はっ!
もしかしてこれってミラのせいじゃないの!?
私からすればミラだって立派なチート持ちだ。
【チート×チート=??】
だから、中二病のユーモア付きなのでは・・・・・・?
まあ、間違いなく・・・私とミラのチートさん同士が作用した結果なのだと思う。
「あのさ、今まで聞けずにいたけど・・・シャルロッテって一体何者?」
ああ・・・。
遂にこの質問が来てしまったか。
やっぱりそうなるよね。今更だけど。
正直に言えば、ミラに真実を話すのは何故かそんなに嫌ではない。
あんなに関わりたくなかった攻略対象者だというのに・・・。
この短い間ではあるが、ミラの人となりを理解出来たのと・・・・・・お兄様以外の家族や皆が既に知っていて、受け入れてくれていた事が大きいのかもしれない。
だからと言って、誰にでも言いたいわけではないし、必要以上に騒がれるのが嫌な事には変わりない。
でも・・・リカルド様に知られるのは・・・少し怖い。
いつかは言わなくてはダメだろうけどね。
「ミラ。実は私・・・」
「シャルロッテ様!!」
ミラに真実を話す事に決めた私の元に、正気に戻ったマリアンナが慌てた様子で駆け寄って来る。
私はそんなマリアンをニコリと笑っていながら制止する。
・・・そうだ。私の味方はここにもいた。
マリアンナの存在が私に勇気をくれた。
「【赤い星の贈り人】なんだ」
「・・・贈り人?って、まさか・・・本当に?」
呆けるミラに、私はズイッと近寄って自らの瞳を指差す。
「うん。ミラの鑑定では見えないのかな?瞳の中に赤い星があるんだって」
私の正面。ミラの後ろに立っているマリアンナが悲痛そうな表情を浮かべている。
そんな顔しなくても大丈夫だよ。
マリアンナを安心させる為に、私は笑みを深くする。
「・・・本当だ。赤い星が見える。どうして今まで気が付かなかったんだろう・・・」
ミラはそう呟きながら、まじまじと私の瞳の中を覗き込んでいる。
「そっか。でも・・・やっと理由が分かった。だから、シャルロッテは何もかもが規格外なんだ。・・・だから・・・惹かれたんだ」
その呟きは段々と小さくなって行き、最後の方は聞き取る事が出来なかった。
「黙っていてごめんね」
私はペコッと小さく頭を下げた。
「それは仕方ないんじゃない?簡単に言える事じゃないでしょ」
「・・・うん。アヴィ家の皆とミラしか・・・あー、王様達は知ってるかもしれない・・・けど、他の人には言ってないから内緒にしてね?」
私は口の前でシーッと人差し指を立てた。
「・・・リカルド様も知らないの?」
「リカルド様には・・・まだ言えないかな」
「・・・そっか。内緒にする」
シュンと肩を落とす私の頭をポンポンと軽く叩き、ミラは何故か少しだけ嬉しそうに笑った。
・・・どうして嬉しそうなんだろう?
首を傾げながら、笑顔のミラにつられて笑いかけた時・・・・・・
「ふーん。ミラに教えちゃったんだ」
私の背後から、この場にはいなかったはずの人の声が聞こえて来た。
「お兄様!?」
振り返った私の後ろにはお兄様の姿があった。
相変わらずの神出鬼没ぶりに、開いた口が塞がらない。
心臓に悪いから、きちんとした手順を踏んでから入室して来て欲しい・・・。
叫ばなかった私を褒めたい。
「分かってると思うけど、許可も無く誰かに話したら・・・分かるよね?」
スッと瞳を細めてミラを見るお兄様。
ミラは少し青冷めた顔で、大きく首を縦に振った。
「それなら良いよ」
お兄様は満足そうに頷いた後、マリアンナの方をチラッと見た。
マリアンナはお兄様に向かって静かに頭を下げるとそのまま部屋から出て行った。
「それで、出来たの?」
お兄様がソファーに座りながら、オーブンを指差す。
「え、あっ、はい。ま、まあ・・・」
歯切れの悪い返事をした私を一瞥したお兄様は、ミラの方へと視線を向けた。
「ミラ?」
呼び掛けられてビクリと身体を揺らすミラ。
あぁぁ・・・。
ミラが蛇に睨まれた蛙に見える。
お兄様の威圧に耐え切れなくなったミラは早々に白旗を挙げた。
「実は・・・・・・!」
ミラの裏切り者ー!!
・・・って、まぁ、私でもそうなるかな(汗)
かくかくしかじか・・・と、事の経緯を順を追って説明するミラ。
説明を聞き終えたお兄様は、深い溜息を吐いた後に含みのある視線をこちらへと向けてきた。
「取り敢えず座ったら?」
お兄様に促された私とミラは、直ぐにお兄様の正面に並んで座った。




