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夢②

凄惨、残酷なシーンが含まれています。

苦手な方はご注意下さい。

ルーカスは授業中に突然現れた王の従者を名乗る男の馬車に乗せられ、そのまま王宮へと連れて行かれた。


そこで、ルーカスはアヴィ領内でスタンピートが起こった事を始めて知った。

一緒に行きたいと言う伯父のアルベルト陛下を宥め、代わりに騎士団を借り受けて急いでアヴィ家に向かった。



ルーカス達がアヴィ領に到着したのは、スタンピード発生から丸一日が経ってからだった。


周りを緑に覆われた白色の綺麗な公爵家の邸だったはずの建物は、魔物の爪跡と血にまみれた巨大な廃墟と化していた。


「・・・・・・ルーカス」

茫然と立ち尽くすルーカスに騎士団長のカイルが声を掛ける。

騎士団長のカイル・オデットは、ルーカスの父と親交があり、その関係でルーカスも彼には馴染みがあった。


「辛いなら・・・・・・」

カイルの言葉にルーカスは、ギュッと唇を噛み締めながら左右に首を振った。

ルーカスはアヴィ家の次期当主としてきちんと事態を把握しなければならないのだ。

辛いだなんて言ってはいられない。


ルーカスとカイルとペアを組んで邸内の捜索を行い、その他の団員は領地内の捜索に向かう事になった。


「総員、まだ魔物が残っているかもしれないから、充分に気を付けて捜索に当たること!」

カイルの指示で騎士達が行動を始めた。二人で一組のペアだ。



カイルと共に邸の中に足を踏入れたルーカス。

そこで、ルーカスが見た光景は地獄だった・・・・・・としか言えない。


誰もが目を背けるであろう程に、非情で残虐な爪痕。

一方的に蹂躙され続けた事をうかがい知れる邸の中には、生存者は見当たらない・・・・・・。


抵抗も虚しく魔物に地肉を貪られ、無惨にも腹を食い破られた遺体や、首だけ残された遺体。

辺りには肉片が散乱している。

この状態ならば、肉片すら残されていない者もいるかもしれない。

邸中が遺体や肉片と血にまみれ、所々に魔物の死骸もある。


腐臭とおびただしい血の匂いが吐き気を誘う。


「グッ・・・・・・」

口元を押さえるルーカスの顔は青白さを通り越して、血の気を感じさせない程に白くなっていた。


・・・・・・酷すぎる。


犠牲者の中には、妹の専属侍女や気心の知れた使用人達の姿もあった。


理不尽さに涙が滲み、堪え切れない程の怒りが沸き上がる。

咄嗟に噛み締めた唇からはサビの様な味がした。

無意識に唇を噛みちぎってしまったらしい。


父と母は・・・・・・

シャルロッテは・・・・・・どこにいる!?



カイルと共に屋敷中を駆け巡る中。

不思議な事に魔物の死骸は残っているものの、生きた魔物とは一匹も遭遇しなかった。

スタンピード後に魔物が死んでしまうなんて聞いた事はない。

ルーカスは首を捻るしかなかった。



「ルーカス!!」


声がする方を向けば、カイルが書斎の方から身を乗り出し手招きしていた。


・・・・・・書斎か!!


ルーカスが書斎に近寄ると、入り口にはおびただしい数の魔物の死体が折り重なる様にして倒れていた。


そして・・・・・・


「父様・・・・・・母様・・・・・・」

呼び掛けても瞳を開けない両親が並んで床に倒れていた。


両親に近付き、顔を覗き込む。

二人の顔は傷付けられる事もなくとても綺麗だった。

まるで眠っているかの様だ。


そんな両親の胴の部分にはカイルの上着が掛けられていた。

これは・・・・・・?


「ルーカス!!見ない方が・・・・・・」

上着を捲り上げようすると、カイルが制止の声を上げた。

その声に一瞬だけ動きを止めたルーカスは、首を横に振り上着を捲リ上げた。


「っ・・・・・・!!」


ルーカスは咄嗟にギリッと歯を噛み締めた。

そうしないと泣き叫んで崩れてしまいそうだった。


・・・・・・二人の身体は胸から下がグチャグチャに潰されていた。

だからカイルは、ルーカスの目に触れぬ様にと上着を掛けたのだ。


どうして・・・・・・どうして、こんな事になったんだ!!

父様と母様が何を・・・・・・!!


握り締めた拳から血が滴る。知らない内に爪で傷を付けていたらしい。

俯いたまま涙を堪えているルーカスを、カイルは強く抱き締めた。


「・・・・・・っく・・・・・・っ」

そこで初めてルーカスから嗚咽が漏れた。


泣いてる場合じゃない。

まだシャルロッテが・・・・・・妹が見つかっていないのに・・・・・・。


だけど・・・・・・!

父様・・・・・・母様・・・・・・!!


カイルは何も言わず、ルーカスが落ち着くまで抱き締め続けてくれた。





暫く泣いて落ち着いたルーカスは、父と母の遺体のあった書斎にある魔物の死骸が異様に多い事を疑問に思った。


「カイル団長・・・・・・どうして、この部屋には魔物の死骸が多いのでしょうか?」

「エドワードは・・・・・・恐らく王家の秘術を使ったのだと思う」

ルーカスの問いにカイルが答える。


「秘術?」

秘術なんて父様達から聞いた事は一度も無い。

「そう。秘術だ」

カイルは大きく頷いて、秘術について教えてくれた。


『術者の命と引き換えに、民を守り、魔物を滅ぼす王家の力』


「二人は膨大な魔術は用いて、アヴィの領地中の人間に害する魔物を殲滅させたのだ」


術者の魔力が強大であればある程、効果は絶大だが、魔力を練るのに時間がかかり、魔物の抵抗に合う可能性があるというデメリットもある。

だから、最悪の時に王家の秘術を使用する際は盾となる者を置かねばならない。

そうしないと、魔力を練っている際に攻撃を受け、無駄に命を落とす可能性があると言う事だ。


母が父と一緒だったのは・・・・・・母が結界を張れる事と、魔力を他人に分け与えられるという稀有な力を持った魔術師だったからだろう。

結婚前の母は公爵令嬢でありながら魔術師でもあった。子供が出来た時に引退をしたのだ。


領内の皆を救う為に、最後まで父を助けて共に逝ったのだろう。


二人はとても仲の良い夫婦だった。

固く繋がれた二人の手に絆と愛を感じたルーカスは、ほんの少しだけ救われた様な気がした。



そうか!二人が書斎で最後を迎えたのだとしたら・・・・・・!


「ルーカス?」


不思議そうな顔をしているカイルを置いて、ルーカスは本棚の方へ走り出した。


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