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ドライフルーツとお酒と……➂

・・・どうしてお母様がここに?


いや、いても良いんだけど・・・。



「楽しそうだから来ちゃったわ」

フフッと可憐に微笑むお母様。


蜂蜜色の長い髪を緩く一つに纏め、私と同じアメジスト色の瞳を持つお母様は、十五歳と十二歳の子持ちとは思えない位に若くて綺麗だ。


そんなお母様の横には、瞳を細めながら物言いたげな視線をこちらへ向けているお兄様がいる。

その顔には『僕に黙って何してるの?後で覚えておいてね?』・・・と書いてある気がする。


私はお兄様から視線を反らしながら、素早く人数分のアイスクリームを器に盛り付ける事にした。


・・・と、取り敢えず・・・今は気にしちゃ駄目だ。

今は念願のアイスクリームを味わうんだ!

アイスクリームが盛り付けられた器は、ノブさん達が皆に配ってくれた。


私は微妙に震える手で、アイスクリームにスプーンを差し入れ、一口分を掬い上げた。

そのまま口元に近付けると、メイ酒の香りが鼻先を擽ってきた。

その匂いにうっとりとしながら、そのまま口の中にスプーンを運び入れると・・・・・・


・・・・・・っ!!!


・・・私が求めたのはコレだ。

感激のあまりに涙が出そうになる。


フルーツの甘味と酸味がメイ酒の芳醇な甘い香りと混ざり合い・・・やや強めのアルコールを濃厚なアイスクリームが中和してくれる。


私は涙が出そうになるのを堪え、黙々とスプーンを動かし続けた。


・・・うん。これで暫くはまた頑張れる。



「これは・・・!」

「この芳醇な香り・・・メイ酒が入っただけで、こんなに上品なアイスクリームに仕上がるとは・・・!」

「やっぱり・・・アイスクリームは至高の食べ物だ・・・」

三人の料理人さん達は目を見開きながら興奮気味に感想を言い、その後、皆で一斉に号泣し出した。


「「「ぅうおぉー!!幸せだ!!」」」


そ、そっか・・・。号泣するほどなんだ・・・ま、まあ・・・それなら良かった(汗)

って・・・あれ?私も同じ・・・?

な、泣いてないから一緒じゃないよ!?


「へえ・・・これが大人のアイスクリームか。色んなバリエーションがあるなんて・・・流石はアイスクリームだね」

お兄様は満面の笑みを浮かべ、アイスクリームを頬張っている。


そしてこの人は・・・。

「あら~。フルーツが沢山で美味しいわ」

ニコニコと微笑みながら、優雅にアイスクリームを食べ進めていた。

私はそんなお母様の様子にホッと胸を撫で下ろした。


実は・・・最近、お母様がちょっと苦手なのである。


私と同じ色彩を持つお母様は私に良く似ているが《《悪役令嬢の私》》の特徴である《つり目》ではない。

普段はニコニコと愛想の良い、優しそうな瞳のお母様なのだが・・・よくよく見ると目が笑っていないのだ。


ゲームの中でのお母様は、魔物に襲われながらも、最期まで気丈に夫を支え続けた芯の強さと健気さを兼ね備えた優しい女性だった。

私は別に控え目さや健気さを母親に求めたい訳ではないのだが・・・。


お兄様にそっくりなお父様が実は結構なヘタレ体質で、私にそっくりなお母様が・・・実は魔王様(おにいさま)に似ている事に最近気が付いた。



あの日は確か・・・ダンジョンの地下八階層を攻略した日の夜更けだったと思う。

喉の乾きで目覚めた私は、マリアンナを呼ぶ事を躊躇い、水を貰おうと自らの足で調理場に向かっていた。

その時、書斎の隙間から光が洩れている事に気付いた私は、何の気なしに中を覗いてしまったのだ。


そこには・・・お父様がお母様に向かって土下座をしている姿があった。


多分ではあるが・・・羽目を外し過ぎたお父様を筆頭とした大人の行動を、お兄様がお母様に《《チクった》》のだと思う。

『愛してるから捨てないで・・・!!』と、許しを乞う様にお母様に向かって土下座をするお父様・・・。

微笑みを浮かべながら、そんなお父様を黙って見下ろすお母様・・・。

そのシュールな光景は、両親の力関係が垣間見えた瞬間であり・・・今まで優しいと思っていた母親の裏の顔が見えた様な気がした瞬間でもあった。


やはり、ゲームと現実は違っていた・・・。

魔王の血・・・恐い。



「あっちの瓶に入ってるのは何かしら?」

お母様がドライフルーツの入った瓶を指差す。


「・・これはドライフルーツと言って、フルーツを乾燥させた物なのですが、美容にとても良いんですよ」

ビクビクしながら答える私。


「まあ!美容に!?」

お母様の瞳がキラリと輝いた。


あ・・・っ、私はお母様のスイッチを押したらしい・・・?(汗)


「食べてみても良いかしら?」

「はい。・・・どうぞ」


三種類のドライフルーツを一つずつ取り出して小さなお皿に乗せてお母様へ渡すと、お兄様も欲しがったので同じ様に小皿に乗せて渡した。


「これは・・・モスクと、レップル・・・それにアーマス?」

お母様はジーッとドライフルーツ達と睨めっこをしている。


「ああ。これはアイスクリームに入っていたフルーツだね」

お母様の横に立っているお兄様は、パクパクとあっという間に食べてしまう。


「母様、美味しいですよ?」

「ああ。私も今、食べてみるわね」

お母様はそう答えると、モスクを指で摘まんで口の中に入れた。


「・・・美味しい。アイスクリームに入っていたのとは食感が変わるけど・・・噛めば噛む程に濃厚な優しい甘さが口の中に広がるのね」

お母様の瞳がカッと大きく見開かれた。


「美味しいのに美容に良いなんて・・・なんて素敵なの!」

興奮気味に呟やいたお母様は今度はレップルを口に入れた。


「ドライフルーツはスーパーフルーツと言われるほどに身体に良い食物ではありますが、食べ過ぎは良くないですよ」

「そうなの?こんなに美味しいのに沢山食べられないのは残念だわ」

お母様は私の説明を大きく頷きながら聞き、最後にアーマスを口に入れる。


この世界のフルーツを、和泉の世界のフルーツに置き換えるのなら・・・・・・


【モスク】(桃)

疲労回復、高血圧予防、便秘解消。


【レップル】(パイナップル)

新陳代謝アップ。冷え性の改善。便秘解消。脂肪燃焼効果。


【アーマス】(葡萄)

ポリフェノールが豊富。シワ、シミ、たるみ等の肌トラブルの解消、アンチエイジング。貧血予防。


と、いった所だろうか。


遠回しに、『こんな効果がある《《らしい》》』と補足する。


「そうなのね!?」

その途端にお母様の瞳が()()()()と輝き出した。



私の両手を握りながら食い気味に近寄って来るお母様。

私の腰は完全に引けてしまっている。


「よろしければ・・・このドライフルーツは差し上げますよ?」

「良いの!?」

「はい。フルーツがあればまた直ぐに作れますから」

「嬉しい~!ありがとう~!!」

お母様は私をギュッと抱き締めた。


目の端にはショボンとしている三人の料理人さん達の姿が映り込んだ。


・・・もしかして、このドライフルーツが欲しかったの?

そんなにしょんぼりしなくてもまた作ってあげるのに・・・というか、レシピ教えるよ?


そんな彼等を労うかの様に、お兄様がお代わりのアイスクリームをよそってあげているが・・・・・・ちゃっかりと自分の器にまでアイスクリームを入れている。


それって自分が食べたいだけだよね!?

私のアイスクリームが・・・!!このままでは全て食べ尽くされてしまう。


止めに行こうにも、お母様に抱き付かれたままなので身動きが取れない。


「あの・・・お母様?」


ギュッ。

更に強まる腕。


えっ・・・・・・?


お母様の方に視線を向けると・・・瞳を細めながら口元に笑みを浮かべたお母様と目が合った。


「ねえ~。シャルロッテ?」

「・・・何ですか?」


・・・嫌な予感がする。


「あなたはだあれ?」

「・・・っ!!」


全てを見透かされた様な視線に、私はギクリと身体を強張らせた。

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