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ドライフルーツとお酒と……➁

さて、調理を開始しよう!


「最初にドライフルーツを作ります」


ドライフルーツを知らないノブさんの為に、軽く説明をする。


生のフルーツを乾燥させる事で、栄養価はそのままに長期間保存が出来る優れ物だ。

使用するフルーツの種類にもよるが、ポリフェノールや食物繊維が豊富で抗酸化作用が高い。

シワや老化予防、ダイエット中のおやつとしても使える物なのだ。


「おお・・・!それは凄い!」

私の説明を聞いていたノブさんの瞳がキラキラと輝いている。


ドライフルーツの作り方は簡単だ。

天日干しにしたり、電子レンジを使用したりし、フルーツの持つ水分を飛ばしてしまえば良い。


天日干しだとカラカラに乾くまでに2日程度かかる。

電子レンジなら直ぐに出来るが、ここは異世界なので電子レンジがない。


そこで、私のチートさんの出番だ。


今回、使用するフルーツは、紫の葡萄の形をした桃味の《モスク》と、黄色いレモンの形をしたパイナップル味の《レップル》。

そして、オレンジ色の杏の形をした葡萄味の《アーマス》の三種類だ。

モスクとアーマスはそのままの形で、レップルは皮のまま薄い櫛切りする。


それらをお皿の上に並べ、右手を翳しながらドライフルーツのイメージを練り上げる。


水分が抜けてカラカラに・・・甘さは濃縮。美味しいフルーツ・・・。


「ドライ」

呟くと、光の帯がフルーツをなぞる様に流れた。

光の帯が消えた後には、水分の抜けたフルーツ達が艶々とした状態で残されていた。


簡単!ドライフルーツの完成ー!



早速、ノブさんと味見をしてみる事にした。


まずは、モスクだ。見た目は干し葡萄なのに桃の味がする不思議なフルーツ。しかし味は、桃の甘さが濃厚で蕩ける様だ。

次に、レップル。生の甘酸っぱさは消えて、パイナップルの甘味が濃縮されていて美味しい。

最後のアーマスは、見た目は杏のドライフルーツだが、食べるとちゃんと干し葡萄の味がした。

うん。どれも美味しい。


チラッとノブさんを見ると、ドライフルーツを手に震えていた。

・・・まるで壊れかけのロボットの様な動きをしている。


「・・・ノブさん?」

「か、乾燥させだけでこんなに美味しくなるなんて・・・!!」


・・・ああ。感動していたのか。

生のフルーツが簡単に手に入る所だと、どうしても新鮮な物の方が美味しいというイメージの方が強いだろう。


「まだまだこれからですよ!」

私はフフッと笑った。


私は綺麗に煮沸されている状態の空瓶を四つ用意した。

そして、一つ目の大きめな空瓶の中は三種類のドライフルーツを均等に入れ、残りの小さめな三つの空瓶には残ったドライフルーツをそれぞれ入れて行く。


「ドライフルーツとは・・・瓶に入れて保存する物なのですか?」

「はい。その方が鮮度を保ったままで保存出来ます。そして、大きい瓶のコレには・・・こうします!」

私は説明しながら、三種類のドライフルーツが入った大きめの瓶の方にメイ酒を注ぎ入れた。


「ああっ!!」

横にいるノブさんが悲痛な声を上げるが・・・気にしない。


「これで良いんですよ」

私は笑いながら、ドライフルーツがヒタヒタに浸る位までメイ酒を注いだ。


「あー・・・せっかく乾燥してるのに勿体ない」

しょんぼりするノブさん。


『わざわざカラカラに乾燥させたフルーツに、水分を加えるとか意味が分からない』といった所だろうが、これはこうしないと駄目なのだ。


「まあまあ、これから更に美味しくなる魔法をかけますから黙って見ていて下さい」


私はメイ酒を注いだ大きめな瓶に向かって右手を翳した。

これも普通なら、しっかりと漬かるまでに二日位かかってしまう。だからここでもチートさんの出番だ。


美味しい物(お酒)の為ならチートも惜しまない!!


カラカラに乾いたフルーツの一つ一つに、しっかり隅々までアルコールが染み込むイメージを練る。

美味しくなーれ、更に美味しくなーれ!!


「熟成」

フワッとした光が瓶を覆う。それが煙の様に消え失せれば・・・・・・


待ちに待った『ラムレーズン』の完成だ!!


お酒に漬かったドライフルーツは、先程までのカラカラが嘘の様にしっとり艶々している。

メイ酒のカラメル色を纏ったフルーツ達の神々しさと言ったら・・・!!


想像しただけでゴクンと喉が鳴る。


・・・食べたい。このまま食べてしまいたい!!


いや、それは駄目だ。

メイ酒も匂いからしてアルコール度数はなかなか高そうだった。

これをこのまま食べるのは色んな意味で危険だ・・・。年齢とか、酔った後・・・とか、お兄様とか、ね?


これはもう・・・さっさと次の工程に移ってしまうに限る。


「・・・味見しないんですか?」

「しません!!」


堂々とお酒が飲めるノブさんとは違ってこちらは子供なんだ。中身はアラサー混じりだけど。

そんな羨ましい事はさせない!!


悲しそうな顔をしているノブさんを急かし、卵や生クリーム等のアイスクリームに必要な材料を用意してもらう。

『アイスクリームを作るよ』と言えば、ノブさんは直ぐにご機嫌になって、てきぱきと動いてくれた。


信者よ・・・。



「シャルロッテ様。これは新作のアイスクリームですか?」

今までは別の作業をしながら遠巻きにこちらを見ていた、二人の料理人さんが近付いて来た。


三十五歳・既婚。溺愛している愛娘が一人いる『スケさん』と、五十歳・既婚。三人の立派な息子さん達を持つ『カクさん』だ。二人は、ノブさんよりも長くアヴィ家で働いているベテラン料理人だ。

因みに、カクさんは料理長である。


二人共、茶色の瞳と髪と一般的だ。目立った特徴はないが、料理長のカクさんは最近、『白髪が増え、髪が薄くなってきた』とぼやいているらしい。

・・・これは毛生え薬の出番か・・・?


まあ、それは置いといて。


この二人はベテラン料理人であると同時に、アイスクリームの信者でもあるから・・・材料だけで何を作るかピンときて様子を見る為にこちらへ来たといった所だろうか。


「はい。大人のアイスクリームですよ。感想を教えて下さいね」


今回もあっという間になくなりそうなので・・・かなり多めに作ろうと思う。

私が食べる分が減るのは避けたい。・・・というか今回は絶対に譲らないからね!?


スケさんとカクさんは『大人のアイスクリーム』作りも気になるが、先程まで私が作っていたドライフルーツやドライフルーツのメイ酒漬けが気になる様で、瞳を輝かせながらノブさんからの説明を聞いていた。


私は沢山の卵を卵黄と卵白に分けながら、ノブさんの説明に補足する。


「ドライフルーツのメイ酒漬けは、ケーキ等の焼き菓子に入れても美味しいですよ。そうするとメイ酒のおかげでしっとりして、尚且つ日持ちしますよ。使い方次第では料理の香り付けにも使えますね」


卵黄と卵白に分ける作業は手間だが嫌いじゃない。殻が綺麗に割れれば嬉しいし、ツルンと卵白が落ちて行く様子を見るのも面白い。


だけど流石に・・・この量はきつい。二十個近くは割っている。


ふう・・・。

やっと二十個の卵を分け終わった。

手伝ってもらえば良かったかな・・・。


・・・ふと、視線を感じて顔を上げれば・・・・・・私を凝視している三人と目が合った。


おう・・・。

「・・・どうかしましたか?」

三人の目が血走っていて凄く怖い・・・。


「そのアイディア頂いても良いでしょうか!!」

料理長のカクさんが、ズイッと私に近いてくる。


・・・近いな。


私はにこやかに・・・何気なさを装いながら半歩身を引かせた。


「・・・どうぞ、ご自由に?」

「「「ありがとうございます!!」」」

三人は同じ角度で、深々と私に頭を下げた。


「ドライフルーツに向く物と、向かない物がありますから、色々と試すと良いですよ」


アイスクリームが絡むと厄介になる信者達だが・・・料理人としての腕や熱意、そして探求心は本物なのだ。


私はこんな熱さが嫌いではない。

夢中になれる何かがあるのは凄い事だ。彼等には是非ともこの道を極めて欲しい。



・・・さて、そろそろ作業を再開しようか。


作る量が量なので、ここでもチートさんには頑張ってもらう。

魔術で泡立て器を動かし、卵白に砂糖を少しずつ加えながら硬めのメレンゲを作ったら、別の容器で生クリームに砂糖を加え、冷やしながら八分立てに泡立てる。

卵黄をまた別の容器で砂糖を加えながら泡立てる。

泡立てた生クリームや卵黄、メレンゲを全部一緒に混ぜ合わせたら・・・ここで本日の主役の登場だ。


最初の目的は『ラムレーズン』だったが、今回はせっかく三種類のドライフルーツのメイ酒漬けを作ったので、それを全部入れてみる事にする。モスクはそのままで、レップルやアーマスはある程度の大きさに細かく切り、それらをアイスクリームの元に加えて、よく混ぜ合わせる。

それを魔術で凍らせたら・・・・・・。

《ラムレーズンアイスクリーム》ならぬ、《濃厚メイフルーツアイスクリーム》の完成だ!


紫、黄色、オレンジ色がクリーム色のアイスクリームと混じってカラフルで可愛い。



パチパチパチパチパチ。


私の後ろから、完成を喜ぶ拍手が聞こえてくる。

・・・見学していた三人の料理人さんの分よりも拍手の数が多い気がするのは・・・絶対に気のせいじゃない。


うーん。後ろを振り返りたくないけど・・・振り向かない訳にもいかない。

私は覚悟を決めて後ろを振り返った。


そこにいたのは三人の料理人さん達と、安定の神出鬼没のお兄様。満面に笑みを浮かべている。



そして・・・・・・

「お母様!?」


私にソックリな瞳の色と顔をしたお母様がそこに居た。

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