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ドライフルーツとお酒と……➀

私達がアヴィ領に帰って来たのは昨日の夜だった。


数日間しかアヴィの邸から離れてなかったというのに・・・もう何年も帰っていなかった様な気がする。

この数日が濃い内容の日々だったから余計にそう思ってしまうのだろう・・・。


お兄様の入学の準備をしながら、ゆっくり観光しつつ美味しい物を食べたりと、王都を堪能するつもりだったのに・・・ナンパをされているサイラスを助けてから事態が急変した。

突然発生したお兄様のバッドエンド回避の為に、サイラスに先制攻撃を仕掛けたら・・・成り行きで彼の復讐を手伝う事になり、行く予定のなかったエルフの里にまで行ってしまった。


そこではクリス様の婚約者(仮)に扮しーの、偶然、森の中でサイラスの母の指輪を見つけーの、睡眠薬入りのスーリーのジュースをエルフの長達に盛りーの、擽りの拷問を仕掛けーの等と・・・色々な事があったが、最終的には何とかまるっと治まってくれたので本当に良かったと思う。

サイラスは色々な柵から解放されたのだから、母の最後の言葉の通りに『自由に生きて欲しい』。


成り行きで手伝う事にはなったが、私自身サイラス含めた攻略対象者に近付く事を今でも良しとは思っていないので、お兄様以外の彼等には私に関わらないで勝手に生きて欲しい。



そうは言っても・・・ミラはアヴィ家に住んでるし、クリス様はダンジョン探索で一緒だし、ハワードはそれに付いて来る。普段は辺境に住んでいるサイラスも、辺境伯の手伝いしている限りはどこにでも現れる。

何だかんだで、皆・・・私に近い所にいるな(汗)



・・・もういっその事、彼方(ヒロイン)まで出てきてしまえば良いのに。

そしたら、彼方に全てを任せて(押し付けて)、私はのんびりお酒とリカルド様の事を考えて生きれるはずだ。




「あー。お酒が飲みたい・・・」

私は一口分の紅茶を飲み込み、大きな溜息を吐きながら天を仰いだ。


現在、自分の部屋にあるソファーに座りながら一人で紅茶を飲んでいる。



早く、お酒の飲める年にならないかな・・・。


最近の私の周りは・・・『アイスクリーム』、『アイスクリーム』、『アイスクリーム』・・・と、そればかりだ。

私が広めたいのはアイスクリームではなく、お酒だと言うのに・・・・・・。

・・・何でこうなった。


それは確実にアイスクリームの信者達による普及活動のせいに他ならない。

隙あらば『アイスクリーム』の話題を捩じ込んでくるから、結局私が作らざるを得ない状況になる。


『だったら作らなければ良いじゃないか』・・・?


お兄様の瞳に抗える位なら、とっくに作ってはいない・・・。

私だってアイスクリームは好きだし、色んな人の間に広まってくれるのは嬉しい。

街中で気軽に食べられる様になったら、それはそれでまた嬉しいしね。


でも・・・アイスクリームじゃ、私の《お酒欲》が収まらない。

私的に大事なのはここだ。


んー・・・もうちょっと、こう・・・子供でもお酒を楽しめる方法とかないかな?

直接飲むのはアウトだけど、何かに入っていればアルコール成分は多少薄まるし・・・。



アルコール入りの美味しい物・・・。


お酒、お酒しているサヴァランは駄目だろうし・・・。

他のケーキ・・・焼き菓子・・・アイスクリーム・・・・・・。


ふっ・・・。ここでアイスクリームが出てくるとは・・・。私も信者達に影響されている様だ。

遠い目をしかけて、ふと我に返る。



あれ?でも、ちょっと待って。

アイスクリーム!良いじゃないか!!


アルコールでアイスクリームと言ったら『ラムレーズンアイス』だ。

これなら、子供(わたし)でも合法的にお酒を摂取出来るじゃないか!!


思い立ったら、善は急げだ。


私はティーカップをテーブルの上に置いて、急いで厨房に向かった。




*****


トントン。

ノックをしてから調理場の扉を開けようとすると、中から誰かが開けてくれた。


「あれー?シャルロッテお嬢様。どうかしましたか?」

ドアの近くにいたのはノブさんだった。


ノブさんは、アヴィ家にいる料理人さんの内の一人で、魔術の使える貴重な人材である。

確か・・・二十五歳の独身で、茶色の瞳に赤茶色の髪のひょろっと細長い青年だ。


以前、教えたタンサン水も、時短アイスクリーム作りもノブさんは完璧にマスターしてくれた。

最近では、デザート担当としてアヴィ家にとって欠かせない人物となっている。



「ノブさん、こんにちは。ちょっと試したい事があるのですが、調理場をお借りしても良いですか?」

「勿論、それは構いませんが・・・もしかして、新しいアイスクリームですか?」

私を中に招き入れたノブさんの茶色の瞳がキラリと光った。


・・・何故、分かる。


「え・・・まあ、はい。そんな感じです」

私は軽くというか・・・かなり引き気味に答えた。


そう言えば、ノブさんもアイスクリームの熱狂的な信者なのだ。


「手伝わせて下さい!!」

「お断りします!!」

即答で切り捨てた。


「どうしてですかぁ・・・」

二十五歳の男がアイスクリーム作りの手伝いを断られたで号泣するなよ・・・。


もう・・・。一人で試すつもりだったが仕方ない。


「はいはい。冗談です。私には分からない事が多いので手伝って頂けると凄く助かります」

私がそう言うと、泣いていたノブさんの顔が一瞬でパアッと明るくなった。


「はい、喜んで!!」


・・・単純。というか、そんなにアイスクリームが好きなのね・・・。

アイスクリームの信者はなかなかに扱いが面倒くさい。


「ドライフルーツってありますか?後は、お菓子とかに使うお酒とか・・・」

「『ドライフルーツ』って何ですか?」


・・・おっと、この世界にドライフルーツはないらしい。

焼き菓子が主流の世界なのに・・・何故?

もしかしたら、この世界は生のフルーツが手に入りやすいから、乾燥させて長持ちさせるという発想が生まれなかっただけなのかもしれない。


ドライフルーツがないなら作るしかない。


「フルーツは何がありますか?」

「今日の分はこちらに」

ノブさんに案内されたフルーツ置き場のテーブルの上には、色とりどりのフルーツ達が沢山並んでいた。


「味見をしても良いですか?」

「はい。どうぞ」


この世界のフルーツは、見た目だけでは味が分からない。

極端に言えば・・・リンゴの形をしたミカンを、食べない状態でミカンだと気付けるか?という位だ。


ラムレーズンと言えば葡萄だが・・・。

まず、紫の葡萄の形をしたフルーツを一粒摘まんで味見してみた。


プチっと弾ける果実・・・この味は桃だ。


「それはモスクですね」

ノブさんがニコニコしながら言う。


桃のドライフルーツ。食べた事はないけど、美味しいと聞いた事がある。

形も葡萄の様だし、これは決まりだ!


次は・・・。

黄色いレモンの様な形をしたフルーツを手に取った。ノブさんが食べやすい大きさに切ってくれると言うので、お言葉に甘えて切ってもらう事にする。


櫛切りにカットされたレモンの様なフルーツ。レモン独特の強い酸味を想像しながら恐る恐る口に運ぶが・・・・・・あれ?酸っぱくない。


これはパイナップルの味だ!

熟れたパイナップルみたいに甘くて美味しい。


「レップルです。美味しいですよね」


私はノブさんに同意する様にコクコクと頷いた。

これもドライフルーツにする候補に入れておこう!


次はオレンジ色の杏の形に似たフルーツに手を伸ばす。それをまたノブさんに半分にカットしてもらった後にパクッと齧り付く。


・・・・・・こ、これは!


「それはアーマスですね」


葡萄だ!!見つけた!!

これでラムレーズンが作れる!


後は肝心のラム酒だ。

お酒の少ないこの世界に、果たして存在するのか・・・。

なかったら作るしかない・・・のかな。


ラム酒の原料は確か・・・サトウキビだっけ?

材料があれば作れるかもしれないけど・・・・・・。


「ノブさん、ラム酒ってありますか?」

「ラム酒?んー・・・聞いた事ないですね。何に使うんですか?」

「お酒として飲んだり、お菓子とかに使ったりするお酒なんですが・・・」


そうか。やっぱりないのか・・・と、肩を落としかけた時・・・


「ラム酒は知りませんが、菓子類に使う《メイ》と言うお酒はありますよ?」


《メイ》?


「見せて下さい!」


透明なビンに入ったメイ酒は濃いカラメル色をしていて、独特の甘い匂いがした。


おお・・・!これはラム酒だ!!


自家製ラムレーズンを作る際に何度か嗅いだ物と同じ匂いがする。


「・・・メイ酒は飲んだりしないのですか?」

「メイ酒をですか・・・?」

ポカンと口を開け、不思議そうな顔をするノブさん。


ラム酒は普通に飲めるはずだが・・・ノブさんの反応からして、メイ酒はあくまでも()()()でそのまま飲んだりはしないのだろう。


「気にしないで下さい。ええと・・・メイ酒とさっきのフルーツを使っても良いですか?」

「はい。どうぞ、どうぞ」


ノブさんに手伝ってもらいながら、隅の調理台に材料を持って移動した。

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