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大団円……?

アイスクリームパーティーをすると聞き付けた里中のエルフ達が長の家に押し掛けて、家の中や外が凄い事になっている。


作り方も教えて欲しいと言うので、公開調理となったのだが・・・

この視線の中で作るとか・・・公開処刑か!

自分から言い出した事だが・・・胃が痛くなってきた。


・・・周囲の目は気にしない・・・気にしない・・・と。


今回作るアイスクリームは、エルフの里仕様という事で卵は使用しない。


材料は、牛乳、生クリーム、砂糖、スーリーのシロップの四つとシンプルであるが、ポイントは苺の様な味のスーリーだ!


先ずは、タライの様な大きな容器に生クリームと砂糖を入れて・・・本来ならば泡だて器で泡立てるのだが・・・。

今回は大量に作らなければならないので、最初からチートさん全開で行きます!

エルフはみんな魔術が使えるので問題無い!


風の魔術を使い、生クリームを五分立て位にトロッとするまで混ぜたら、そこに牛乳とスーリーを入れて、更にかき混ぜる。 

ある程度かき混ぜたら、冷却の魔術を使ってアイスクリームを凍らせる。


凍らせたアイスは大きな木べらを魔術で動かしながらよくかき混ぜる。きちんと空気を含む様にね!

そしたらそれをもう一度凍らせて・・・っと。


スーリーのアイスクリームの完成ーー!!


「ウォーーー!!」

アイスの完成と同時に雄叫びが上がった。


取り敢えず・・・試食だ。


スプーンで一口分だけすくって口の中に運ぶと・・・

苺の様な甘酸っぱい酸味と生クリームの濃厚な味が口の中にふわっと広がった。


うん。卵無しでも充分に美味しい。


満足気に頷く私の前には・・・いつの間にか大行列が出来ていた。


早いな!!

その光景に軽く引きかけたが、気を取り直して向き合う。


この列の一番先頭に並んでいるのは・・・勿論、アイスクリームの信者であるお兄様だ。

辺境伯やクリス様、サイラスに長もその後に続いている。

もう・・・何も言うまい。


「はいどうぞ」

アイスクリームの入った器を手渡すと、ニコニコと笑みを浮かべたお兄様は列の最後尾に回った。


もう二巡目に行くの!?


私は終わりの見えない列を捌く為に、機械の様に無心でアイスクリームを配り続けた。



そうしてまたお兄様の番になったが・・・。


「シャルロッテ・・・。もう無くなっちゃったの?」


大量のアイスクリームが入っていた容器は空っぽになってしまっていた。


「シャル・・・」

「シャルロッテ嬢・・・」

「シャルロッテ様・・・」

お兄様だけでなく、クリス様やエルフの皆も悲しそうな顔をしている。


・・・はいはい。

「分かりました。直ぐに作りますよ」


私は苦笑いを浮かべながら、更に倍の量のアイスクリームを作り始めた。




**



二回目のアイスクリームが完成した後は、配膳をエルフの里の女性達にお任せした。

お兄様の発言のせいでクリームソーダ用のスーリーのタンサンジュースを大量に用意しなくてはならなくなったからだ。


スーリーのタンサンジュースを大量に作った後・・・漸く(ようやく)私は自由になった。



疲れた・・・。

チートさんのお陰で魔力はまだ余っているが、精神的な疲れはどうしようもない。


空いていた椅子に座って溜息を吐くと・・・

「お疲れ様でした」

サイラスがそう言いながらクリームソーダを私に手渡してくれた。


「ありがとうございます」

私はありがたくそれを受け取った。


ストローを使ってジュースを一口分吸い込むと・・・程よい甘さが身体に染み渡るのを感じた。

あぁ・・・癒される・・・。


頬を緩ませると上からクスクスとした笑い声が降ってきた。

そちらへ視線を上げると、サイラスが楽しそうに笑っていた。


《復讐》という柵の無くなった彼は出会った頃の刺々しさが薄れ、穏やかな表情を浮かべている。


・・・良かった。


サイラスが救われたのなら、同じ様に和泉の家族も解放してあげたい。

私は改めてそう思った・・・。


「シャルロッテ()


・・・シャルロッテ()

リリーの格好をしていないサイラスにそう呼ばれるのは違和感しかない。


「・・・止めて下さい。今までそんな呼び方していないではないですか」

「いえ。私達を救ってくれたシャルロッテ様には返しきれない程の恩がありますから・・・。ありがとうございます」

土下座をしそうな勢いのサイラスの態度に慌てた私は立ち上がり、据わっていた椅子の上にクリームソーダを置いた。


「私は何もしていません。好き勝手に行動したまでです。なので・・・感謝するならサイラス様のお母様にして下さい」

「母に・・・?」


「はい。全てはサイラス様達を思うお母様の導きだったと私は確信をしています」

「そうですか・・・母が・・・」

サイラスを立ち上がらせてから、私は彼を見上げながら微笑んだ。

私を見下ろすサイラスも釣られる様に微笑む。



そこへ・・・。

「ねえ。見つめ合ってるけど、キスでもするの?」

場の空気を()()()読まないお兄様が乱入して来た。


キ、キスだとー!?


「しません!!」

真っ赤になって否定する私に、お兄様は更なる爆弾発言を落とす。


「リカルドから、サイラスに乗り替えるのかと思ったよ」


な、何て事を!!


「そんな事しません!!」

「えー?本当かなぁ?」

「本当です!!」

「じゃあ、コレ頂戴?」


お兄様が欲しいと指差したのは、私の飲みかけのクリームソーダだった。


・・・サイラスとリカルド様の事は口実で、最初からコレを狙っていましたね・・・?


「・・・はい。どうぞ」

「ありがとう」

溜息を吐きながら手渡すと、お兄様はニコリと嬉しそうに笑いながら受け取った。


そして、スプーンを使って幸せそうにアイスクリームを口に運んでいる。


「美味しいですか?」

私が尋ねると『勿論』と即答された。


なら・・・・・・良いか。


周りを見渡せば・・・お兄様だけでなく、この場にいる皆が幸せそうな顔をしてアイスクリームを食べ、楽しそうに話をしている。

閉鎖的と言われていたエルフ達とこうして同じ空間でアイスクリームを食べている状態は少し前までは想像すらしていなかった。


「この状態はシャルロッテが作り出したものだよ」

「お兄様・・・?」

「シャルロッテの作る物は皆を幸せにしてくれるよね」

お兄様は微笑んだ。


お兄様の言葉に私の胸が詰まった。

心の底からじんわりと温かい物が広がって行く・・・。


私の作った物が皆を幸せに・・・?



「アイスクリーム美味しかったぞ!!」

クリス様がキラキラとした笑顔を浮かべなながら駆けて来た。


「シャルロッテ様にサイラスの嫁に来て欲しいのう」

「それは良いですね。クリス様の本当の婚約者ではないみたいですから」

クリームソーダを片手にすっかり仲良くなったらしいミューヘン辺境伯と長が並んでこちらに来た。


「お祖父様方止めて下さい!」

真っ赤になってそれを止めるサイラス。


「シャル。本当に私の婚約者になっても良いのだぞ?」

「な・り・ま・せ・ん!」

冗談にならない冗談は止めて欲しい。


・・・ていうか、これって明らかにアイスクリーム狙いだよね!?



「えー、シャルロッテは僕の大事な妹だから誰にもあげないよ?」


そこに射し込む一筋の光・・・!!

救世主(おにいさま)!!


って・・・いやいやいやいやいや!!

お兄様が一番のアイスクリームの熱狂的な信者じゃないか!


「・・・皆さんにはアイスクリームのレシピあげますから、私の事は放っておいて下さい!」

私はへたり込む様に椅子に腰を降ろした。


疲れた・・・。本当に疲れた・・・(涙)



「レシピを頂けるのなら・・・スーリーのアイスクリームをエルフの里の特産にしても良いですか?」

長がおずおずと尋ねて来た。


ふむ・・・。

ここにはスーリーの草原もあるし・・・売りにするには持ってこいだろう。

エルフの里だし充分な観光地にもなる。



私はチラッとお兄様を見た。

黙ってニコニコと微笑んでいるという事は、私の好きにして良いのだろう。


それならば・・・。

「良いですよ。その代わりにまた遊びに来ても良いですか?」

「勿論。いつでもどうぞ。何だったらサイラスと結婚して永住して頂いても・・・」

「それは遠慮します!」

ニコニコと穏やかに笑う長に向かってきっぱり告げた。


私にはリカルド様がいるのだ!!



エルフの里がスーリーのアイスクリームを売りにするという事は、外部の人や種族を里の中に招き入れるという事だ。

・・・エルフの里はこれからどんどん変わって行くだろう。

私が心から願うのはサイラスの様な悲しい子供が今後生まれない事だ・・・。

皆でこれから生まれてくる次の世代を見守って欲しい。


それに、里が解放されればサイラスがスーリーのアイスクリームを口実に遊びに来る事だって出来るだろうしね!





この時の選択を、後に激しく後悔する事になるのだが・・・私はまだ知らない。




後日、里の入口に横断幕が掲げられた。


《アイスクリームの女神シャルロッテの里》


・・・って、《エルフの里》はどこ行った!!

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