復讐しましょう➀
子供の届く高さ位の木の虚の中。そこには白い小さな箱が入っていた。
何が入っているのだろうか?
罪悪感を感じながらも・・・見なければならないと心が騒いでいる。
箱を開けると、その中にあったのは一つの指輪だった。
上蓋の内側には文字が書いてある。
《アレフとエリナの愛し子リリーナ へ》
・・・あれ?『リリーナ』って・・・。
首を傾げる私の横から伸びて来た長い腕が、私の手から指輪の入っている箱を奪って行った。
「これは・・・母の名前・・・?」
指輪の上蓋に書かれた字を完全にリリーの仮面の外れたサイラスが呆然と見つめている。
ハッとした私は右手を翳し、周囲に結界を張リ巡らせた。
これで私達は、結界の外からは《《普通》》に散歩をしている様にしか見えなくなった。
「アレフは祖父の名で・・・エリナは祖母の名です。どうしてこんな所に・・・母の指輪が?」
もう一度、虚の中を見ると、そこにはスーリーの花が一輪残されていた。
・・・まだ新しい物だ。
恐らくは誰かが摘んで添えたのだろうが・・・一体誰が・・・?
「・・・先程、長様の家ではお見掛けしませんでしたが、サイラス様のお祖母様はどちらに?」
「祖母は私が生まれる前に、亡くなったと聞いています」
「では・・・長様の他に、サイラス様に縁のある者は里に居ますか?」
私の問い掛けに、サイラスは首を横に大きく振った。
ならば・・・これは多分、長がした事なのだろうと思う。
・・・贖罪か?
長による行為であれば、本人に聞いてみない事にはその答えは出ない。
・・・指輪を見つけた事は偶然なのだろうか?
私は何か見えない力に、導かれた気がして仕方がない。
普通なら気付かないだろう高さの木の虚の中に、隠すように置かれた指輪の入った白い箱。
決してこの箱は光る素材の物ではなかった。
それなのに・・・私は気付いた。
先程からずっと困惑した表情を浮かべているサイラスと・・・状況が把握しきれない私・・・。
「取り敢えず・・・作戦を実行しましょうか」
私とサイラスは長の家に戻る事にした。
*******
「ようこそ、エルフの里へ」
長の一声で歓迎の宴が始まった。
現在、長の家にいるのは・・・私達四人と、長、その取り巻き五人。その他に給仕やら雑用をこなしてくれる男性エルフが数名。
宴と言えば、見目麗しい女性を多く配置したりするのが定石かと思いきや、ここでは違うらしい。
人族にエルフの女性が見初められるのを・・・又は反対に女性側がこちらに懸想するのを避けたいという意志が丸見えだ。
クリス様もお兄様もイケメンだから仕方ないだろう。
私は・・・王太子の婚約者という事で除外されたのかな?
王太子妃の立場を捨ててエルフの男性に・・・とは普通なら考えられないからね。
本当は違うけどね!?
まあ、最善の策なのだろう。
さて、乾杯で飲むのは勿論コレ。私が用意した睡眠薬入りのジュースである。
「アヴィ家で開発した、食用花のスーリーを使用した新しい飲み物です。ゆくゆくは国の事業として売り出す予定ですが・・・皆さんには先に友好の印として試飲して頂けたら、と思います」
クリス様の目配せの後に、一本の大きな瓶を見せながらお兄様が説明を始めた。
それは直ぐにエルフ側の給仕の手に渡り、それぞれのグラスに注がれた。
未知の飲み物に、予想通りなかなか口を付けようとしないエルフ達を見てたクリス様は、先人を切る様にグラスを傾けた。
「・・・これは・・・!?・・・美味しい!」
瞳を見開いてグラスを見つめるクリス様。
あれ?クリス様には飲ませた事がなかったんだっけ??
・・・ま、まあ、結果オーライだ!
美味しそうにグラスを空けたクリス様を見た、長を始めとしたエルフ達が釣られるようにして次々とグラスを傾けてくれたのだから・・・!
本日は氷の力を借りず、私の魔術によりキンキンに冷してある。
美味しいのは保証付きですよ!!
ただし、睡眠薬が入ってるけどね!
「「こ、これは・・・」」
「「「美味しい・・・!!」」」
「口の中がビリビリする・・・!!」
呆然とグラスの中を見つめるエルフ達を横目に、私は内心でニヤリと笑いながら自らのグラスを傾けた。
うん。美味しい。
因みに、私とお兄様の分にも睡眠薬はちゃんと入っている。
私達が給仕をするのを阻止されるなんて事は想定内だ。だからこそ先に仕込んでおいたのだ。
私とお兄様は眠らない様に解毒剤を飲んであるし、サイラスは私の侍女をしている為に同じテーブルには着かない。それでも万が一を考えて、解毒剤は飲ませてあるから安心だ。
クリス様やエルフ達は、初めて飲んだ炭酸ジュースの話で盛り上がっている。
ふふふっ。
作戦の第一段階は成功だ。
後は眠ってくれるのを待つばかりだ。
「このスーリーのジュースは、シャルロッテ様が考えたのですか!?」
ふと、その声に視線を上げると、瞳をキラキラさせた男性陣がこちらを見ていた。
うっ・・・眩しい。
「・・・ええ。そうですよ」
私はしっかり三重に猫を被りながら微笑んだ。
その他にも【ラベル】や【シーラ】でも同じ様なジュースを作った事を説明すると、彼らの興奮は更に増した。
お酒が入っていないというのに・・・このテンション。
雄叫びが聞こえて来そうだ(汗)
宴なのにお酒飲まなくて良いの・・・?
「僕の妹が作る物は何でも美味しいのですよ。このジュースも僕は好きですが・・・」
にこやかな笑顔を浮かべたお兄様がズイッと皆に近寄った。
「このジュースにアイスクリームを乗せたら・・・最高ですよ」
途端に周囲がざわめき出す。
私の側に控えているサイラスもソワソワし出した。
「ルーカス様。アイスクリームとは・・・?」
取り巻きの一人が、ゴクリと喉を鳴らしながらお兄様に尋ねてくる。
「ふわっとした甘い口溶け・・・濃厚なのにくどくない・・・夢の様な食べ物です」
恍惚とした笑みを浮かべるお兄様。
そんなお兄様を見ていた視線が一斉に私を向いた。
「あ、あの・・・シャルロッテ様・・・」
期待に満ちた視線・・・。
お兄様・・・復讐をしに来た場所で信者を増やしてどうするの・・・。
「シャル・・・」
クリス様・・・お前もか!!
あぁぁぁぁ・・・。
全員がショボンとしている犬に見える。
この状況をどうしろと・・・?
頭を抱えそうになった。その時。
・・・一人、また一人とテーブルにもたれ掛かる様に・・・あっという間に私とお兄様とサイラスを除いた皆が眠りに落ちた。
その中には給仕の男性数名も含まれていた。
いつの間にか睡眠薬入りのジュースを口にしていた様だ。
お、丁度良い!
立ち上がった私達は行動開始をした。




