お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

王都へ③

待ちに待ったランチタイムー！！

お店の中で座って食べるのも良いけど、王都にまで来たのだから、ここでしか食べられない物を堪能したい！

・・・と、いう事で、王都にある屋台街にやって来ましたー！

わーい！

勿論、最初の目的は《フルッフ》だ。

色とりどりの果実がたくさん乗ったフルッフを売っていた屋台で一つだけ購入した。

他にも色々食べたいから、フルッフはお兄様と半分個して食べる事にしたのだ。

《フルッフ》は、ワッフルの様な形をしたパンケーキだった。

甘酸っぱい果物が良いアクセントになっている。

うーん。これだけでも美味しいけど・・・

「・・・シャルロッテ、これにはアイスクリームが合うと思わない？」

何と！お兄様も私と同じ事を思っていた！！

そうなのだ。アイスクリームがあったら、この《フルッフ》は完璧だ。

流石はアイスクリームの信者だ！

「アイスクリームと一緒に食べてみたいんだけど・・・作れる？」

「優秀な料理人さん達がいますし、作れると思います！」

彼等もまたアイスクリームの信者だから、喜んで手伝ってくれるだろう。

「じゃあ、よろしく！」

ふむ・・・。やっぱりこれは早くアイスクリームを広めなければいけないかもしれない。

帰ったらミラに相談しようかな。

そして、アイスクリームマシーンを作るのだ！

っと・・・甘い物を食べたら、塩辛い物が食べたくなった。

さて次は何が良いだろうか・・・。

キョロキョロと辺りを見回していると、屋台の一角に人だかりが見えた。

あんなに人が大勢いると言う事は人気の屋台なのかもしれない。

私はお兄様の手を引いて、人だかりのある方へ向かった。

近付いて行くと・・・それが屋台に並ぶ人達ではない事に気付いた。

ザワザワと騒がしいそこの中心に、言い合いをしている様な若い男女の姿を見つけたからだ。

「だから～！行かないって言ってるでしょ～！？」

「良いから付き合ってよー。奢るよ？」

「い・や・よ！！しつこいな～！」

女の子が凄く嫌がってるけど、皆は関わりたくないのか遠巻きに見ているだけで、誰も止める素振りがない。

・・・どうしよう。

ハラハラとしながら成り行きを見守っていると、琥珀色の瞳の女の子と目が合った。

年はお兄様と同じ位だろうか。

白金色の長い髪に、琥珀色の瞳。長く尖った耳。それは麗しいエルフの特徴だ。

ほんのり化粧のされている美少女の顔には・・・見(・)覚(・)え(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)。

誰だっけ・・・？凄く見覚えがあるんだけど・・・。

レースやフリルがたくさん付いた白とピンク色のロリータファッションを着る様なエルフに知り合いなんて・・・いないよね？

「あれは・・・サイラスか」

お兄様が眉間にシワを寄せて呟いた。

・・・サイラス？

ナンパしてる方がお兄様の知り合い？

サイラス・・・サイラス・・・・・・サイラス？

あの・・・エルフは女の子だし。

・・・いや、ちょっと待って。

目を閉じて集中し、想像力を高める。

あのスラッとした長身・・・化粧を取って学院の制服を着せたら・・・。

「・・・【サイラス・ミューヘン】！？」

良く知っている顔が浮かび、思わず叫んでしまった。

「あれ？サイラスを知ってるの？」

お兄様が私の顔をジッと見つめる。

「え、ええと・・・まあ・・・」

私の微妙な反応で事情を察してくれたお兄様は、私の頭をポンポンと優しく叩いた後。

「ちょっと行ってくるよ。」

そう言ってサイラスの方へ向かって行った。

ここに来ての、まさかの・・・サイラスか。

これで不本意ながら攻略対象者全員に全て出会ってしまった事になる。

お兄様、クリス様、ハワード、ミラ、サイラス・・・。

この世界に生きる彼等が、ゲーム中の彼らとは微妙に変わってしまっているのは気付いている。

・・・だけど、攻略対象キャラが性別まで変えようとしているだなんて普通は思わないじゃない？(汗)

ただの女装癖か、心からお姉さんなのか。

複雑な問題にぶち当たった気もするけど・・・・・・。

まあ・・・良いか！！

私の攻略対象者じゃないし！

私が彼方を苛めたり、悪事を働いたり、彼らと関わりを持たなければ良いだけだ。

そうすればシナリオ通りにストーリーは動かないはずだ。

関わりたくないのに、何故か接点が増えたりするのは・・・決して私のせいではない！

・・・気にしない！

気にしたら負けよ！シャルロッテ。

「ありがと～！助かったわ～。」

お兄様がサイラスを連れて戻って来た。

二人が並んで歩いていると、長身の美男美女のカップルにしか見えない。

「サイラス。妹のシャルロッテだよ」

「もぉ～！サイラスは止めてって言ったのにぃ！」

サイラスはお兄様に向かって頬をプーッと膨らませた後に、私に向き直った。

「まぁ～！あなたがシャルロッテちゃんなのね！初めまして、お兄様のお友達のサイリーで～す！」

ニコッと琥珀色の瞳が細められる。

その瞬間、ゾクッと背筋に寒気が走った。

『この人は怖い人だ』と、私の本能が告げている。

こんな格好をしていてもサイラスの腹黒設定はそのままらしい。

「初めまして、シャルロッテ・アヴィです」

精一杯、猫を被って淑女の礼を取る。

この手の人間には弱みを見せたら終わりなのだ。

トドメとばかりに、可憐を装って微笑めば・・・・・・

「シャルロッテちゃ～ん、可愛い～！あたしの妹にならない～？」

サイラスが私に抱き着いて来た。

・・・駄目だ。元のサイラスのイメージと違いすぎて混乱する・・・。

私の知るサイラスは決して、ヒラヒラのフリフリのロリータファッションに身を包む様な・・・お姉さんではなかったのだ！

「きゃっ・・・！」

ヒラヒラでフリフリを着てはいるが、この力強い腕の力は本物の男性の力だ。

「サイラス様・・・！」

「そんな男みたいな名前で呼ばないでよ～！『《《サイリー》》』って、呼・ん・で？ 」

大切な事だから二回言うけど・・・

『こんなお姉さんじゃなかったのだ！！』

と、ここで『王都へ➀』の冒頭に戻ったわけだが・・・。

サイラスに抱き着かれたままの私は途方に暮れていた。

チラッと横を見れば、お兄様は凄く楽しそうに微笑んでいるお兄様。

・・・・・・私のこの状況を見て楽しんでるな？　他人事だと思って・・・。

サイラスはサイラスで、私の頭の上から鋭い瞳で観察しているし。

私、睨まれる様な事やらかしたかな？

お兄様は助ける気がないし、サイラスも放す気がないらしいし・・・。

どうしようかな・・・。

私は溜息を吐きながら天を仰いだ。

サイラスは【ミューヘン】辺境伯の孫ら(・)し(・)い(・)。

『らしい』と言うのは、そういう噂からである。

エルフの母と人間の父から生まれたサイラス。父親はサイラスが生まれる前に事故で亡くなってしまったそうだ。

母は父親の家柄や素性を話さなかったし、サイラスもそんな母に気を使って父親の事を聞かなかった。

人間の血が混じった《ハーフエルフ》のサイラスは、生まれた時からエルフ達から迫害されて生きてきた。エルフ達はハーフエルフの存在を忌み嫌っているからだ。

それでも母が生きていた時はまだ良かった。優しい母が同胞のエルフ達からサイラスを必死に守ってくれたからだ。だが・・・そんな彼の母は長年の心労が影響したのか、サイラスが八歳の時に亡くなってしまった。長寿であるはずのエルフが・・・だ。

サイラスは幼い時から魔力が高く、様々な魔術を得意としていた。

それに目を付けたエルフ達が、彼を暗殺者に仕立てようとしていた所をミューヘン辺境伯老夫婦が引き取ったのだそうだ。

辺境伯は『亡くなった息子の子供だ』だと言ったが、サイラスの境遇を不憫に思った辺境伯が見かねて『孫』として引き取ったのではないかと言われている。

サイラスは自分を引き取って育ててくれた辺境伯老夫婦の恩に報いる為に、辺境伯の元で暗躍しているのだ、と・・・。

同じ様に祖父に引き取られたリカルド様とは随分と違うな・・・。

もしかしたら、お姉さんの格好をしているのは何らかの活動だったり・・・？

私はチラッとサイラスを見た。

「シャルロッテちゃん、どぉしたの～？」

うーん。これが演技なら凄い。

見た目は普通にお姉さんになってるし、声だって少しハスキーな女の人の声に聞こえる。

女子力も高いな。

それよりも・・・そろそろ私を解放して下さい。

私は再度、お兄様に助けを求めた。