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王都へ➁

王立ラヴィッツ学院へ続く大通りには仕立屋が何軒も連なって立っていた。

私達を乗せた馬車はそれらの店に止まる様子もなく、次々と素通りしてしまう。

そして、大通りから少し離れた・・・若干狭い場所にあった一軒の仕立屋の前で止まった。


歴史を感じるやや小さめな建物。

お店のショーウインドーには、王立ラヴィッツ学院の男女の制服を着せたトルソーが二体見えた。

看板には《エトワール》と書いてある。


エトワールとはフランス語で《星》を意味していた言葉だったと思う。

この世界には、フランス語は存在していなかったはずだが・・・・・・?

私は看板を見つめながら首を傾げた。


馬車を降りた私とお兄様は濃紺色のお店の扉に手を掛けた。

扉を開けると、カランという鈴の音がした。


「いらっしゃいませ」

出迎えてくれたのは、濃紺のワンピースを上品に着こなした小柄な老女だった。


「・・・まあ、まあ!ルーカス様ではないですか」

「マダム。ご無沙汰してます」


おお。ここはお兄様の知っているお店だったのか。


「大きくなりましたねぇ」

孫を見る様に瞳を細めて笑うマダムの目尻のシワが一層深くなる。


「そちらの可愛らしいお方は・・・?」

「妹のシャルロッテです」


お兄様に紹介された私は淑女の礼をした。


「初めまして、シャルロッテと申します」

「あらあら。可愛らしいのにしっかりしてるのね。私はメリー。皆にはマダムと言われてるのよ」

「では、私もマダムと呼ばせて頂きますね」

ニコッと笑うと、マダムは柔らかい微笑みを返してくれた。


「マダム、今日は制服を注文しに来たのですがよろしいですか?」


「ええ、勿論ですよ。あんなに小さかったルーカス様もラヴィッツに入学する年になったのですね。・・・私も年を取ったものだわ」

ふふっ。と笑うマダムは少女の様に可愛らしかった。


「いえ、マダムはいつまでも若くて可愛らしいですよ」

「おばあちゃんをからかっては駄目ですよ。さあ、こちらで採寸をしましょうか」


マダムは大きな姿見のある部屋へ私達を案内してくれる。

薄着になったお兄様を姿見の前に立たせると、マダムはメジャーを使って次々に身体の寸法を計っていく。

ここはお父様も制服を作った仕立屋なのだと言う。


お兄様の採寸の間。暇な私はお店の中を見せてもらう事にした。


マダムのお店では、オーダーメイドが主流なこの世界の仕立屋では珍しい、既製品のワンピースやドレス、ボレロ等も販売していた。

これらを購入者の体型に合わせてお直しするのだそうだ。


お店の中の一角にあったテーブルの上には、ドレスのデザインされた画集の様な物が何冊かあった。

デザインは年代物のドレスや最近の流行りのドレスまで・・・と多種多様だった。

《エトワール》は接客の苦手な職人気質の旦那さんと娘さんの三人で経営しているらしい。



こ、このドレスは・・・・・・!


一枚のドレスのデザイン画に目が釘付けになった。


真っ白なウエディングドレス。

和泉の好みドストレートのデザインだった。


プリンセスラインの柔らかい丸みを帯びたドレスは、胸元から裾にかけて花模様の細かいレースの刺繍が施され、背後は腰の辺りで大きなリボンが結ばれ、大きめなドレープのスカートが幾重も重ねられたデザインだった。


つり目な私には似合わそうな甘めなドレスだが・・・こんなドレスを来て結婚式が出来たら素敵だろうな・・・。

そして、その隣には・・・。



「何か良いデザインでもあった?」

「わっ・・・!!」

急に肩越しにお兄様の顔が出て来て、ビックリした私はあたふたと慌てた。


「・・・ふーん。リカルドとの結婚式でも想像してた?」

「え・・・?あ、あの・・・」


ウエディングドレスのデザイン画に目を止めたお兄様の顔は、心なしか不機嫌そうに見えた。


「も・・・もう、終わったのですか?」

「うん。マダムは腕が良くて早いからね」


しどろもどろになりながら話題を変えた私を、お兄様は珍しく弄って遊ばなかった。


・・・珍しい。どうしたんだろう?

いつもなら私が真っ赤になって怒るまで続けるのに・・・。


そう思ったが・・・色々と(つつ)いて藪蛇にはなりたくないので黙っておく。



「シャルロッテが見てたドレスは買えないけど、これはどう?」


お兄様が差し出してきたのは、袖のある膝下の長さのドレスだった。肩のデコルテ部分が薄いレースの様な物で透けていて、胸元から裾にかけて白から薄紫のデコレーションとなっている。所々に紫色の花の刺繍が散りばめられた、大人っぽくも可愛いデザインをしている。


「可愛い!!」

「うん。気に入ってくれると思った。試着して見せて?」

「・・・え?」

「良いから、良いから」

お兄様は私を試着室のカーテンの中に押し込んだ。


私は戸惑いながらも着ていたワンピースを脱いでドレスを着た。

届かない後ろのファスナーはマダムが上げてくれた。



「どうですか?」

試着室から出た私は、クルリとお兄様の前で一回転して見せる。


まるで、オーダーメイドされたかの様に私の身体にピッタリだった。

裾がふんわり揺れて可愛い!!


「うん。凄く似合うよ。今日の晩餐会に着てね。僕からのプレゼントだよ」

お兄様は瞳を細めて微笑んだ。


お兄様に買ってもらっちゃって良いのかな・・・?

そんな葛藤が芽生えたが・・・・・・私は思いきって甘える事にした。

それだけこのドレスが気に入ってしまったのだ。


「ありがとうございます。お兄様!」

「どういたしまして。僕のお姫様」

お兄様は私の額に小さなキスを落とした。


なっ・・・?!



「リカルドばかりにされるのは面白くないからね」

真っ赤になって額を押さえる私を見たお兄様は、悪戯が成功した子供の様にペロッと舌を出して笑った。


「さて、着替えてランチにしようか」


私はまたマダムに手伝ってもらいながら試着を終えた。

何だかおまけの私の方が得をしてしまった気がする・・・。



「マダム、お世話になりました。では、よろしくお願いします」

「マダム、ありがとうございました!また来ますね!」

お兄様と一緒にマダムに頭を下げる。


「かしこまりました。また、いつまでもお待ちしておりますよ」


包んでもらったドレスを手にして、私達はマダムの店を後にした。


私は馬車の中のから、マダムのお店が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。



馬車の中。

お兄様が《エトワール》を選んだのは、お父様が制服を作った場所と言う理由もあるが、王都で一番腕が良く信頼の出来るお店だからなのだと言っていた。

大通りにある仕立屋は、高いばかりで腕があまり良くなく、約束した期間に品物を準備出来なかったりと・・・評判の良くない店が多いらしい。

見た目の華やかさや、直ぐに見つけられるという手軽さに騙される子息も多いらしいが、そこは事前のリサーチ不足なので、あくまでも自己責任になるらしい。・・・・・・厳しいな。


まぁ、ちょっとでも調べれば、マダムの《エトワール》の他にも、腕の良い仕立屋が分かる様になっていると言うのだから仕方無いか。

頑張れ若者。



因みに、買ってもらったあのドレス。

実はお兄様がデザインをした私の為のオーダーメイドのドレスだったそうだ。

デザイン画とサイズをマダムに送り、それを形にしてもらったのだと。

だからあんなにピッタリだったのか・・・。

私のサイズはアヴィ家御用達の仕立屋さんが知っているからね。


その事を知ったのは暫く経ってからだった。

驚いた私の顔を見たお兄様はとても満足そうに笑っていた。


言ってよーー!!

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