ダンジョン③-2
そんなこんなで漸く、地下八階層に到着した私達一行。
地下八階層は・・・何と言えば良いか・・・。
井戸の様な物が無数に点在している日本のお化け屋敷的な造りをしていた。
これって・・・さ〇子が出て来そうなヤツだよね・・・?
身震いした私は思わず近くにあった腕に縋り付いてしまう。
「ん?シャルは怖いのか?」
私が縋り付いた相手はお兄様ではなく・・・クリス様だった。
チッと間違えた自分に対して舌打ちしそうになったが、ハワードではないのだから良しとした。
「はい。少しだけですが」
私はそう答えながらクリス様から離れた。
そんな寂しそうな顔をされても、私は離れますよ?
だって、お兄様と間違えただけですからね!?
蜘蛛よりお化けの方が良いとは言った私だが・・・こんなのは想像してなかった。
明らかにこちらを驚かしてくる気満々な演出は苦手だ。
・・・ほら。
早速、井戸の中からソロリと細い指が出て来たじゃないか。
次は頭か?と咄嗟に身構えるものの・・・手が出て来た所で動きが止まったままだ。
・・・・・・?
もしかして近寄らないと出て来ないパターン?
首を傾げていると・・・
「 【幻幽】が出たぞ!!皆、気を引き締めろ!!」
先頭にいるお父様が大きな声で言った。
【幻幽】!?
視線を凝らしながらお父様達の所を見ると、そこには風船大の大きさの白く透き通る丸い物体がいた。
・・・アレが幻幽なの?
それは、マ〇オに出てくるテ〇サの様な姿形をしていた。
背中を向けると襲い掛かってくる。正にあの姿だった。
予想外にファンシーな姿に拍子抜けしたが・・・現れた幻幽の数が多かった。
これでは装備の整っていなかったお父様達は随分と苦労した事だろう。
今回、お父様達は幻幽対策として聖なる気を宿した剣や槍等の武器を使用してはいるが・・・苦戦をしているのか追い付いていない。
どんどんと数を増やし続ける幻幽は、結界を張って支援をしていたこちらにまでやって来た。
チートさん仕様の完全防御結界には、触れた瞬間に浄化する様な効果を付与てある。
初めの数匹は無謀にも突っ込んで来たが、残りの幻幽は遠巻きにして警戒をしている。
「随分と頭の良い魔物だな」
「そうみたいですね」
私はクリス様に答えながら、今後の展開を考えていた。
・・・さて、どうしたものか。
余計な警戒を与えない為にも、ここは一気に私の魔術で殲滅した方が早い気がする。
「いや・・・そうか・・・でも・・・んー」
思考しながらグルッと周りを見渡すと、ミラが顎に手を当てながら何やら呟いている姿が目に入った。
「・・・ミラ、どうかした?」
「あ、そうか・・・。シャルロッテがいるんだ」
尋ねると、ハッと何かを思い付いた様な顔で私を見た。
その言い方・・・。何か嫌な予感がする・・・。
「シャルロッテ。あそこにある透明な魔石が欲しいんだけど・・・」
ミラが指差す方向には透明な魔石が幾つか落ちていた。
「魔石?幻幽も魔石を落とすんだね?」
私はそう言いながら首を傾げた。
今までの魔物ならともかく、実体を持たない幻幽にまで魔石があるとは思わなかった。
「うん。魔石は魔物の核・・・力の集合体だから、生まれたての魔物以外にはあるよ」
つまりは・・・生まれたての魔物は魔石になる程の力を溜め込めていないという事か?
「幻幽の魔石を集めてどうするつもり?」
「何か作るのか?」
私達の会話に、お兄様とクリス様も参加して来た。
「幻幽は互いを認識する性質があるみたいなんだ。幻幽の核であるあの透明な魔石を使って誘導出来ないかな?って」
「誘導してどうするの?」
「あれを見ていて・・・。幻幽は融合するんだ」
またまたミラの指す方向を見ていると・・・・・・
「あ、合体した!」
二体の幻幽が溶けるみたいにして重なった。
融合した幻幽は少しだけ大きくなった様な気がする。
「そう。そして、融合した幻幽は元には戻らない。つまり・・・」
「全ての幻幽を融合させてから倒せば良いと?」
ミラは大きく頷いた。
ミラの《鑑定》は魔物にも使えるらしい。
鑑定で魔物のステータスが見えるなんてRPGのゲームみたいだ!
「ただ・・・問題は魔石を使って、どういう風に集めるか・・・なんだよね」
「それなら良い方法があるんだけど!」
私はテ〇サの様相をした幻幽を見た時から思っていた事があったのだ。
「集めた魔石で、こんな魔道具作れないかな?」
私は身振り手振りでミラに説明をする。
「作った事が無いから分からないけど・・・やってみよう!シャルロッテも力を貸してね」
「私達も強力しよう」
私とクリス様、お兄様も大きく頷いた。
先ずは魔石集めだ。
完全防御結界ミニを纏ったお兄様とクリス様が担当する。魔石を集めがてら、お父様達に今後の作戦を伝えてもらう事になっている。
この場に残った私とミラは今後の作戦を練る事にした。
「魔石が集まったら、作りたい物をイメージしながら魔石に魔力を注いで欲しいんだ。ミラはそのイメージを形にするから」
「うん。分かった」
「・・・それにしても・・・シャルロッテの想像力は規格外だよね」
ミラは感心した様な、呆れている様な微妙な顔で笑っている。
「君と一緒にいるとミラの悩みがちっぽけな物に思えてくるよ。この瞳や容姿だってそうだ。あんなに・・・忌み嫌われて・・・だから今までずっと隠して生活をして来たというのに、君やルーカス・・・ここに住む使用人を含めた全ての人が、あっという間にミラを受け入れてくれた。・・・ミラの家族が拒否をした事なのに」
「ミラ・・・」
「全く・・・。シャルロッテはミラに酷い事しかしないから耐性が付いたのかな」
ニコリと笑うミラ。
「そんな心配そうな顔しないで!ミラはもう辛くないよ。シャルロッテはミラが寂しくならない様に、振り回し続けてくれなくちゃ駄目なんだからね?」
ミラは私の両頬をムニッと摘まんだ。
「み、み・・・りゃ・・・」
「ははは。柔らかい頬っぺただ。触りたくなるルーカスやリカルド様の気持ちが分かるよ」
ムニムニと私の頬を左右に伸ばし続けるミラ。
「あたっ!」
私はそんなミラの頭に遠慮無く手刀をお見舞いした。
「いつまでも乙女の頬を伸ばさない!!そ、それに・・・リカルド様の話は駄目・・・」
真っ赤な顔で唇を尖らせて私は俯いた。
まだ、色々と心の整理が付いていないのだ。
ミラは俯いていた私の両耳をいきなり何も言わずに押さえた。
「え?・・・ミラ?何?」
「あーあ。リカルド様ズルいなー・・・。ミラの方が先に会いたかったよ」
「何話してるの?手をどけてくれないと聞こえないよ!?」
私が抗議すると、ミラの手は簡単に外された。
「何でもないよ?あ、でも悪口は言ったかも!」
「へっ?!何だとー!」
「痛っ!痛いよそれ!シャルロッテの馬鹿力!!」
頭にきた私はミラの頭部に何発かの手刀を打ち込んだ。
「ミラが悪いの!後悔しないでよね?ミラが嫌がって泣く位に振り回してやるんだからね!!」
「はいはい。楽しみにしてるよ!」
笑顔で、ベーっと舌を出したミラが後悔するまで・・・・・・後少し。
自分でフラグを立てちゃ駄目だよね!テヘッ。
そんな私達のじゃれ合いをお兄様が複雑そうな顔で見ていたを私は知らなかった。




