待望⑤~ご褒美の後には・・・
やって来ました魔王様。
・・・うん。抜かりが無いね(涙)
「・・・お兄様。そっと後ろに立つのは止めて下さい」
普通にビックリしたからね!?
声を放つまで、足音も気配も無いって何者だよ!
リカルド様は苦笑いを浮かべている。
驚いた素振りがない事から、気付かなかったのは私だけだった様だ。
「やましい事をしてるからじゃないの?」
ニコニコ笑顔のまま、首を傾げるお兄様。
「そ、そんな事してません!」
尻尾をモフモフしながら、リカルド様に頭を撫でてもらっただけじゃないか!
け、健全だよ!?
「ふーん?」
瞳を細め、ジーッと探る様な眼差しでリカルド様を見つめるお兄様。
リカルド様はその視線から逃れる様に瞳を逸らした。
・・・あれ?
もしかして、リカルド様的にはさっきのがやましかったり・・・?
「・・・なるほどね」
キョトンと二人を見ている私を見たお兄様は何かを察したらしい。
何が『なるほど』なのだろう・・・?
お兄様の言いたい事が全く分からない。
「シャルロッテは、獣人の習性をどこまで理解しているの?」
獣人の習性??
ゲームの中では獣人キャラの攻略対象者がいなかったから・・・この世界での常識は分からない。
攻略対象者じゃなければ、詳しく説明もされないしね。
シャルロッテが今までに出会った獣人はリカルド様だけだし・・・。
和泉の知識としては・・・獣人は生涯たった一人の番だけを愛するとか、モフモフな尻尾とか、モフモフなお耳とか、完全獣化が出来るかどうかとか・・・?
「んー。良く分かってないみたいだね」
苦笑いを浮かべるお兄様。
リカルド様もお兄様と同じ顔をしている。
・・・・・・?
何が言いたいのか分からない。
今後の事もあるし・・・後で調べようっと!
「まあ、頑張れば?応援はしないけど」
「ああ・・・うん」
お兄様がは笑いながらポンとリカルド様の肩を叩いた。
「それで?リカルドは魔術を使えた?」
庭園の隅にあるテーブルセットに座り直した私達。
私の隣にはお兄様が当然だとばかりに座っています。
チラッと見ると、『何か文句ある?』そう眼差しで返さた。
・・・何でもありません。
先程まで隣に座っていたリカルド様は向かい側の席に追いやられてしまった。
あー、リカルド様が遠いよー。
もっと一緒に座りたかったなぁ・・・。
お兄様のKY・・・。
いえ!何でもありません・・・って。
「勿論です!こっちの二つは私が作りました。因みに、透明な方がシーラで、薄いピンクの方がスーリーのシロップです。そして、こっちの二つはリカルド様に作って頂いたシーラのシロップです」
「これ?」
お兄様はリカルド様が作ったシーラのシロップと私が作った物とを見比べた。
「へー。ちゃんと作れたんだ」
「シャルロッテのお陰だよ」
お兄様がチラッと意味深な視線を私に寄越す。
・・・はいはい。
『シャルロッテ』と呼んで貰える様になりました!!
後で詳しく説明しますよ・・・。
「シャルの?」
「最初はウンともスンとも反応しなくて、諦めかけたんだけど・・・シャルロッテが僕の中に魔力を流してくれた後から、不思議な事に魔術が使える様になったんだ!」
頬を高揚させながら興奮気味に説明をするリカルド様。
無邪気な子供の様にはしゃぐリカルド様は可愛いけど・・・。
「説明して?シャルロッテ」
・・・お兄様からの圧が凄い。
「・・・はい。魔術が発動しない理由を調べる為に、リカルド様の中に私の魔力を循環させました。そして、その時にリカルド様の身体の奥底に、魔術が閉じ込められている箱の様な物を見つけまして・・・その箱の鍵を開けたら、リカルド様の身体の中に魔力が循環し始めたのです」
「・・・自分の魔力を相手に流すとか、突拍子もない事をよく思いつくね」
呆れた顔のお兄様。
和泉がゲームや小説から得た情報を元に試してみただけなのだが・・・この世界にはない方法らしい。
やっちゃった?
まあ、リカルド様とお兄様しか知らない事だからノープロブレム!!
それよりも・・・
《獣人が魔術を使えないのは何故か》
私は今回の事でとある仮説を思い付いた。
《魔術を使う》≒《退化する》と獣人達の祖先は考えたのではないか、と。
だから、獣人は魔術を使えない。
魔術を使用する事で獣人としての優れた本能や直感力等が衰える事を危ぶんだ祖先達が、種の保存の為に魔術を封じる仕組みを獣人達の遺伝子に組み込んだのでは?と。
これはあくまでも私の仮説であり、思いつきだから・・・真実はまた別にあるかもしれない。
他の多くの獣人達や、魔術の使用出来ない一般の人を見比べてみない事には結論は出せないだろう。
魔術が使える様になったリカルド様は果たして大丈夫なのか?
これも経過をみなければ何とも言えない。
しかし、人と獣人のハーフであるリカルド様だ。
二つの種がバランスを取り合って上手く行くと私は思っている!
それに何より、リカルド様が魔術を使いたがっていたのだ!
叶えてあげたいと思うのが・・・愛じゃないか!!
【鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス】
私のチートさん偉い!良くやった!!
勿論、何かあった時は全力でフォローします!
箱の鍵を壊さなかったのは、元に戻せる事も考慮してだ。
「それで、これか。シャルらしい。・・・・・・美味しいの?」
私らしい?
そこに引っかかったが・・・試飲を望むお兄様の為に、手早くジュース用意する事にした。
お兄様の機嫌は良いに限るのです!
リカルド様が作った方はお持ち帰りして貰うので、使うのは私が作った方のシロップだ。
商売に使うなら、アーカー公にも試飲して貰わないと話にならないからね。
氷を出し、シロップを入れる。そこへタンサン水を入れたら・・・
あっという間にシーラとスーリーの美味しいジュースの完成だ!
お兄様も水割りよりタンサン水を選んだよ!
「先ずは・・・」
お兄様が先に選んだのはスーリーのジュースだ。
「・・・うん。美味しい」
ふむふむ。お兄様の反応は良いね。
「次はシーラです」
お兄様と一緒にリカルド様にもシーラのジュースを渡す。
「ありがとう」
「どう致しまして」
ニコリと笑い掛けてくれるリカルド様に釣られて私も笑う。
ふふふ。
リカルド様、素敵!!
「へー、シーラも美味しいね。」
またしてもお兄様の反応が良かった。
「これでシャーベットも作れると思います」
それに気を良くした私は次なる商品のプレゼンを始めた。




