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待望④~ご褒美

「おめでとうございます。これが、シーラのジュースのシロップの作り方です。リカルド様のお好きな様に加工をして、アーカー領で使用して頂いて構いませんよ」

私はニコリと笑った。


もう一つの瓶の中のシーラを、一人だけでシロップに作り上げる事が出来たリカルド様。

シーラのシロップの権利は、約束通りにリカルド様の物だ。


「後はシーラのお酒ですが・・・お酒の方は、ちょっと待って下さい。私がまだ飲めないので上手く出来る自信がありません。・・・ですが、クランクラン酒にシーラを加えるだけでも面白いかもしれませんよ」


シーラで作るお酒は、きちんと完成した状態の物をリカルド様に教えたい。

自分が納得した物ではないのを教えるのは私的にナシだ。

お兄様に言われたが私はこれで妥協はしたくない。



「うん。分かった」

私の意を汲んでくれたリカルド様が大きく頷いた。


そして、椅子から立ち上がり、私の方へと向かって来ると・・・


「・・・っ?!」

私の直ぐ側でリカルド様が跪いたのだ。


え?何?

予想外なリカルド様の行動に、私はプチパニック状態である。



「シャルロッテ嬢。この恩は一生忘れない」

私の手を取りながらそう言った後に、手の甲へ唇を落とした。


リ、リカルド様があぁっ・・・!!

大好きなリカルド様が跪いて手にキスとか・・・どんな状況だ。


・・・駄目だ。余りにも現実離れし過ぎていて・・・倒れそうだ。

こんなのまるで物語に出て来るお姫様みたいじゃないか。


私はそれをギュッと唇を噛み締めて耐える。

気を抜いたら醜態をさらしてしまいそうだ。


「僕は君に何を返せるのかな・・・」

リカルド様は、眉間にシワを寄せて困った様な顔をしている。


私がリカルド様の役に立ちたくて勝手にやった事だから、リカルド様が気にする事はない。

邪心はあったが、嬉しそうなリカルド様を見ていたら吹き飛んでしまった。


でも、もし、リカルド様が気にするというならば・・・

「では・・・これからずっと『シャルロッテ』と呼んでくれますか?」


「え・・・?それだけで良いの?」

「はい。それだけで私は充分に嬉しいです」


好きな人に自分の名前を呼んで貰えるだけで、幸せになれるから・・・。

なーんて、言えないけどね!


「・・・ありがとう。シャルロッテ」


あぁぁぁっぁぁ!

はにかむリカルド様可愛すぎる・・・!!

私をこんなに夢中にさせてどうするつもり?!


「リカルド様。お召し物が汚れてしまいます。こちらへどうぞ」


にやけそうになる顔を堪えながら、空いてる隣の席をポンポンとを叩く。

リカルド様はゆっくりと立ち上がると、そのまま隣の席に腰を下ろした。


自分で誘導しておいて・・・なんだけど、恥ずかしいぞっ。


ん?

悶えそうになる私の背をフワフワとした感触が撫でた。

くすぐったさに身動ぎすると、リカルドが瞳を見開いたままこちらを見つめていた。


「ご、ごめん!」

真っ赤な顔で、尻尾を抱えるリカルド様。


先程のフワフワにな感触はリカルド様の長い尻尾によるものだったらしい。

な・ん・で・す・と!?

・・・尻尾から来てくれたならモフモフしたかった。

モフモフ・・・モフモフ・・・。


「今日は尻尾に触っても良いですか?」

逃がした魚は大きかった・・・。

モフ熱が発生した私はダメ元で頼んでみる事にした。


「・・・え?」

固まるリカルド様。


やっちゃった・・・?


『ごめんなさい!やっぱり無しで!!』

と、慌てて訂正しようとした私の言葉よりも、リカルド様の言葉の方が早かった。


「・・・先の方だけなら」


「へ・・・?」

良いの!?良いなら遠慮無く触っちゃうよ?!


チラッと上目遣いにリカルド様を見れば、リカルド様の顔は困りつつも嬉しそうな・・・、何とも複雑そうな表情を浮かべている様に見えた。


「・・・どうぞ」

「・・・お預りします」

手渡された尻尾を細心の注意を払いながら受け取る。



うわぁ・・・・・・フワフワのモフモフだ。


フワフワと優しい毛並みは、お耳と一緒だった。

ビロードの様な滑らかな触り心地は、私から無駄な感情を考える余裕を奪ってしまう。

スンと、匂いを嗅げばリカルド様の匂いがした。

爽やかなシーラに似た優しい香り・・・。


断じて、獣臭くなんてないからね?!



「耳の時もだったけど、楽しそうだね。」

くすぐったそうそうなのを堪える様に笑っているリカルド様。


「幸せです・・・」

私は心からの本音を溢し、尻尾を抱き締めた。



「・・・可愛い過ぎて辛い・・・」

顔を両手で隠したリカルド様の声は、くぐもっていて私には聞こえなかった。



その時・・・。

スルッと腕の中から尻尾が逃げ出した。


あ・・・!

慌てて手を伸ばすものの、少しの差で届かなかった。

視線の先ではモフッとしたシルバーグレーの尻尾が左右に大きく揺れている。


『触っても良いんだよ?』

と、そんな誘惑が聞こえてくる。



・・・触りたい。


誘惑に負けた私は、長い尻尾に手を伸した。

そっと触れると、尻尾はパタリと一瞬だけ動きを止めた。


両手で捕まえ様とするが、フリフリと左右に逃げる尻尾の先にはなかなか届かない。

夢中になって追い掛けていると、クスクスと言う笑いが降って来た。


チラッと上目遣いにリカルド様を見ると、ブルーグレーの澄んだ瞳が私を見下ろしていた。

その優しい眼差しにドキッとして動けなくなる。


「触らないの?」

微笑むリカルド様の色気が・・・・・・半端無い。

動揺する私の反応を楽しむかの様に、尻尾が頬をくすぐる。


今だ!と、両手を伸ばして捕まえる。


「捕まってしまったね」

ペロリと悪戯っ子の様に舌を出すリカルド様。


・・・捕まったのは私だ!


モフッと尻尾に顔を埋める。

優しく・・・でも、しっかりと尻尾を抱き締めた。


「僕も幸せ」

リカルド様は私の頭を優しく何度も撫でてくれた。


幸せなご褒美だ。




そこへ・・・

「二人並んでイチャイチャと、随分と楽しそうだね?」


背筋が凍りそうなふぉどに、楽しそうな声が聞こえた。

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