待望③
シーラの花を十個程用意してみた。
半分の五個分のシーラの花弁を千切り、瓶の中に入れる。
もう半分の花弁はまた違う瓶へ入れて準備をする。
最初の一つ目の瓶は、私が指導しながらリカルド様に作って貰い、もう一つの瓶はリカルド様だけで作って貰う予定だ。
さて・・・。
「では、挑戦してみますか」
私はリカルド様の正面に座る。
「リカルド様。瓶に右手を翳して下さい」
「こ、・・・こうかな?」
リカルド様は私の言う通りに瓶の上に右手を翳した。
次はイメージだ。
「先ずは、シーラの花を凍らせます。花弁を凍らせるイメージを膨らませてから呪文を唱えます」
「凍らせるイメージ・・・。うん。分かった。やってみるよ」
リカルド様は瞳を閉じた。
目を閉じてもイケメンだ・・・。
ピクピクと動くモフモフなお耳に触りたい。
そんな事を思いながらリカルド様を見つめていると・・・。
暫くすると、爽やかなリカルド様の眉間にシワが寄り始めた。
あ、マズイ。邪念が通じた!?
内心焦ったが、そうではなかったらしい様だ。
「・・・コールド」
リカルド様が呪文を唱えても、翳した右手の先にあるシーラは凍らなかった。
「やっぱり駄目か・・・」
シュンと肩を落とすリカルド様。
お耳と尻尾が下がってる!!
こんなリカルド様も可愛い・・・。
・・・って、いけない。
こんな事を考えている場合ではない。
「リカルド様。もう一度お願いします」
「う、うん・・・」
お願いすると、リカルド様はもう一度手を翳しながら瞳を閉じてくれる。
私はリカルド様の正面から手を伸ばし、自らの手をリカルド様の手に重ねた。
大きいなとか、スベスベだなぁ・・・とか、もっと触りたいとか、思ってないよ?!
邪念は捨ててるよ?!・・・・・・半分は!
「・・・え?!」
急に私が触ったりしたから驚いたのだろう。
目を丸くしながら焦り出すリカルド様。
「リカルド様。落ち着いて集中して下さい。私の魔力をリカルド様に流してみます」
『集中して下さい』なんて、自分の事を棚に上げて大人ぶってみる。
えへっ。そうさ!私は邪念の塊さ!!
リカルド様は促されるままに瞳を閉じる。それを見届けてから、私も瞳を閉じた。
リカルド様の中に自分の魔力を流す。
イメージは【同調】だ。
「シンクロ」
聞こえるか、聞こえないか位の小さな呟きを溢す。
そうして、リカルド様の中に魔力を流しながら魔力を使えない原因を探る。
彼の中にも絶対に魔力はあるはずなのだ。
そう信じながら自分の魔力を流し続けると・・・。
・・・見つけた!
リカルド様の身体の奥底に、鍵の閉まった箱の様な物を見つけた。
その鍵を壊し、箱を開ければ魔術が使える様になるはずだ。
そんな確信が何故か私の中にあった。
私は直ぐにその鍵穴に意識を集中させた。
『壊す』のではなく、『開ける』・・・。
開け・・・・・・お願いだから、開いて!!
すると・・・・・・
カチッと音を立てて鍵が開いた。
開いた!!
その瞬間から、リカルド様の身体中に魔力が巡り始めたのを感じた。
「・・・コールド。」
自分の身体を循環し始めた魔力の流れを感じ取ったのか、タイミング良くリカルド様が呟いた。
ハッと目を開けて瓶を見れば、シーラの花弁がみるみる内に凍って行くのが見える。
「リカルド様!!」
「・・・・・・」
顔を上げてリカルド様を見ると、リカルド様は驚いた顔で瓶の中を見ている。
「これは・・・・・・」
「リカルド様がしたのですよ!」
「・・・君ではなくて?」
「はい。私はリカルド様の中に魔力を循環させていただけなので、シーラを凍らす事は出来ません」
「じゃあ・・・本当に・・・僕が」
リカルド様は呆然としたまま自分の右手を見つめている。
うんうん。良かったね。
見ていて涙が出そうになった。
今まで自分には出来無いと思ってた事が出来たんだもんね!
信じられないし・・・嬉しいよね。
「ありがとう・・・シャルロッテ」
リカルド様は、今まで見た事が無い様な・・・心からの自然な笑顔を浮かべている。
へにゃっとした柔らかい笑顔に私の心臓はキュン!と撃ち抜かれた。
しかも【シャルロッテ】って呼んでくれた!!
お願いしちゃう?!今なら私のわがままを聞いてくれるかな!?
ああ、・・・・・・でも今は駄目だ。
ちゃんと最後まで完成させないとね。
「リカルド様。次に進みましょう」
「うん」
「凍ったシーラを細かく砕いて、それをギュッと絞って透明なシロップを出すイメージを膨らませて下さい」
「分かった・・・」
リカルド様は頷いてから右手を翳し、また瞳を閉じた。
その右手から淡い光が出たかと思うと・・・シーラの花弁が粉々に崩れ、それがギュッと一つに纏まって行くのが見えた。
「・・・抽出」
そう、私と同じ呪文を呟くと瓶の中は光に覆われ・・・
光が消えた後の瓶の中には透明な液体が入っていた。
「ええと・・・出来たのかな?」
リカルド様は首を傾げながら瓶を持ち上げ、そのまま透明な液体を口に運んだ。
その瞬間に見開かれるブルーグレーの瞳。
その反応が魔術の成功を物語っていた。
「リカルド様。忘れない内にもう一度してみましょう」
私はニコリと笑って、もう一つの瓶を差し出した。




