待望➁
「こんにちは。シャルロッテ嬢?」
にこやかに佇むリカルド様。
愛しいリカルド様の姿に、胸がキュンと鳴った。
「リカルド様!お待ちしておりました」
「ああ、良かった。ニコニコしていたから邪魔をしたかなって思ってたんだ」
私は慌てながらドレスの裾を持ち上げ、淑女の礼をする。
リカルドはそれに対して微笑みで返してくれる。
「そんな!リカルド様を邪魔だなんて思いません!!」
「ありがとう」
言い切った私に、リカルド様は一瞬だけ瞳を瞬かせたが、直ぐににこやかに笑ってくれた。
・・・良かった。笑ってくれた。
私は安堵の溜息を漏らした。
「リカルド様お一人ですか?」
ふと気付いた私は、リカルド様の周囲を見渡したが・・・誰も付いて来てはいなかった。
てっきり、お兄様が一緒だと思ったのだが・・・。
まあ、油断大敵。お兄様は神出鬼没なのだから。
「うん。庭園に居るって教えて貰ったから、一人で来たんだ。場所は覚えていたからね」
そう言いながら微笑むリカルド様。
いやー・・・目の保養だわ・・・。癒される・・・。
「それは?」
テーブルに近付いたリカルド様は、シーラとスーリーのシロップの入っている瓶をジッと見つめた。
「透明な方がシーラで、薄いピンク色の方がスーリーのシロップです。」
私は簡単に説明をしながら、リカルド様に着席を勧めた。
「へぇ・・・これが・・・」
シーラのシロップの入った瓶を見ながら、尻尾をパタパタさせているリカルド様が・・・尊い・・・!!
可愛すぎて鼻血が出そうになるのを必死で堪える。
シャルロッテ。鼻血は絶対に駄目!それはアウトよ!!
自分の全理性を総動員させる。
「飲んでみても良いかな?」
コテンと首を傾げるリカルド様。
くー!!だから、何でこんなに一つ一つの仕草が可愛いの!!!
落ち着け・・・落ち着くのよ・・・シャルロッテ!!
頭の中に【お兄様】と言う文字を何度も描き続ける。
・・・がんばれ!シャルロッテ!!嫌われたくなかったらお淑やかにするのよ!!
「それは味の濃いシロップなので、薄めますね。以前飲んで頂いたシュワシュワなタンサンと言う物と、お水で薄めた物と・・・どちらが良いですか?」
猫かぶり中の私は冷静を装ってにこやかに尋ねた。
「あのシュワシュワしてたタンサン・・・?が良いかな。面白くて美味しかったから」
ニコッと笑うリカルド様。
ああ・・・『タンサン・・・?』なんて片言で語尾にハテナを付けながら話すリカルド様が愛おしい。
「はい!喜んで!!」
リカルド様のお望みならば・・・!!
私は水の入ったピッチャーに手を翳した。
イメージするのはすごーく弱い雷。ピッチャーの中の水をかき混ぜて、沢山の気泡を含ませる様な・・・。
シュワシュワ・・・シュワシュワ・・・
「・・・サンダー」
凄く小さく呟く。
そうすると、あっという間にシャルロッテ式『タンサン水』の完成である。
一連の術の流れの最中。リカルド様は、キラキラと輝く瞳をずっと私に向ていた。
うぅ・・・。何か気まずい・・・。
そのキラキラとした瞳には私の邪な想いも何もかもが見透かされてしまいそうだ。
「試飲が終わったら・・・試してみましょうね?」
「うん。宜しく」
大きく頷くリカルド様。
私は手早くグラスの中に氷を作り、シーラのジュースのシロップとタンサン水を注いで、マドラーで中身を混ぜた。
「どうぞ。シーラのジュースです」
リカルド様の前に差し出す。
「ありがとう。頂きます」
お礼を言ったリカルド様は、そのまま直ぐにグラスに口を付けた。
タンサンには慣れて来たのか、一瞬だけ驚いた様に尻尾がピンと立ったが、その後は満足そうに左右に揺れ出した。
「シーラのジュースもとても美味しいね。」
「はい。シーラの瑞々しい甘さが良いアクセントになりますね。・・・スーリーのジュースもどうぞ」
作り立てのスーリーのジュースも差し出した。
「うん。これも美味しい」
「はい。この甘酸っぱさは癖になりそうです」
スーリーの花弁には苺の様な粒々なんて無いのに、不思議と粒々感までがリアルに感じられるのだ。
【ラベル】もそうだったけど、【シーラ】も【スーリー】もジュースとして申し分はない。
やっぱり美味しいお酒が作れそうだ。
「いかがでしたか?」
「うん。やっぱり良いね。是非ともアーカー領の特産にしたいよ」
・・・良かった。これで、リカルド様の役に立つことが出来る。
「じゃあ、魔術の練習は実益を兼ねたシロップの作成にしましょう」
私はシーラのシロップの入った瓶を指差した。
「僕にこれが作れるのだろうか・・・」
「大丈夫です!私が成功させますから!」
不安気な顔をしたリカルド様に向かって、私はパチっと小さくウインクした。
「・・・・・・っ!」
途端に真っ赤になるリカルド様。
・・・あれ?もしかして・・・あざとかった?
テヘペロ。笑って誤魔化した。




