待望①
今日は待ちに待ったリカルド様の訪問の日だ!!
ミラをいじり過ぎたのが原因で、ドレスを選ぶの忘れてたとか・・・まあ、色々あって寝不足気味だけど、そんな事は言ってられない!!
身嗜みに手を抜く事は出来ませんよ?!
現在は午前八時頃。
リカルド様が来るのは十時位だそうだ。
前日に御使いの人が、リカルド様からのお手紙を持って来てくれた。
『明日の十時に訪問させて頂きます。シャルロッテ嬢、貴女にお会い出来る事を楽しみにしています。リカルド・アーカー』
だって!!
この手紙は一生の宝物だよ?!
ジップ〇ックだ!!
ジップ〇ックが欲しい!!
この匂いを閉じ込めて、家宝にするのだ・・・・・・!!
私のチートさんで作れないかな?
それとも天才のミラにご相談しちゃう?
現状維持のまま保存が出来る様な宝箱があれば、他にも入れられるし!!
よし、後でミラに突撃しよう。ふふふ。
「シャルロッテ様、嬉しいのは分かりますが……お顔が残念になってますよ?」
・・・しまった!一人じゃなかったんだ。
鏡越しに見えるマリアンナは、苦笑いを浮かべていた。
私はどうしてこうも迂闊なのか・・・。
穴があったら入りたいではなく、寧ろ・・・ふかーい穴を掘ってでも入りたい。
先程からずっとドレッサーの前に座った私の髪を、櫛でとかしながら細やかに編み込んでくれていたのだ。マリアンナの手にかかると、頑固な縦ロールがおとなしくされるがままになるのが不思議だ。
薄紫色のリボンと一緒に蜂蜜色の髪が編み込まれ、サイドに一つに纏め流される。
相変わらず、手際が良い。
渡された手鏡で、後ろを確認する。
「どうですか?」
「うん!バッチリ!ありがとう!!」
私はそう言って立ち上がり、ギュッとマリアンナに抱き付いた。
「あらあら。髪が崩れてしまいますよ?」
クスクスとマリアンナが笑う。
「ほら。早く用意しないと、アーカー様が来てしまいますよ?」
あ、そうだ!それはいけない。
急いで用意してあったドレスに着替えをする。
迷ったけど・・・薄紫色のドレスにした。
髪のリボンとお揃いだ。
丸い襟元やドレス全体には、華美過ぎない位にレースがふんだんに使われている。膝下の長さの動きやすいドレスだ。
それに白の短いレースのソックスと、ドレスと同じ色の靴を履いたら・・・
「はい。これでおしまいです。」
最後にマリアンナが腰の部分で結ぶ大きめなリボンをキュッと縛った。
大きな鏡の前でクルッと一回転すると、フワッとドレスの裾が翻る。
おお・・・良い感じだ。
シャルロッテは目付きは悪いけど、顔はビスクドールの様に整っているから良く似合う。
これでリカルド様がいつ来ても大丈夫!
・・・あっ!!
リカルド様が、次に来た時に飲みたいと言っていたシーラのジュースを用意するのを忘れていた。
「マリアンナ、ごめん。リカルド様がいらしたら、庭園の方に案内して貰える?」
邸の中より、いつものあの場所の方が準備しやすい。そこで用意をして待っていよう。
「かしこまりました」
マリアンナはニコッと笑って部屋を出て行った。
「・・・さて、私は用意して向かいますか」
瓶やグラス等々の必要な物を持って庭園へ向かった。
*****
「んー。いつ来てもここは良いな・・・」
庭園の隅に来た私は、近くにあるテーブルの上に持って来た荷物を置いてから、大きく背伸びしながら深呼吸をした。
今日はマリアンナに用意してもらったクッキーもある。
次は自分でも焼いてみたいな。リカルド様に食べて欲しい
さて、早速だが・・・
リカルド様が来る前にシーラのシロップを作ってしまおう。
シーラのある花壇まで行き、白い花を二十本程摘む。シーラは林檎に似た味のする花だ。
顔を近付ければ、林檎そのままの甘い匂いがする。
ついでに隣に咲いている、スーリーの花も摘む。
スーリーは苺の様な味のする花だ。花弁はピンク色をしていてとても可愛い。
摘んだ花を持ってテーブルへ戻った私は、用意した瓶の中にそれぞれの花の花弁だけを千切って入れた。
先ずはシーラから。
シーラの入っている瓶に右手を翳す。
シーラの花を氷で凍らせ・・・それを粉砕して圧縮・・・。
ラベルの甘い部分だけを搾り出す様なイメージを膨らませる。
「・・・抽出」
ゆっくりと呟くと同時にフワッと柔らかい光が辺りに広がる。その光は数十秒程で消え、瓶の中には透明な液体だけが残った。
小さなグラスに少しだけそれを注いで、試し飲みをしてみる。
グラスを傾けると、林檎の香りが鼻を擽った。・・・良い匂いだ。
そのままコクリと飲み込むと濃厚な林檎の味が口の中に広がった。
うん。成功!
次は・・・スーリーだ。
シーラと同じ様に、スーリーの瓶にも同じ様に右手を翳し、イメージを膨らませてから呪文を呟く。
スーリーの瓶には、薄いピンク色の液体が出来た。同じ様にして試し飲みをすると、甘酸っぱい苺の様な風味が口の中に広がった。
うん。これも成功だ!!
成功した喜びから、頬が自然と緩む。
早く、リカルド様に会いたいな。
彼の人に思いを馳せると・・・・・・。
「こんにちは。シャルロッテ嬢?」
愛しい待ち人の声が聞こえて来た。




