馬鹿と天才は・・・➁
応接間にて・・・。
私とお兄様が横並びにソファー座っていて、ミラは向かい側のソファーに一人で座っている。
マリアンナには紅茶を配膳した後に退出してもらっている。
私はさっきから令嬢スマイルを浮かべているが、お兄様はいつも通りで無駄に愛想を振りまいたりしない。
チャコールグレーの上下セットのスーツを上品に着こなしているミラ。
白銀色の髪はまだ肩まで伸びてはおらず、耳下位のおかっぱ状態で髪が切り揃えられている。赤みがかかった大きな瞳は長い前髪で隠されていて良く見えない。
あのミラが私の目の前に居る。
それは・・・何とも言い切れない感情だった。
苦虫を噛み潰したい様な・・・じっくりとミラを観察したい様な・・・複雑な感情。
先ずは・・・と、ミラが私達に向かって深々と頭を下げた。
「・・・この度は申し訳ございませんでした。シャルロッテ様はその後の体調はいかがでしょうか?知らなかった事とは言え、大変ご迷惑をおかけ致しまして・・・誠に申し訳ございません!」
前髪が鬱陶しい!!
心から謝罪をしたいなら前髪を切れー!!
私は心の中で八つ当たりをする。
「丁寧な謝罪をありがとう。妹はこの通り元気だから安心して欲しい」
お兄様がにこやかに答える。
しかし、その目は全く笑っていない。
「それで?心の籠っていない謝罪の後に、一体何を言うつもり?」
お兄様の目がスッと細くなる。
「君の事は調べさせてもらったよ。・・・君は伯爵家を追い出されかけてるんだって?」
「・・・っ!」
お兄様の言葉にビクリと肩を震わすミラ。
え? 追い出されかけている・・・?
って・・・お兄様いつの間に調べたの。
ハッキリとは見えないが、赤みがかかった大きな瞳をこれでもかって位に、見開いてるミラが容易に想像出来る。
「君に謀は向いてないよ。まあ、こちらとしては二度と妹には近付かないでくれればどうでも良いんだけど。うーん、けどねぇ・・・どうしようか。シャル?」
「お兄様・・・それは・・・?」
ちょっと待って。全然意味が分からない。
何でお兄様は先に教えといてくれないの?!
ミラが家を追い出されかけてるって・・・どうして?
ミラはどんどん新しい魔道具を開発する有望な若き天才になる予定なのに?
・・・・・・予定なのに?
何故かそこに引っ掛かった。
大切な事を忘れている様な・・・。
「お願いします!僕・・・ミラを助けて下さい!!」
ミラはバッとソファーから立ち上がると、頭を床に擦り付けた。
因みにミラの一人称は『ミラ』だ。
「助けてと言われても、僕達には何の関係もないからね」
お兄様は土下座に怯む事なく、ゆったりと足を組みながら瞳を細めてミラを見下ろす。
「家を半壊させたけど・・・ミラには・・・研究しか・・・それしか生きている価値がないんです!!だから・・・だから・・・助けて下さい!」
床に頭を付けたままポロポロと大粒の涙を溢れさせるミラ。
《家を半壊》
・・・思い出した。
これは、ミラがギルド所属になるきっかけの事件だった思う。
伯爵家の次男というミラは複雑な立場に置かれている。
跡取りとして有能な兄、明るく天真爛漫な弟に挟まれ生きて来たミラは、この容姿のせいで家族に疎まれていた。
兄や弟が居れば伯爵家は安泰と言われ・・・ミラは亡き者として扱われていた。
家に居場所のなかったミラは、たまたま偶然に手にした魔石で魔道具を作り出してしまった。そのせいで益々、家族の中で厄介者として扱われる事になる。しかし、ミラはこんな自分にも出来る事があったのだと喜び、魔道具開発に没頭して行く・・・。
そして、13歳になる年に魔道具の実験により伯爵邸を半壊させ、家族の命を危険に晒した等々の理由により勘当される。
つまりは家族から体の良い厄介払いをされるのだ。
家を追い出されたミラは一人でギルドに向かう。前々から自分に関心を寄せてくれていたギルドに、自分の後ろ楯となってくれる様に交渉する為に。
研究のデータを定期的に提出する事と、研究の権利や発明した魔道具の販売をギルドがするいう条件で、ミラはギルドと言う強固な楯を得る事が出来るのだ。
その後、見事に才能を開花し続け、色々な魔道具を開発して行くミラは有名になっていく。
しかし、研究にのめり込み過ぎて、食事さえ録に取らないミラを心配したギルドマスターが、一般教養を身に付ける為に学院に放り込んだんじゃなかったかな?
一見、ブラック企業的な条件も、後から家族に利用される事がない様にする為のものだったはずだ。
なのにミラは何故にギルドではなく、アヴィ家に来たの?
ギルドに行けば、のびのびと研究三昧だよ?
それともまさか・・・ここを断られてからギルドに行くの?
「どうして・・・アヴィ家を頼ったのですか?」
私は質問してみる事にした。
「ギルドなら貴方を守ってくれますよね?」
「ここには・・・・・・魔石が沢山あるから」
床から頭を上げたミラが私の方を見た。
やっぱり魔石かぁ・・・。
うん。分かってた。
「それに・・・公爵家の人間なのに、自らダンジョン調査をする・・・貴方達に興味を持ったから」
前髪の隙間からみえる赤い瞳がキラキラと輝いている。
「中でも、シャルロッテ様。貴女です!!」
「・・・私ですか?」
「一目見た時から貴女に夢中になりました!!」
立ち上がり、私の元に近付いて来たミラは、ガバッと私の両手を掬い上げて自分の手で包み込んだ。
小柄なのに手は男の子の手なんだぁ・・・・・・と。
私は遠い目をしながら現実逃避を始めた。
だって、ミラからの告白みたいなセリフだよ!?
そんなの有り得ない!!
「シャルロッテ様の規格外の魔術量!!是非、僕のモルモットになってくれませんか!!」
ほらね!?
おい、こら!
モルモットって何だ!
『実験協力者』って言ってるけどそれはルビだろ!?
これでも公爵令嬢だぞ!?
『妹』、『師匠』、『実験協力者』・・・。
攻略対象者達よ・・・どうした(汗)
残る一人の攻略対象者である【サイラス・ミューヘン】には何と呼ばれるのだろうか・・・?
『ペット』とか??
・・・嫌だ。絶対に会わない!!
流石にここまで来れば、この世界がゲームの中の世界だとは思っていない。
同じ様な世界観で、同じ登場人物が出て来る・・・パラレルワールド的な世界。
話の流れには沿っている様だから決して油断はしないけどね。
来年起こるかもしれないスタンピードの件は特に。
みんなキャラが変わっているけど、彼方は・・・大丈夫?
このメンバーで、世界救える??




