街探索①
二回目のダンジョン調査の翌日。
私はお兄様と二人でお出掛けをしている。
馬車に揺られながら向かうのは、アヴィ領内にある街の中だ。
私一人でも大丈夫だと言ったのに、お兄様は着いて来ると言って譲らなかった。
・・・お兄様は心配性だなぁ。
チラッと向かい側に座るお兄様を盗み見ると・・・静かに読書をしている所だった。
ふむふむ?
本のタイトルは・・・【猫の飼い方】?
私は首を傾げた。我が家に猫はいない。
お兄様は猫でも飼うつもりなのだろうか?
・・・成猫も良いけど、飼うなら子猫が良いなぁ。
ミルクとかあげてみたい!
そして、子猫の首元に鈴の付いた赤いリボンを付けるのだ。ふふふっ。
あー・・・でも犬も捨てがたい。
豆柴とか可愛かったな・・・。
ふと和泉の記憶が思い起こされる。
大家さんがアパートで飼っていた豆柴の『吉宗』。
目の上に麿眉の様な白い模様がある可愛いワンコだった。
吉宗元気かなー・・・?
・・・ワンコ。
『ワンコ』と言えば、こちらの世界の筋肉ワンコ・・・。
昨日は散々だった・・・。
あれから私は、体力が尽きるまでダンジョンを走り回る事になった。
しつこく・・・全く諦めようとしないハワードには、心の底からウンザリした。
終わらない押し問答の末。私はお兄様に泣き付いた。
お兄様はやれやれと言いながらも、ハワードを諌めてくれた。
渋々と引いたハワードだが・・・。あれは絶対に諦めていない表情だった。
魔王様が怖いから一旦、引いたといった感じだろう。
ダンジョン調査開始の三日後に、また突進して来そうな気がする。その時にはクリス様も参加するしね。
あーもう・・・面倒くさいから、いっそのこと返り討ちにしちゃう?
その衝撃で記憶飛んだりしないかなー?
あ!これは良い案かもしれない!!
次に来たら『エアロ』で吹き飛ばしちゃおう!
試してみる価値はあるよね!
「シャルロッテ。何もしてない人に魔術を仕掛けるのは犯罪だよ?」
・・・犯罪?バレない様にやれば良くない?
目指せ!完全犯罪!!
「処刑台に送られたいの?」
処刑台は嫌ー!!
・・・って、あれ??
向かい側に座るお兄様が本を閉じて、クスクス笑っていた。
もしかして・・・
「私、口に・・・出してました?」
「うん。全部ね」
マジですか!!
「完全犯罪するなら、アリバイを完璧にして痕跡も残さない様にしないとバレるよ?」
ニコリと楽しそうに笑うお兄様。
それは・・・バレなきゃ良いって事?
「お兄様・・・手伝ってくれますか?」
「うん。良いよ」
恐る恐る尋ねるとお兄様は瞳を細めて笑った。
魔王様!!
やったー!!
これで奴が消せる!!
「でも、リカルドはどうするの?」
「・・・リカルド様ですか?」
私はパチパチと目を瞬かせた。
どうしてリカルド様の名前が出て来るのだろうか?
「ハワードもリカルドの友達だよ」
何だって・・・!?
奴とリカルド様が友達だってー!??
くっ・・・!駄目だ・・・消せない。
そんな事をしたら優しいリカルド様が悲しむじゃないか!!
ハワードめーーーー!!!!
・・・って、何の茶番劇だ。
「お兄様。何でもかんでもリカルド様を引き合いに出さないで下さい」
「はは。バレたか」
ペロッと舌を出すお兄様。
「まあ、ハワードはそんなに害は無いはずだから放っておきなよ」
「実害があったら・・・殺っても良いのですか?」
「んー・・・。まあ、その時は・・・仕方無いかな?」
良し!苦笑いを浮かべているお兄様から言質は取った!!
そんな物騒な話をしている内に、目的の場所に辿り着いた様だ。
動いていた馬車が止まった。
「着いたの?」
「うん。そうみたい」
お兄様が小窓を開けて外を確認している。
「ルーカス様、シャルロッテ様。着きましたよ」
御者の青年がにこやかに扉を開けてくれると、お兄様が私の手を引いて、馬車から降りるのを手伝ってくれた。
「では、後でお迎えに参ります。存分に楽しんで来て下さいね」
「うん。ありがとう。宜しく」
私達を残して馬車は去って行く。
邪魔にならない様に街の外れに待機しているのだそうだ。
馬車が去ってしまえば、私達はあっという間に街の中に溶け込んでしまう。
お忍びなので、私もお兄様も簡素な格好をしているというのもあるだろう。
因みに、私の目立つ縦ロールはおさげにしてある。
グッジョブ!マリアンナ!
「さて。シャルは何処に行きたい?」
「屋台を端から端まで見て歩きたいです!!」
街の人達の暮らしが見たい。どんな物を食べて、どんな物を飲んでいるのか。
もしかしたら、クランクランじゃない地酒的な物も発見出来るかもしれないし!!
「シャルロッテ」
私はワクワクしながら、差し出されたお兄様の手を握った。




