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予想外な⑤

お兄様はコホンと軽く咳払いをしたと思ったら・・・

「ラベルのジュースは美味しかったけど、他にも何か考えているの?」

唐突に話題を変えて来た。


不自然さは感じるが・・・特に異論はないのでツッコミは入れない。


「はい。他にもシーラやスーリーを使って同じ様にジュースを作ってみようかなと思ってます」


林檎の様な味のする白い花のシーラや苺の様な味のするスーリー。

どちらもラベルの様に甘くて美味しい花だから、きっと美味しいジュースになる。


「へぇー・・・シーラとスーリーか。幼い頃に良く食べた花だ」

リカルド様はこちらにも興味を持ってくれた様だ。


「最終的には・・・ラベルやシーラ、スーリーを使ってお酒を作りたいのです」

「このラベルジュースのクオリティのお酒だったら需要は充分にあるな。特にご婦人方に好まれそうだ」


私は自分が美味しいと思えるお酒を広めたいと思っている。

それは、貴族とか身分を問わずに皆が当たり前に楽しめる物であって欲しい。


「新しいジュースとお酒か・・・」

リカルド様が顎に手を当てながら呟いた。


「どうかしましたか?」

「アーカー領はシーラが多く生えている土地なんだ。シャルロッテ嬢の力が借りられたら有効利用出来そうだと思って」


あ・・・『シャル』から、呼び方が戻っちゃった。

当たり前だけど・・・残念。


「アーカー領はシーラの砂糖漬けが有名だったね」

「うん。でも、売上げが下がってきてね。他に何か新しい物が作れないか考えている所だよ」

「成る程ね。まあ、アヴィ領も同じ様なものだよ」


二人は跡継ぎだから、自分の領地経営をしなくてはいけないのだ。

それは勿論収入がないと成り立たない。

お金がなければ新しい事業を立ち上げる事も出来ないし、領民の生活を守る事も出来ない。

領民からたくさんの税金を巻き上げている大馬鹿な領主もいるが、そんなのは以ての外だ。


「・・・私で良かったらいつでも協力しますよ?」


女である私が出来る事には限りがあるし、お兄様達ならその辺りは上手くやってくれるだろう。

アヴィ公爵領もアーカー公爵領もどちらも潤ってくれるなら私にはそれが一番だし・・・役に立ちたいし?


「じゃあ、リカルドの所はシーラのジュースとお酒の製造方法と権利。アヴィは、ラベルとスーリーのジュースとお酒の製造方法と権利って所かな?」

「それを譲ってもらえるなら・・・だけど」

お兄様の提案に、リカルド様は大きく頷いた。


「シャルロッテ。僕達に権利をくれるかい?」


勿論だ。

私は大きく頷きかけて・・・気付いた。


「あ、ちょっと待って下さい!」

「どうしたの?」

「お二人はシーラとスーリーのジュースを飲んでませんが、飲む前に決めてしまっても大丈夫ですか?」


この場合だと・・・味が大事だよね?

それを味見もせずに決めてしまって、後悔しないのだろうか。


「あー、そこは心配してなかったな」

「どうしてですか・・・?」

「だって、シャルは()()()()なら妥協しないでしょ?」

微笑むお兄様の目がスッと細められる。


流石、お兄様。私を分かっていらっしゃる。


私は苦笑いを浮かべた。


それなら良い・・・のかな?

凄いプレッシャーをかけられた様な気がしなくもないが・・・。



さて、後は・・・。

「リカルド様はどうしますか?シーラのジュース飲みますか?でしたら直ぐに用意しますよ」

私が尋ねると、リカルド様は首を横に振った。


「僕も大丈夫かな。と言うか・・・次に会う時に飲ませて欲しいな」

ふんわりと優しく微笑むリカルド様。


次!!

リカルド様から、『次』の約束を頂きました!!


頭の中で盛大なファンファーレが鳴り響く。


頭の中で何度もリカルド様の言葉を反芻しながら、私は幸せを噛み締めていた。



「・・・魔術の使い方を教えてくれるんだよね?違ったかな?」

リカルド様が困惑し出した。


あぁ・・・困らせてしまった。


「すみません。嬉しくて・・・つい」

テヘッと、上目遣いにペロッっと舌を出した。


「・・・!!」

真っ赤になって固まるリカルド様。


あれー?


「シャルって、あざといんだね。」

お兄様がクスクス笑っている。


あざとい?

キョトンと首を傾げると、リカルド様は顔が更に赤く染まった。


「もう・・・可愛過ぎるだろ」

リカルド様が口元を押さえながらモゴモゴと呟いた様だが、私には聞こえなかった。



「・・・シャル?」

「何ですか?お兄様」

お兄様が『おいで』と手招きするので、私は椅子から立ち上がってお兄様の座っている正面の席に向かった。


「ここに座って?」

お兄様がニコリと笑って指差すのは、お兄様の膝の上。


「・・・え?」

リカルド様の前で?そんな事・・・!!


「嫌なの?」

笑顔のまま瞳だけが細められる。


お兄様・・・その顔は怖いですって・・・。


中身がアラサー混じりの私が少年の膝の上に乗るとか犯罪・・・って、えっ?

リカルド様に触れるという犯罪まがいな事をしただろう、って・・・?

いやいやいや、それはまた別の話ですよ!問題無し!

私は今は()()()()()()ですし!


・・・すみません。

お兄様からの無言の圧力が凄い。


私は諦めて、お兄様の膝の上に横向きで座った。


「重いのに・・・」

「シャルは重くないよ」

お兄様の膝に腰を下ろした瞬間に、ギュッと抱き締められた。


「羨ましい?」

リカルド様に笑いかけるお兄様。

そんなお兄様にリカルド様は何も言わず、ただ黙って笑い返している。



あれ?何か空気が悪くない・・・?


膝の上から降りようとするが、お兄様にしっかり抱き締められていて身動きが取れない。

そうしている内にどんどん空気が重くなって行く・・・。



そんな重い空気を動かしたのはリカルド様だった。


「シャルロッテ嬢。一週間後の予定は?」

「明日からまたダンジョンの調査に入るので・・・その頃は何事もなければお休みだと思います」

「じゃあ、その日に来るから・・・」


椅子から立ち上がったリカルド様は、そのまま私とお兄様の方へ近付いて来て・・・・・・。


「・・・え?」

私の頭をゆっくりと優しく撫でた。


「またね?」

真っ赤になって呆然とする私を満足そうに見たリカルド様は、お兄様に向かって瞳を細めた。



そのまま立ち去ったリカルド様と、後に残された私とお兄様・・・。


うわぁああ!

リカルド様に撫でられた!!

また一週間に来てくれるって言った!


ハイテンションになった私はお兄様に抱き付いた。

「お兄様!今日はリカルド様に会わせてくれて本当にありがとうございます!!」

「うん。シャルが喜んでくれて良かった」


お兄様はそう言って私の頭を優しく何度も撫でてくれた。




まるでリカルド様に撫でられた場所を上書きするかの様に・・・。

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