予想外な①
あれから二日。
ダンジョン調査はお休み中です。
待ち焦がれていた初ダンジョンは・・・まさかのクリス様の登場からハワードの登場までと攻略対象者が一日に二人も現れるという、中々濃い一日だった。
これからもクリス様とはダンジョン調査で一緒になるのが確定している。
扱いが多少厄介ではあるがクリス様は良い。
それよりも問題なのは・・・ハワードだ。
あれは近々突撃して来そうな勢いだった。
嫌だな・・・。どうか逃げられないかな・・・。
アヴィ公爵家自慢の庭園の隅で・・・私は深い、深い溜息を吐いた。
また一つ幸せが逃げた気がする・・・。
このままじゃ色々と爆発してしまいそうだ。
そうならない為にもあれを作っちゃうしかないでしょう!
幸せは自分で作り出すのだ!!!
・・・と言うことで、私は庭園の隅の食用花の植えてある花壇のコーナーへ向かった。
今日はそこに咲くラベンダー似た【ラベル】と言う花を使って、ある物を作るのだ。
ラベルはマスカットの様な味のする食用花である。
ラベンダーに似た花の形をしており、その花弁は一枚だけでも充分に甘味を感じる事が出来る。
今日はある程度の量が欲しいので、花の密集している先端部分を二十個程度摘んで行く。
必要な分だけ花を摘んだ後は、近くにあるテーブルセットへ戻って来た。
テーブルの上には透明な水の入ったピッチャーが一つと、蓋が閉められるタイプの空瓶が一つ、グラスが数個用意してある。
早速、500ml容量の空瓶の中へ、摘んで来たばかりのラベル花弁をちぎって入れる。
ベンチシート状の椅子に腰を下ろしたら準備は完了だ。
ここからは私のチートさんの出番です。
君なら出来る!!
君に全てが掛かっている!!
成功します様に・・・と、願いを込めて瓶の中のラベルに向かって右手を翳す。
ラベルの花を氷で凍らせ、粉砕して圧縮し、ラベルの甘い部分だけを搾り出す様なイメージを頭の中で膨らませる。
「・・・抽出」
ゆっくり呟くと同時に目映い光が辺りに広がった。
光が消えた後には・・・500mlの瓶の中にいっぱいの薄紫色の液体が出来ていた。
その出来たての薄紫色の液体を、一口分だけグラスに注いで飲み干すと・・・
「うん。ラベルの甘い味がしっかり出てる」
爽やかでみずみずしいマスカット風味がギュッと濃縮されている。
どうやら成功したらしい。チートさん偉い!
ラベルのシロップの完成だ-!!
今日はこれを使って、子供でも飲めるラベルのジュース(ノンアルコール)を作るのだ。
お酒はまだまだ飲めないから・・・少しでも似た物を飲んで気分を上げようという私の作戦である。
お兄様と約束したお酒作りの練習にも丁度良いし、私にはこの世界にない新しいお酒を作り出して広めるという野望もあるのだ。ふふっ。
さてさて・・・。
このまま氷と水で割って飲むのも良いけど・・・やっぱりノンアルコールと言えば、シュワシュワっとした炭酸があった方が断然お酒っぽくて良いよね!
という事で、次は炭酸水を作ってみよう!
・・・とはいえ、私は炭酸水の作り方を知らない。
炭酸ガス(二酸化炭素)が混じった水という知識だけだ。
なので、それに似た物が作れたら・・・要はシュワシュワでビリビリする水が出来たら良いと思う。
ピッチャーの中に大量に入っている水。
それを使います!
ピッチャーに向かって右手を翳した私は、また頭の中でイメージを膨らませた。
イメージするのはすごーく弱い雷だ。その雷がピッチャーの中の水をかき混ぜて、シュワシュワでビリビリな水になるイメージを膨らませる。
シュワシュワ・・・ビリビリ・・・シュワシュワ・・・。
チートさん、チートさん。今度もお願いしますよ?
「・・・サンダー。」
凄く小さく呟く。
辺りがピカッと一瞬だけ光り、ピッチャーの中に小さな小さな稲妻が落ちた。
稲妻が落ちた後のピッチャーの中の水はブクブクと沸騰した状態になっていた。
これは・・・失敗したかな?
不安な気持ちで中を覗き込んでいたが、見ている内にブクブクと沸いていた水が段々と落ち着き始め、最終的には水の中に気泡が見える程度に収まった。
それを恐る恐るグラスに注ぎ・・・口にしてみる。
・・・・・・っ!
こ・れ・は・!味のない炭酸水だ!
果たして炭酸水と呼んで良いのか分からない物だが・・・私の中ではそうとしか思えない。
よし! これを『タンサン水』と命名しよう!!
私はいそいそと、グラスの中にラベルのジュースとタンサン水を入れ・・・次いでに氷の魔術を使って出した氷もグラスに入れた。ストローを付けるのも忘れない。
ちょっとだけストローで中をかき混ぜたら・・・・・・。
「完成ー!!」
ラベルのジュース(ノンアルコール)の完成だ!!
チューッとストローでジュースを吸い上げると・・・
「美味しい・・・!!」
行儀が悪いのも忘れて、思わず両足をバタバタさせてしまう。
マスカット味の酎ハイの味だ!!
私はニコニコと笑いながら、その味を堪能した。
カサッと言う葉音に気付いた私がグラスから顔を上げてみれば、笑顔のお兄様がそこに居た。
「随分と嬉しそうだね。何を飲んでいるの?」
相変わらずお兄様は神出鬼没だ・・・。
まぁ、慣れてきたけど。
「ラベルでジュースを作ったのですが、お兄様も飲んでみますか?」
お兄様を迎え入れる為に立ち上がると・・・その後ろに誰かの姿が見えた。
それは・・・
「・・・?!」
私と口元に手を当てながら唖然、呆然と立ち竦んだ。
そんな私に向かって手を差し出してくるシルバーグレーの髪に、透き通る様なブルーグレーの瞳。大人しくて、優しい狼系獣人の少年。
「初めまして、リカルド・アーカーです」
私が一番会いたかった彼の人が、微笑みながらそこに居た。
※【炭酸水】を【タンサン水】に修正しました!それに伴いまして作り方等も若干変更してあります。
私の行き当たりばったりの設定で混乱をさせてしまった皆様すみません・・・。




