ダンジョン①-2
・・・この状況をどうしたら良いのだろうか。
シュンとしているゴールデンレトリーバー的なクリス様を慰めるべき?
あー!もーー!面倒くさい!!
頭を掻きむしりそうになる寸前・・・
「お待たせー。やっぱり無駄にキラープラントを増やして魔石を稼ごうとしてたよ」
お兄様が走って戻って来た。
「・・・どうしたの?二人共。」
お兄様は不思議そうな顔で私とクリス様を交互に見ている。
「・・・邪魔したかな?」
回れ右の態勢になるお兄様の腕を私はガシッっと掴んだ。
いいえ!!寧ろ、ずっと待ってました!!
私の救世主!絶対に逃がさないからっ!!
「いや、大丈夫だ。私の質問に答えて貰っていただけだから」
クリス様の言葉に合わせて、首をぶんぶんと縦に振る。
「質問?」
「シャルロッテ嬢が調査に参加したのは何故かと」
「あー、成る程。それでシャルロッテは理由を言ったの?」
お兄様の瞳が楽しそうに細められている。
何か・・・企んでいる?
「いえ。叶えたい願いがあると・・・それだけです。」
お兄様を訝しく思いながらも首を横に振って答える。
「言ってしまえば良いのに」
「お兄様・・・!?」
私は非難混じりの声を上げた。
簡単に言える事じゃない。お兄様だって分かってるはずなのに・・・。
私はお兄様の腕をギュッと握りながら顔を俯けた。
お兄様は、私の手の平を包み込むかの様に自分の手をそっと重ねてきた。
そして・・・
「シャルロッテは僕が心配だから参加したって」
そう言ってニッと笑った。
・・・・・・へっ?
「大好きな僕と離れたくないんだよね?ず-っと一緒に居たいんだよね?僕のシャルはこんなに可愛いんだよ!」
お兄様は大袈裟なほどに声を張り、クリス様にドヤ顔を向けた。
ええと・・・これは・・・誤魔化してくれているんだよね?
考えてみれば、お兄様が私との秘密を簡単に他人に話す訳がないのだ。
私とお兄様は共犯者なのだから。未来を変える為の・・・。
「大好きお兄様!!」
私はわざとお兄様に飛び付いた。
急に飛び付いて来た私をしっかりと抱き止めながら、お兄様は優しく頭を撫でてくれた。
「ルーカスばかりずるいぞ!!」
クリス様が私達二人の間に割って入ろうとする。
「私だって・・・私だって、シャルロッテ嬢の様な妹がずっと欲しかったんだ!」
はい・・・?
「ルーカスはいつも私に自慢してくるんだ。シャルは世界一可愛いって!」
お、お兄様・・・。
つり目で目付きの悪い妹を捕まえて、『可愛い』って余所で何言ってるの・・・。
「この前だって、『僕に抱き付いて泣くシャルが可愛かった』って言ってたし・・・」
「お兄様!?」
あ、あれを教えたの!?
12歳にもなってって思われない!?
私は真っ赤な顔でお兄様を睨み付ける。
ゲームの中のルーカスは確かに妹に甘いとか、溺愛してるとかあったけど・・・。それは両親達を亡くしたせいだと思ってた。
お兄様は正直、どこまでの本心を見せてくれているのか分からない。
常に演技や計算をしている様にも思える。
「ははっ。ばらされちゃった。」
悪戯っ子の様に舌をペロッと出すお兄様。
「僕の妹は可愛いんだから仕方無いじゃない?」
更に平然と言い放った。
本当は何も考えていないただの妹バカだったらどうしよう・・・。
「やっぱり私の事をお兄様と呼んでくれないか!?シャルロッテ嬢!!」
クリス様・・・。
そんなに妹が欲しいのですか・・・。
「この前、父上達に頼んだが、妹は無理だと言われてしまった・・・」
シュンと肩を落とすクリス様。
耳がシュンと下がっているゴールデンレトリーバーだ。
ていうか、頼んだのか!!
しかもこの前って、最近じゃないか!
確かに王様と王妃様はまだ若いと思いますけど・・・。
・・・どうやら、クリス様の中で私は恋愛対象ではないみたいだ。
言うなれば・・・・・・『理想の妹』?
これは、お兄様の洗脳によるものだろうけど。・・・擦り込み?
私を勝手に美化しないで欲しいんだけどな・・・。
『私にはクリス様みたいな兄は要りません!』
って言ったら泣くよね?絶対に。
だが!断る!!
「お兄様とはお呼び出来ませんが、ルーカスお兄様の様に私を『シャル』と呼んでも良いですよ?」
これが私の最大限の譲歩だ。諦めとも言う・・・。
何となくだが『妹の様だ』と、そう思われているだけなら大丈夫な気がしたのだ。
この調子だと嫌でもこの先ずっと関わらないといけなそうだしね・・・。
「良いのか!?シャルロッテ嬢・・・・・・シャル!」
・・・うん。
今度は嬉しそうに尻尾をブンブンと振っているゴールデンレトリーバーが見える。
可も無く不可も無い。妹的ポジションでひっそり、こっそりしておこう。
・・・この時の私の選択を、早々に後悔する事を今の私はまだ知らない。




