新天地~女神の謝罪➀
行きも帰りもアッという間!
安心!?安全!?鏡の旅。
クラウン旅行社のまたのご利用をお待ち致しておりまーす!
――――なんて。
二度とご免だよ!!
「……慣れないわねぇ」
ポツリと金糸雀が呟く。
「一瞬で移動出来るから助かるんだけどね」
彼方は金糸雀の言葉に同意する様に苦笑いを浮かべた。
私達は行きと同じ様にクラウンを使って帰って来た。
……そう。《《クラウンを使って》》。
ここは既に竜の地。ラーゴさん達の住んでいる邸の一室である。
セイレーヌ達と別れた私達はここに戻って来たのだ。
一瞬で帰って来られても、何度使おうと苦手なものは苦手だ。
まだ地に足がつかない感じがして落ち着かない。
なのに……。
こちらが下手に出てれば(出てない)ニヤニヤした笑みを浮かべやがってーー!
しかーし!帰って来たらこっちのものだ!
フラグ回収!絶対にロシアンチョコ祭りの第五回目を開催してやるんだからっ!!
「……既に四回も仕掛けてるのね」
「根が深いね」
……って、君達!?さっきからどうして口に出してないことが分かるかな?!
「全部、口に出てるわよ?」
キョトンと首を傾げる金糸雀。
何だって……!?
「ち、ちょΣΔΒψ!?」
意味不明な事を言い出したクラウンは無視する。
知らない内にうっかりポロリと口に出してしまう事はもはや日常茶飯事だ!
やるって決めてたんだから、やるのだ!
開き直ってやる!ぐはははっ!
「主は悪役が似合うな」
サイは感心した様にウンウンと大きく頷いている。
「へ?止めて!?変なフラグを立てないで!」
サイを抱き上げ様とした――その時。
バタバタと廊下を駆けてくる様な音が聞こえてきた。
その音は段々とこちらに向かって来て……。
バタン!
勢いよく開け放たれた扉の向こう側には、ラーゴさんとリラさんの姿があった。
「お帰りになられたのですね!」
「ご無事ですか!?」
ツカツカと部屋の中に入って来たラーゴさんとリラさん。
走って来ただろうに、二人の息は乱れていなかった。
しかし、顔色は少し青ざめている様だった。
きっと二人は私達が帰って来るまで、気が気じゃなかったのだろう。
私達はラーゴさんの呪いを解く為に、女神カトリーナの元に向かったのだ。
その結果が気になって仕方ないのは当たり前だ。
「只今、戻りました!」
ラーゴさん達に向かって笑いかけると、勢いよくリラさんが私達の元に駆けて来た。
「……わっ!?」
そのままガバッと彼方ごとリラさんに抱き締められる。
涙を滲ませながら安堵の溜め息を漏らすリラさんの様子に私は困惑した。
……ええと、これは?
状況に頭がついて行かずにポカンと口を開けている私と彼方は、暫くそのままリラさんに
抱き締められるがままになっている。
……思っていたのと反応が違う様な……?
普通ならば、『カトリーナ様に会えたのか!?』とか『呪いはどうなった!?』とか二人から質問攻めになっているのではないだろうか?
思わず首を傾げると、ふっとサイが笑った。
「主よ。竜の夫妻は心配していたのだろう」
「……心配?ああ、私達が交渉を失敗しないかって?」
「それは違うぞ、主よ」
サイは苦笑いを浮かべる。
「鈍感な子ねぇ。あなた達が何事もなく無事に帰って来られるかを心配していたって事しかないでしょう?」
呆れた様な声で言った金糸雀は、サイの頭の上にちょんと乗った。
「……そうなのかな?」
「主よ、この状況はそれ以外の何物でもないだろう?」
サイの言葉を聞きながらラーゴさん、そしてリラさんを順番に見ると、二人は目元の涙を拭いながら大きく頷いた。
自分達の子供でもない私達をこんなに心配してくれていただなんて……。
彼等はなんと優しくて愛情深いのだろうか。
私と同じ様に瞳を丸くして驚いていた彼方と視線を合わせて頷き合った私達は、
「「無事戻りました」」
リラさんの背中に手を回した。
そこへ――
「シャルロッテ!おかえり!」
元気な声が乱入してきた。
顔を上げた私は、声の主を見つけると笑顔を作った。
「レオ!ただいま!」
パタパタと私達の元に駆け寄って来る姿は、まるで人懐こい犬の様だ……と思ったのは内緒にしておこう。
「ふふふっ」
口元に手を当てて笑う彼方にはバレてしまったみたいだが……内緒だ!
部屋の中に和やかな空気が流れる。
ほわほわとした空気が気持ち良い。
……だが、私達は何か大事なことを忘れているような……?
「あのさ、あの鏡の後ろにいるのは、誰?」
レオがキョトンと首を傾げる。
あっ……!
息を飲んだ私と同じタイミングで、皆が一斉に鏡を振り返った。
一斉に注目を浴びた鏡が驚いた様に大きく跳ねたが、スルーする。
今はそれどころではないし、クラウンはお呼びでない。
大きな鏡の裏。
隠れながらこちらを窺っていた少女が意を決した様に、そこから歩み出た。
「……っ!!」
少女の姿を目にしたラーゴさんは息を呑み、リラさんも口元に手を当てながら瞳を大きく見開いた。
しかし、直ぐに我に返ったラーゴさんがその場に跪いて頭を垂れたのに合わせて、リラさんも私達の元から離れラーゴさんの横で跪いた。
「……っ!」
カトリーナはラーゴさん達に向かって手を伸ばしかけて……止めた。
悲しそうな顔で唇を噛み締めながら黙って二人を見つめている。
ラーゴさん達の元に近付きたい。……だけど怖い。
謝りたいのに、どうやって謝れば良いのか分からない。
――そんなカトリーナの感情が表情から読み取れる。
さて、どうしようか。
両者は膠着状態である。
ここは私か彼方がカトリーナの背中を押すべきだろうか……。
気まずい空気の流れる中。
私はこの流れをどうにかする為に一歩踏み出した。
だが――
「カトリー……」
「もしかして、君が僕達の女神様?」
私の言葉を遮るように、私よりも早くカトリーナの目の前にレオが現れた。




