表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/213

新天地~女神の心➃

「……あの竜はお前達神のせいで子を失ったのだ。一時でも同じ神であるお前を恨んでも仕方ないのではないか?」



……ちょっと待って。

これって……もしかして。


――ふと、サイの言葉から浮かんだのは……


『レオには……兄がいたはずだったのです』


心の内に耐えきれない程の辛い事を抱えているのに、周囲には心配を掛けたくないと気丈に振る舞おうとする人の、優しくて、悲しい笑みを浮かべたリラさんの顔だった。


『主人は子を亡くしたばかりの私を放っておけずに、女神の招集に応じなかった。だから《《何もしなかった》》。……出来なかったのです』


竜は番や子をとても大切にし、慈しむ生き物だ。


ラーゴさんが召集に応じなかった理由も聞かず、裏切り者として有無を言わずに呪った女神カトリーナ


――カトリーナは竜達にとって《《特別》》な存在の女神様だ。


番や子供が大切である事は間違いないが、竜達と女神とは古の盟約……魂で繋がれた特別な関係。


それは、ラーゴさんだけでなくリラさんも分かっている。二人共に竜なのだから。


……リラさんは『何もしなかった』と言った。『出来なかった』と。


あの時は亡くなった理由まで聞く事は出来なかったが……自分達の子供を殺したのが《《神》》だというなら、サイが言ったようにラーゴさん達が女神カトリーナを恨んでも、『召集に応じたくない』と思ってもおかしくない。

それでなくとも大切な子供を亡くしたばかりだったのだから、冷静でなんていられるはずもない……。


ラーゴさん達とカトリーナの関係を壊したのは『神』だ。

本来なら断罪されるべきだったのはその神であり、ラーゴさんではない。

ラーゴさん達は被害者なのだから。



「……誰が……誰が竜の子供を?」

「それはだな……」

カトリーナからの質問にサイが言葉を詰まらせた。


私の方を向きはしなかったものの、こちらを伺っている様な気配が微かに伝わってくる。

私がサイ達の会話を聞いているのはバレているのだ。


……ああ、そうか。

《《これ》》が私には聞かせたくない内容かと、腑に落ちた。


ここには私と彼方がいる。

私達には聞かせたくない神の話。


つまりそれは――


「……男神シモーネだ」


……そう。

シモーネの話なのだと。


「シモーネが!?」

「……ああ。竜の番が温めていた卵を強引に奪い上げると、目の前でその卵を粉々に砕いて見せたそうだ。子供はもう直ぐ殻から出て来る筈だったらしい」

「……あいつは、なんて事を……!」

カトリーナは愕然としながら瞳を見開いた。


「……カトリーナ、すまない。私のせいだ。私のせいで君の大切な眷属の子供を失わせてしまった」


「……どういう……こと?」

アーロンのいる方をゆっくりと振り返ったカトリーナの瞳からは、大粒の涙が溢れていた。


「あいつは、そこの神アーロンの苦しむ姿を見たかったが為に竜の子供を殺したのだ」


「本当にすまない。私がこの世界に竜を住まわせる事を提案しなければ……こんな事にはならなかっただろう」

アーロンは悲しそうな顔で頭を下げた。


「未来ある大切な子供を助けてあげられずに……ごめんなさい」

セイレーヌはそんなアーロンに寄り添いながら、同じ様に頭を下げる。



――心の底に閉じ込めた記憶の中から忌々しいシモーネの顔が浮かび上がってくる。


アーロンを貶める為だけに、地球で普通に暮らしていた和泉わたしや彼方の運命を大きく狂わせたシモーネ。


シモーネに運命を狂わされたのは和泉達だけではないのは知っていたが……まさか、産まれる前の子供にまで手をかけていたとは。


ドロリとした黒いモノが胸に込み上げてくる。


やっぱりあんなやり方では生温かったか、と後悔すら覚える。


「……」

黒い感情が口から溢れてしまわないように咄嗟に奥歯を噛み締めた。


和泉わたしだとも気付かずに、下卑た厭らしい目で見てきた。

自分達以外の存在を使い捨ての出来るただの道具としか思っておらず、良心の欠片もなく悪逆非道を尽くしたシモーネ。


「…………そう」

カトリーナの瞳には、はっきりとした侮蔑の色が浮かんでいた。


「昔からシモーネとその取り巻きの神は救いようのない奴らだったけど……まさか私の大切な子供達に手を出していたなんて……」

カトリーナは悔しそうな顔で親指の爪を噛んだ。


――アイツがラーゴさん達の子供を殺した。


無意識に息を吐き過ぎて苦しくなる。


息苦しさを解消する為に、呼吸を繰り返す度に、寧ろ酸素が足りなくて苦しくなる。

浜辺に打ち上げられた魚の様に荒い呼吸を繰り返していると――――誰かが私の手に触れた。


その手が触れた瞬間に、心の中にあったドロドロとした黒い感情が薄くなった気がした。


私の手に触れたのは彼方だった。


……彼方!?

まさか……今の話を彼方も聞いて……!?


口を開きかけた私を遮る様に、彼方がシーっと口元に指を立てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ