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新天地~再びあの場所へ➁

あー、確かにお兄様は言っていた。

今回はココに来られないお兄様の代わりに《《誰か》》を送る、と。


意味深に『内緒』って言うから、リカルド様とかミラだったりするのかな?って期待していたのに……。

それがよりにもよってクラウンなの?

このサプライズは……ないわー。ないわー……。


「おい!心の声がダダ漏れだぞ!?」

「え?」

思わず口元を押えたが、別に良いかと思ったので開き直った。


「この状況で、クラウンの登場だけはないわー……」

「……姉さん。俺、悲しくなってきたんだけど……泣いて良いかな?」

「良いけど、鬱陶しいのは嫌いよ?」

「……へっ!?」

「だって、面倒くさいじゃない」

「…………」


おおっと、金糸雀さんのナイスツッコミがクラウンの心を抉った!

これはクリーンヒットだ!!

クラウンは立ち直れない!しばらく立ち直れそうにはない!


ガックリと項垂れながら肩を落とすクラウンにサイがそっと寄り添った。

「まあ……息子よ、なんだ。……元気を出せ」

サイはクラウンの肩にポンッと手(前足)を乗せ、ウンウンと何度も大きく頷きながら。何も言わない貝になってしまった不憫な息子を慰める。


……うーん。お兄様の代役はクラウンじゃないと思うんだよね。

私はクラウン達を横目に見ながら、あの時の会話を思い出していた。


だってだよ?心配性のお兄様がクラウンなんかを代役にすると思う?

クラウンはセイレーヌの所に行く為の手段であって、《《お兄様の》》代役としては力不足だ。


「……手段…………力不足」

シクシクという泣き声と共に呟く声が聞こえるが、無視する。


確かに、クラウンの力があれば危険な場所でもすぐに逃げられるだろうし、相手を自身の鏡の中に取り込んでしまう事も可能だ。その点は有能だ。


「……えへっ。褒められた」

「褒めて《《は》》いない。客観的に分析しただけ」

「……何でだよ!褒めてくれよぉ……」

クラウンは、またシクシクと泣き出した。


「じゃあ、どうしたら褒めてくれるんだよ……!!」


……鬱陶しいな。

『どうしたら褒めてくれる』だって? そんなのは決まっている。


「モフモフになって出直してこい!」

「モフッ……っておかしいだろソレ!?」

「モフモフは正義です」

「正義ね」

「主がそう言うのなら正義だな」

「姉さんに父さんまでおかしな事を言い出した……!」


モフモフの素晴らしさを知らないなんて――可哀想な子。


「そんな目で俺を見るんじゃない……!俺は普通だ!!」


モフモフの素晴らしさを知らないなんて――可哀想な子。


「何で同じ事を二回も考えた!?」

「大事だからです!!」

「…………」

クラウンの瞳が死んだ魚の様に濁り始めてきた。


「息子よ。……確か、我が城に【たーとるねっく】という物があるはずだぞ」

「「「たーとるねっく?」」」

クラウンと私と金糸雀は首を傾げた。


「サイ。ソレは何なの?」

「私達が使用している首輪や腕輪を作ったヤツが作った魔力封じのアイテムだが……身に纏うと『カメ』という生き物になる」

「……カメ?」

「ああ、《《あの》》カメね」

クラウンは知らないらしいが、金糸雀は知っているらしい。


【たーとるねっく】で、『カメ』って……駄洒落ですか……。


モフモフじゃないけど、カメも可愛いよね!

カメになったクラウンなら可愛がっても良いかもしれない。


「クラウン。今すぐに取ってこようか!」

「俺は使わねえよ!?」

「えー?どうして?カメになったら優しくするよ?」

「優しく……?――って、ダメに決まってんだろ!父さんも姉さんも魔力を封じられてんのに、俺まで魔力が使えなくなったら、誰が父さん達を守るんだよ!」


お?なんか珍しくまともな答えが返ってきた!


「それに、俺が道化の鏡でいられなくなったら、行けなくなる所ばっかりだかんな!?」


……むう。クラウンを頼るのは嫌だけど、それは困るかもしれない。


「しょうがないから今回は諦めるー」

「《《今回は》》じゃない!これからもずっとだ!!」


クラウンがそう言い切ったタイミングで、背後からクスクスという笑い声が聞こえて来た。


反射的に後ろを振り返ると――

「……彼方かなた?」

「うん。和泉さん、久し振りだね」

にこやかに笑う彼方が扉の前に立っていた。


「彼方!どうしてここに?」

私は彼方の方に駆け寄った。

ギュッと抱き付くと、普通に温かかった。私の幻覚なんかではなく正真正銘の彼方だった。


「和泉さん……じゃなくて、ええとー、シャルのお兄様に頼まれたの」

「お兄様に?」

「そう。『また妹が厄介事に首を突っ込んだから僕の代わりに助けてやってくれないかな?』って。ルーカス様、シャルの事をとても心配していたよ?」

彼方が私を抱き締め返してくれる。


「お兄様が……。でも、どうして彼方を代わりにしたの?彼方は今忙しいはずじゃ……」

彼方は王太子妃としての教育や、聖女としての力の使い方を寝る間を惜しんで学んでいたのだ。その為に、同じ学院に通っていたが、会えない日々が増えていた。


「……もしかして?」

「うん。その《《もしかして》》だよ!」

「本当!?」

「うん!」

私は彼方をギュッと更に抱き締めた。


「シャ、シャル……苦しいよ」

「あ、ごめん、ごめん」

抱き締めている腕をバシバシと叩かれたので、全身の力を抜く。


「……もう」

「本当にごめん。嬉しくなりすぎちゃった」

「もう、良いよ」

避難混じりの声を上げた彼方に向かって小さく舌を出すと、彼方が苦笑いを溢した。


「それよりも待たせてごめんね」

彼方は眉尻を下げながら謝罪の言葉を口にしたが、私は彼方が言うほどに『待った』とは思っていない。寧ろ早かったと思う。


「私、ちゃんと聖女の力を使える様になりました」

ペコリと彼方が頭を下げた。


「偉い!頑張ったね!」

私はそんな彼方の頭を撫でた。


「ふふっ。だから、もう少しですよ」

彼方の視線は真っ直ぐにサイを捉えた。


――魔王サイオンを【魔王】という役目から解放する。

彼方はサイの望みを叶えるべく頑張っている。


「ああ。すまないが、よろしく頼む。聖女よ」

サイは首を少しだけ傾けながら微笑んだ。




――さあて。

「クラウン。どこに行くつもり?」

この場からそっと抜け出そうとしていたクラウンを私の両の瞳が捉えた。

逃がすわけないでしょうが。


「誰ですか?『お兄様の代役』だなんてのたまったのは」

「お、お、俺じゃない!俺はそんな事は言ってない!!」

クラウンは真っ青な顔をブンブンと左右に振っている。


彼方と一緒に竜の里に来たのにもかかわらず、さも自分がお兄様の代役であるかの様な振る舞いをしたその罪は重いぞ!!


「えい!」

私はクラウンの口の中に焦げ茶色の固形物を押し込んだ。


「――――っ!?!?!?!?」

すると、口元を押えたクラウンが目を白黒させる。


ふっふっふー!成功!!

シャルロッテ特製『激辛チョコレート』!

ジョロキアやハバネロをギュッと濃縮させてあるので、一口目で昇天可能な食べ物になった。


次はお父様にコレを食べさせるのだ!


「俺は無実だーーーーー!!」

口元を真っ赤にしながらクラウンが叫ぶ。



――――私はふふっとほくそ笑んだ。 

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