まさかの①
どうしてこうなった!!
私は心の中で叫んだ。
私の目の前にはこの国の王太子であり、従兄弟でもある【クリストファー・ヘヴン】がいる。
現在、私が最も会いたくない攻略対象者が現れたのだ。
それは叫びたくもなるよね!?
どうしてこんな事になったのか・・・・・・ちょっと遡ってみよう。
私は遠い目をした。
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あの日。
泣きながらルーカスお兄様にカミングアウトした日から、約一ヶ月が経った。
お兄様は約束通りお父様に掛け合ってくれて、私はダンジョン調査チームの一員として参加を認めて貰えたのだ。
参加を許可してくれた時のお父様の顔が引きつっていたのは何故だろう・・・?
お兄様、何を言ったの!?
ま、まあ・・・。参加出来る様になったのだから、良しとしよう。深く考え無い方が身の為な気がする。
お兄様の予見通りに、調査はギルドを通して行う事となり、調査チームのメンバーはお父様とお兄様を中心とした腕自慢な皆様。なんと、そこには執事のマイケルもいた。
老齢のマイケルはゲームの中では、そんなに強くなかったはずだったような・・・。
片目を失うという瀕死の重症を負ってたし。
・・・いや、待て。
凶暴化した魔物三体を相手にしての事なのだから・・・もしかして普通に強いのかも・・・?
だから、お父様はシャルロッテをマイケルに任せたの?
意外な人が強かったという事実に多少の動揺をするものの・・・
強い人が多いに越したことは無い!
ポジティブに行こう!!と、誤魔化す私。
私の言う《ポジティブ》とは『誤魔化し』や『先延ばし』という意味だった事にあの日に気付かされた。
それでも私は、自分を励ます為にも使う事にしている。
何度も繰り返せば『真実になる』そんな願いも込めて・・・・・・。
そんなお父様のパーティー【リア】を中心にダンジョンの調査と攻略をしちゃいます!
それにしても【リア】って・・・それお母様の愛称じゃ・・・?
相変わらずのラブラブで結構な事です。両親の仲は良好なのが一番だ。
【リア】はその日から一週間後。
裏山にある未発掘のダンジョンを発見した。
ダンジョンの入口は、それがあると分からなければ見付けられない様な・・・ウサギの巣穴の形に似ていたらしい。
慎重にそれを拡げてみると、地底へ向かう階段が現れたそうだ。
そこから、地下一階、地下二階と時間を掛けて調査を行った。
地下一階は【猿飢】の巣だったらしい。
猫位の大きさで、猿の様な顔。筋ばった細い手足を持った四足歩行の魔物。一体、一体は弱いものの、沢山の仲間を呼び寄せるという厄介な魔物。
猿飢にはお父様達でさえ殲滅させるのに手を焼いたらしいと、お兄様が教えてくれた。
そして、地下二階は烏の様な真っ黒な鳥、【雨黒】の巣だった。
雨黒は雨の様に自らの羽を降らせる魔物だ。
羽の先は鋭利に尖っていて、自分らの敵を容赦無く突き刺す。
数は猿飢よりも断然少なかった為、余裕で殲滅したらしい。
お父様達凄い。雨黒は猿飢よりもランクが上だったはず。
ダンジョンは階が進めば進むほどに魔物のランクが上がるらしい。
地下一階に猿飢が居ただけでも厄介なのに・・・。
お父様達の見立てでは、アヴィ家の裏山のダンジョンは、地下十階位だろうと言っていた。
因みに、この世界のダンジョンは攻略すれば、魔物は出て来なくなる仕様らしい。
なので、私とお兄様の目的の為には全部の階層を攻略すれば、攻略すればスタンピードは起こらない・・・はずなのだ。
ここまでの説明で『らしい』とか『はず』と言う言葉を使っているのは・・・私はダンジョンには潜っていないからである。
出来たてのダンジョンが未知過ぎて、初心者の私を参加させるのは得策では無いとお父様達が判断したからだ。
お父様達ベテラン勢が決定した事は絶対だ。
なので、私はこの約一ヶ月の間。
ギルドに登録をし、簡単な依頼やダンジョンの基礎知識の勉強。お兄様から魔術の実践実技の研修等を受け続けていた。
そして、やっとお父様達から『参加して良い』とお墨付きを貰えたのだ・・・!
なのに・・・。
調査チームの新メンバーとしてクリストファー殿下が参加する事になったのだ。
何故だ・・・。
王太子殿下はちゃんと安全な所に隠しておきなさいよ!!