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新天地~女神の呪い

「実は……」

少しだけ眉間にシワを寄せながら微笑んだリラさんは、私の手の中にいる金糸雀を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。


あれ? これって……。

私はリラさんの浮かべた笑みを()()()()()


そして恐らく続く言葉は――――


「レオには……兄がいたはずだったのです」


リラさんが口にしたのは、『いたはずだった』という過去形の言葉だった。

つまり――レオの兄は昔に亡くなってしまった事を意味する。


……やっぱり。

私は唇を硬く結びながら、視線を金糸雀に落とした。


前世でも今世でも何度も目にした事があった笑み。

心の内に耐えきれない程の辛い事を抱えているのに、周囲には心配を掛けたくないと気丈に振る舞おうとする人の……優しくて、悲しい笑み。

リラさんの微笑みは正にそれだったのだ。


「主人は子を亡くしたばかりの私を放っておけずに、女神の招集に応じなかった。だから『何もしなかった』。……出来なかったのです」

また先程と同じ様に微笑んだリラさんを、ラーゴさんとレオが抱き締めた。


竜は番や子。家族をとても大切にし、慈しむ生き物だと言う。

そんな竜であるリラさんが、自分の大切な子を失ったばかりの時に冷静でいられるわけがない。


「『女神の招集』というのは……」

「カーミラ様が亡くなられた時の事です」

私の質問に答えたのはラーゴさんだ。


「カーミラ様の死を知ったカトリーナ様は、直ぐに戦える年頃の竜達全員に眷属のみに聞こえる『言霊ことだま』を使用して招集を掛けました。……その理由は復讐の為です」


大戦で両親を含む大切な人を失った女神カトリーナ。

その女神カトリーナの親友が《《魔族》》の手によって殺された。


魔族とは……元々は神族だった者が堕ちた存在である。

大戦後に生き残った友達や眷属である竜達に支えられながら、ようやく過去から立ち直る事が出来た女神カトリーナは――大戦の亡霊ともいえる存在の魔族によって、また大切な人を失ってしまったのだ。

嘆き悲しんだ女神カトリーナは、悲しみと怒りのままに竜達に『言霊』を使用した。


竜達にとって大切で特別な存在である女神カトリーナの呼び掛けに応じない者はいなかった。……ラーゴさんを除いて。


「カトリーナ様に応じられない理由を話したりは……」

「駄目でした」

女神カトリーナは、自らの呼び掛けに応えなかったラーゴさんを裏切り者として有無を言わずに呪ったのだ。……理由も聞かずに。


ルオイラー理事長は必死に懇願してくれたそうだが、悲しみと怒りで我を失った女神カトリーナにその懇願は届かなかった。


「……なんてこと。あなたは悪くないじゃないの……」

金糸雀を包み込んでいる私の手に微かな微かな振動が伝わってきた。金糸雀は震えていた。


「……タイミングが悪かったとしか言えません。しかし、如何なる理由でもカトリーナ様を裏切った事には変わりないのです」

ラーゴさんは、先程のリラさんと同じ様に微笑んだ。


「……竜達はこちらには来なかったが」

「それは夫である魔王あなたが、カーミラ様の死に関わった者を先に殺してしまったからです。招集はされましたが、アーロン様がその事実をもってカトリーナ様を全力で止めたのです」


アーロンは、和泉の世界を創った神であり、聖女として彼方を召喚した神。

そして、魔王サイオンの妻であった女神カーミラの兄である。

私をこの世界に転生させた女神セイレーヌの旦那様でもある。


……理不尽だ。あまりにも理不尽過ぎる。


実行されなかった女神カトリーナの復讐。

招集に応じなかったラーゴさん一人だけが呪われてしまった。

ラーゴさんは大切な番を守りたかっただけなのに……。


「……先程までの非礼を心から詫びますわ。ごめんなさい……」

金糸雀は小さな黄色い身体を揺らしながらポロリと大粒の涙を溢した。


金糸雀は、突然出て来た母の名とその母の親友である女神の存在に動揺してしまい、冷静ではいられなかったのだ。冷静になればこうしてきちんと謝罪だって出来る。


「気にしないで下さい。私が何もしなかったのは事実ですから」

「でも……」

「気にするな。娘よ」

器用に私の身体を伝って肩まで登って来たサイは、ポンと金糸雀の頭に前足を乗せた。


「お父様……」

「責めた事を後悔するなら、私達に出来る事をして返せば良い。であろう?主よ」

私を振り向いたサイは、金色の淵が光る漆黒の瞳をニッと細めた。


……読まれていたか。


「……うん」

私はサイに苦笑いを返した。


「お父様……?……シャルロッテ?」

涙で潤んだ瞳のままキョトンと首を傾げる金糸雀。

私はそんな金糸雀の頭をそっと撫でた。


「カトリーナ様に会いに行こう。そして、ラーゴさんの呪いを解いて貰おう!」

「……えっ?」

「愛し子……それは……!」

金糸雀とラーゴさん達が息を飲み込んだ。


「だって……知っちゃったから。このままじゃ私は帰れない」

このまま帰ったら絶対に後悔する。


……お兄様には『また余計な事に首を突っ込んだ』と言われるかもしれないけど。

大丈夫!お兄様も巻き込みますから!!……って違うか。あはっ。


「これは私のエゴで……我が儘です。だから、ラーゴさん達は気にしないで下さい」

ラーゴさん達はもう『私が大切にしたい人達』のリストに入ってしまったのだ。


私は自分の幸せの為にお節介をするのだ。

大切な人達にはいつまでも笑っていて欲しい。それが私の幸せ。

――これだけは私の中で揺るがない。……あ、お酒の為に頑張るのも!



「ありがとうございます……!」

「お礼はラーゴさんの呪いが解けてからにしましょう!私はまだ何もしていませんから!」

深々と頭を下げるラーゴさんとリラさんに向かって両手を振る。


セイレーヌにお願いして女神カトリーナの元に連れて行ってもらう。

話は全てそこからだ。

会ってもらえるかも分からないし……って、そこは無理矢理にでもどうにかするけどね!


「ありがとう……シャルロッテ」

「頑張ろうぞ。主よ」

「シャルロッテ、父さんを助けてあげて……!」

「うん!精一杯頑張ります!」

金糸雀とサイ。そして、泣き出しそうなレオも一緒に抱き締めた。


先ずは、我が親愛なる魔王様おにいさまに相談だ――!!

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