新天地~大きなレオ➁
「あ、でも、ちょっと待って。ちゃんと魔力が循環しているかを最後に確かめさせて」
レオに許可を取った私は、そう言ってもう一度レオに触れた。
目を瞑って『シンクロ』と小さく呟き、体内を循環しているレオの魔力に、少しだけ自分の魔力を混ぜる。そうして少しの間、レオの魔力の流れを追った。
うん。これなら大丈夫かな。
魔力の滞っている場所は無いし、順調そうだ。
強いて言えば……今まで溜まり続けていたからか魔力が濃い気がする。
恐らくはコレがレオが巨大化している原因なのかもしれない。
だが、オーラを読む事に長けている金糸雀が『半日もすれば戻る』と言ったのだから、心配はないだろう。
後は、あの子達を……っと。
私は巾着袋のあった場所へと意識を集中させた。
あった!
その場には巾着袋と、私の魔力から作った透明な風船の残骸。
そして、光の粒達で作ったストローがそのままの状態で残されていた。
戻って来て良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。
『後片付けは大事!』
例え、アクシデントが発生した事によるイレギュラーだったとしても、しっかりと心に刻まねば……。
『そのままにしてごめんね』
ストローに自分の魔力を流しながら謝ると――
『だいじょうぶだよー』
『あるじはだいじょうぶ?』
『おかしいとこない?』
『へいき?』
光の粒達はさっきまでと変わらない声で応えてくれた。
『うん。今はちょっと……大きくなっちゃってるけど大丈夫だよ』
『おっきくなったの?』
『ごめん。私がしっかり最後まで集中してやらなかったから……』
『しなない?』
『それは大丈夫。死なないよ」
『だったらへいき』
『なおるならいい』
『きにしないで』
『ありがとう』
声のトーンを落とした私を慰めるように、光の粒達が次々に声を上げる。
その気遣いがとても嬉しい反面、申し訳ない気持ちにもなる。
完璧にこなせなくてごめんね……と。
『じゃあ、最後のお仕事しようかな。あなた達を今の形から解放するからね』
だからこそ、この子達はしっかり魔力の循環の中に還してあげなくてはいけない。
私は頑張って気持ちを切り替えることにする。
『よろしくー』
『あるじといっしょー』
『たのしかったよー?』
可愛い光の粒達との会話もこれで最後だ。
『協力してくれてありがとう。もう会うことはないと思うから……みんな元気でね』
『『『うん!バイバイ』』』
私の魔力の残骸である透明な風船でストローを包み込んだ私は、その中でゆっくりと分解を始めた。
焦らない様にゆっくりと……光の粒達の元の形を思い浮かべながら……。
そうしてストローという形状から粒子状に戻った光の粒達の一つ一つを、今度は私の魔力の透明な膜で覆っていく。これは本来あるべきところまできちんと行けるようにというサポートも兼ねている。あるべき所に戻ったら自然に消滅するという時限式を付けてあるので、私の魔力はレオの邪魔にはならないはずだ。
仮に少し混じってしまったとしても――――長い年月を生きる竜であるレオからはいつか消え失せるだろう。
『バイバイ』
両方の手の平から浮かび上がって行く光の粒達を見上げながら私は言った。
さて、戻りますか!
戻る方法は簡単だ。身体のある場所を強く思い浮かべれば良い。
もしくは、強引な方法だが……先程の様に身体のある外部からの接触又は攻撃を受ければ戻れたりもする。ただ、急に戻されるので精神が安定するのに多少の時間を要するのだが……。
金糸雀とレオの待つあの場所へ。
心から強く願うと、グイッと身体が引っ張り上げられる様な感覚がした。
例えるならば、逆バンジーを優しくした感じ……?
――私はそうして二人の元に戻って来た。
****
さて、肝心の大きくなったレオは…………元に戻りました!!
良かった!本当に……良かったよー!
どう責任を取ろうかと思ったよ。
戻るまでの間は、大きなレオの身体を生かしてカルピス〇ワーを沢山汲んでもらった。ありがとうレオ!
沢山のカルピ〇サワーは、私の異空間収納バッグにしまった。
これでいつでも好きなだけ飲めるのだ……!
カル〇スサワーの余韻に浸っている私を金糸雀が生温かい目で見ていたり……レオが何か思惑を含んだ様な目で見られていた様な気もするが……。
良いのだ!
レオの魔力問題も解消したし、私が作らなくても良いお酒があったのだから。
私は幸せだ!!もう思い残す事は……!!
って、あれ……?
――私は肝心な事を忘れていた。
そう……。朝のお兄様への定期報告である。
ココに来るのに夢中になり、忘れてしまっていた。
その後はレオの中に潜ったりしていたので、向こうからの着信に気付く事もなく、気付いた時には夕方で…………。
――着信あり 百件。
ゾワッと背筋を悪寒が走り抜けた。
やらかしたーーーー!!
リラさんの邸に戻った後。
般若を背に負ったお兄様からのお説教から解放されたのは…………朝方になってからだった。
我が家の魔王様は健在でした。
もう二度と連絡を忘れないようにしようと、私は心に深く刻んだのだった。