駄目②
私が素直に頭を下げると(土下座)、お兄様は大きな溜息を吐きながら次々と魔術の使用の指示を出し始めた。
「シャル。氷出して」
「・・・はい。アイス！」
ゴロン。
「シャル。次は炎」
「はい。ファイヤー！」
ゴオォォオオー！
「次は・・・風」
「ウインドー！！」
ビュウゥー！！
「・・・土。」
「アース！」
ボコボコボコッ！
チート発動中！！
術を繰り出す度にお兄様の目が虚ろになり、まるで死んだ魚の様になっていきます。
「なんて・・・規格外な」
使える魔術の種類も多いが、威力が最も規格外なのだ。
・・・はい。私もそう思っています。
「魔術の封印が解けたり、赤い星の縁が光り出したのは・・・和泉さんの記憶を思い出した事が原因かもしれないな」
「私みたいに記憶が戻ると、光り出すものではないのですか？」
「少なくとも僕が調べてた限りでは知らない。シャルロッテは随分と女神に愛されているのかもしれないね」
【赤い星】は女神様の担当だっけ。
ふと、お兄様の着ているシャツの胸元で目線が止まった。
私のせいで、シャツはヨレヨレになってしまっていて、所々には血痕も付いている。
とても公爵子息の様相ではない。
・・・お兄様ごめんなさい。
「クリーン」
そう唱えたと同時に大きな光がお兄様を包み込み・・・
ヨレヨレだったお兄様のシャツが、新品の様にノリがパリッと効いたものへと変わった。
これは補修の魔術である。
急に自分を包み込んだ光に呆然としていたお兄様だが、私をジロリと一瞥してまた深い溜息を吐いた。
チートな妹ですみません・・・。
「お兄様・・・これでも駄目ですか？」
三日間待たないと駄目？試験はやり直し？
唇を噛んだ上目遣いで、お伺いを立てる。
「・・・仕方無い。父様には言っといてあげる。だけど場合によっては君の事を全部話すからね？それは了承して欲しい」
お兄様は凄く嫌そうな顔をした後、諦めた様な顔で私に告げた。
「はい。分かりました。」
私はそれに大きく頷いて答える。
「父様が良いって言っても、前衛なんかはさせないからね？あくまでも補佐だからね？」
「でも・・・」
攻撃の魔術だって使えるのに・・・。役に立つのに・・・。
不満さを全面に出す私。
「シャルロッテ・・・？」
急にお兄様の声音が甘さを帯びた。
ヤバイ！！
咄嗟に身構えるも・・・・・・遅かった。
「お・・・にいひゃ・・・ま」
むにーっと、私の両頬はお兄様によって引っ張られている。
「シャル？僕は心配しているの。分かってる？」
「・・・めんらひゃ・・・い！」
こういう時は早めに謝るに限る。
両手を胸の前で合わせながら、じっとお兄様を見る。
「はぁー・・・。この先苦労しそうだな」
そう言うお兄様は苦笑いを浮かべながら遠くを見ているが、その横顔は何処となく楽しそうにも見える。
・・・・・・どうして？？
あー、首を傾げたいのに顔が動かない。
頬っぺたをむにむにとされ続けた私は、それから三分位経ってからやっと解放されたのだった。
「シャルの頬っぺは気持ち良いね。癖になりそうだ」
楽しそうにクスクス笑うお兄様。
咄嗟に頬っぺたを押さえた私は悪くない。
「シャルロッテ」
私を呼ぶお兄様に視線を合わせると、お兄様はもう笑っていなかった。
「この世界では16歳からじゃないと、お酒が飲めないよね？」
「はい」
コクンと頷く。
知っています。
今はそれが凄ーーーく待ち通しいです。
あれ・・・？もしかして釘を刺されてる？
『16歳まで飲むなよ』っていう警告！？
「違う違う。まあ、少しそれはあるけど」
やっぱり！！
って・・・口に出してないのにどうして分かった！？
「一年後・・・」
この言葉に私はハッと真顔になる。
「僕は十六歳で、シャルロッテは十三歳だ」
それはスタンピードが起こる予定の年。
「僕はスタンピードを起こさせない」
私だってそうだ。何もなくしたくないし、亡くさない。
その為には何でもしようと思ってる。
「僕達は協力者であり、共犯者だ。」
『協力者』と『共犯者」
そうか。私はお兄様という心強い味方を手に入れたんだ。
そしてお兄様は、私に一人で悩まなくて良いって言ってくれてるんだ。
一人で無理するな・・・と。
「無事にスタンピードを乗り越えて・・・二人でこっそり祝杯をあげようか」
「お兄様！！」
悪戯っ子の様に笑うお兄様に私はギュッと抱き付いた。
「父様達には内緒だよ？」
お兄様は私の頭を優しく撫でた。
皆と幸せに笑って過ごす未来の為に、私は出来る事を頑張り続ける。
私を受け入れてくれたお兄様と一緒に。
それが叶うであろう一年後のその時の為に【特別なお酒】を用意しよう。
是が非でも叶えてみせるけどね。
私はお兄様の腕の中に包まれながらそう誓った。
➀『レパロ』→『クリーン』へ。
➁年齢を漢数字へ。
それぞれ変更と修正をしました！
