駄目①
「それは駄目だ」
お兄様は怖い顔でそう言った。
「でも!」
「厳しい事を言うけど、実践経験のない魔力持ちほど足手まといになる者はいない。魔物達を目の前にして冷静な対応が取れる?恐怖で魔術が暴走したらどうする?敵より厄介な味方はいらない」
・・・お兄様の言う事は最もだ。
魔術が何かも理解していない私がパニックになって、ファイヤーやアイスを乱発し続けたらどうなる?
敵、味方を関係無く巻き込んで最悪は・・・。
想像しただけで、ブルッと身体が震える。
無意識に自分の体を自分で抱き締めた。
私は足手まといになりたい訳じゃない。
・・・未来を変える為の手伝いがしたいのだ。
「それでも何かしたいと言うなら・・・」
その言葉に私はハッと顔を上げてお兄様を見た。
「三日後。僕の試験に合格したら、同行させてもらえる様に父様に掛け合ってあげるよ」
挑む様な眼差しで私にそう告げた。
「・・・試験ですか?」
何をすれば良いのだろう。何に合格したら認めてくれる・・・?
お兄様は右手を自身の左手の上に翳して、ボソッと何かを呟いた。
その瞬間。
お兄様の左の掌がスパッと小さく裂けた。
「お兄様!?」
掌から滴り落ちる赤色。
「大丈夫だから、黙って見ていて」
焦る私を余所にお兄様は冷静なままだ。
お兄様のしたい事が分からない私は、オロオロしながらも黙って見守るしかない。
そんなお兄様が、今度もまた何かを小さく呟いたと思ったら・・・
「え!?」
一瞬の内に淡い光がお兄様の掌を包み込み・・・。
光が消えた後には傷がすっかり消え去っていた。
「これが回復魔術。これを三日でマスターして。使えないなら連れて行く事は出来ないから」
お兄様は私に向かって右手を翳して見せる。
そういう事か・・・と、私は納得した。
回復魔術が使えれば良いのなら・・・
ふと、右手を翳し・・・
「シャル・・・!?」
お兄様が慌てて止めるのも構わずに、お兄様がした様に私も自分の左手を傷付けた。
「・・・・・・っ!」
ドクドクと次から次に流れる赤い色。
傷を付けた部分は熱く、ドクドクと脈打っている。
どうやら、お兄様より深く傷付けてしまった様だ。
「シャル!!どうして自分の手を・・・!」
・・・あれ?駄目だった?お兄様が自分の手を使っていたから・・・
「直ぐに治すから動かないで!」
お兄様は珍しく慌てた様子で、私の左手を心臓よりも高く上げながら固定させようとする。
私はいつもと違うお兄様がなんだか可笑しくて、流れる血も痛みも忘れてクスクスと笑ってしまった。
「シャル!笑ってる場合じゃないよ!女の子が身体に傷なんて付けちゃいけない!!」
「大丈夫です。治せば良いのですよね?」
お兄様に固定された左手の上に、自分の右手を翳した。
人は自分よりも慌てている人を見ると冷静になれるという。
今の私もその状態である。
だから、今の私なら出来る気がするのだ。
回復・・・。
血を止めて、傷を塞ぐ。そして仕上げに傷を消す。
そんなイメージを頭の中で練り上げて・・・呟く。
「・・・リカバー」
呟いた瞬間。
私の周りが眩しい程の光に包み込まれた。
目を開けていられない位に眩しい光が落ち着くと・・・
左手にあった傷はすっかりさっぱり綺麗に消え失せていた。
寧ろ、傷を付ける前よりも肌が艶々してる様な気がする。
おお・・・。やった!回復も出来た!!
左手を翳しながら笑顔でお兄様の方を見てみれば・・・
「・・・シャルロッテ?」
・・・・・・ルーカス様が降臨なされていた。
怖い。
笑顔のお兄様の後ろに般若が見える。
「お、お兄様・・・?」
恐る恐る声を掛ける。
「シャルロッテ。一回話し合おうか」
怖い、怖い、怖い・・・。
私は思わず椅子の上で正座をした。
勿論、背筋ピーンと姿勢も良いヤツです。
そんな私をチラリと横目で見ながら溜息を吐いたお兄様は、
「もう二度と自分を傷付けないでね?」
眉間にシワを寄せた辛そうな顔で、何度も何度も何も残っていない傷跡も見続けている。
「それはお兄様だって・・・」
治ったから良いじゃない?それを言うならお兄様だって・・・。
「何か馬鹿な事でも言うつもり?」
反論しかけた私に向かって高圧的な視線を投げかけて来る。
「すみませんでした・・・もうしません」
ルーカス様には逆らえるわけもなく・・・。
私は素直に土下座をしたのだった。
『ケアル』→『リカバー』へ呪文の変更をしました!




