神を起こす方法⑨
「女神様に飲ませてもらえば良いんじゃないの?」
頭を抱えて叫んだ私に向かって、しれっと告げたのはお兄様だった。
……何……だって?
「だーかーら。女神様と神様は夫婦なんだから、普通に口移しで良いんじゃないの?って」
なるほど!
最悪、無理矢理に口の中に突っ込もうとしていたけど、セイレーヌに頼めば良かったのか。
……失念してた。
「セイレーヌ。お願い出来る?」
「ええ、勿論よ」
セイレーヌは二つ返事で快諾をしてくれた。
良かった。これで後は……。
「どうしてリカルドもシャルも思い当たらないのかな?君達、婚約者同士でしょ?」
瞳を細めながら笑うお兄様……。
どの口が言うのだ……。
私はお兄様をジロリと睨み付けた。
「……お兄様?」
「ん?何?」
何だその『言えるもんなら言ってみろ』的な挑発的な顔は!!
絶対にわざと言ったな!?
そう。お兄様は分かってやってるのだ。
毎回、毎回、毎回、毎回……!!
私とリカルド様の甘い空気を察知したかの様に、必ず邪魔をしに現れるのだ!!
ええ。お陰で私シャルロッテはリカルド様と健全なお付き合いをしていますよ!?
滅多に会えないのに、手を繋ぐのも一苦労ですよ!?
せめて手位は繋がせて欲しい!!
それなのに……必ず真ん中に割って入ってくる。
さっきもちょっと良い感じだったのに邪魔をされたし…………。
和泉の時は……もう枯れかけていたからなぁ……。
何年もリア充とは無縁な乙女ゲー漬けの日々だった。
という事で、私にそんな発想が出来るわけがない!!
「お兄様。後でお話があります……」
「んー?良いよ?シャルが何を言うつもりかは分からないけど、《《じっくり話そうか》》」
何だっ……て?
私は少し怒り気味のジト目で言ったのに……それを上回る様な笑顔が……
ま、まさかの魔王降臨!? どこだ!? どこに伏線があった!?
「ああ……分かった。リカルドとどんな事をしたいのか詳しく説明してくれるんだよね?」
ニッコリ微笑むお兄様……。目が怖いって!!
「バカねえ……」
「主は迂闊なのだ。仕方がない」
「ちょ!?そこー!!」
金糸雀とサイに助けを求める意味でツッコんだのに……間にお兄様が割って入ってきた。
「話は終わってないよね?」
ノーーーーーー!!
「……ルーカス。ストップ」
あわあわと口を開閉している私を見かねたリカルド様が助けに入ってくれた。
お兄様の肩を押さえ、私を自分の方に引き寄せた。
「シャルロッテも落ち着いて。ルーカスはからかっているだけだから」
「え?」
「良く見ると、ずっと肩が揺れてる。……遊ばれているんだよ」
な、何だって?!
お兄様に視線を向けると…………確かに肩が揺れてる。
「あー、可笑しかった」
「お兄様?!」
「ん?後で話があるのは変わらないからね?」
ひとしきり笑い終えたお兄様は、瞳だけを細めた。
「これからも僕は邪魔をするから」
「なっ…………!?」
空いた口が塞がらない状態になった。
「大丈夫だよ。シャルロッテ。僕に考えがあるから」
「リカルド様……」
そっと抱き締めてくれるリカルド様に身を預け……
「はいはい。あのさ、いつになったら起こすつもり?」
またしても私とリカルド様の間に強引に割って入ってきたお兄様が、今度もしれっと言った。
……一体誰のせいだと……。
今度は私の両肩が揺れた。
勿論、可笑しいからではない。怒りからである。
しかし、お兄様の言っている事は正論なので、どうにかこの怒りを逃がす事にする。
はあ……落ち着け。私は大人……私は大人だ!!
よし!!
お兄様の存在を完全に頭の中から追い出した私は、バッと顔を上げてせーレーヌを見た。
「セイレーヌ。これを……」
アーロンに寄り添う様にしているせーレーヌにお酒の入ったグラスを渡した。
「分かったわ」
そう言いながら大きく頷いたセイレーヌは、グラスの中のお酒を傾けて、自分の口に含ませ…………ってあれ?
私の視界が急に暗くなった。
「シャルロッテは見ちゃ駄目」
拗ねた様なリカルド様の声が頭上から聞こえた。
リカルド様は私の背後から包み込む様に私を抱き締めながら、両目を覆っているのだと推測した。
「リカルド様……?」
「他の人じゃなくて、僕とした時を想像してよ……」
耳元でボソリと呟かれるリカルド様の美声…………。
うわっ!!今、ギュッて心臓を鷲掴みにされた!!
リカルド様可愛い!超可愛い! 可愛すぎでしょ!?
私は自分の心臓を押さえながら、唇を噛み締めた。
口をつぐんでいないと……
『惚れてまうやろーーー!!』
と叫んでしまいそうだったからだ。
それ程までにリカルド様が可愛かった。愛おしかった。
ああ、幸せだーーー!!
ギュッとリカルド様の腕を抱き締めようとした瞬間。ゾクリとした。
背筋が凍る様な……この感覚は……。
くっそー……有言実行?!
ちょっと位、ラブラブさせてよ!!
殺気にも似たこの感覚は間違えようもなくお兄様だ……。
私が諦めの溜息を吐いたのと一緒に……
「アーロン!!」
涙声の嬉しそうなセイレーヌの声がこの場に響き渡った。
私の目元にあった手が外れると、寝台の上に起き上がっている神アーロンの姿があった。




