神を起こす方法➁
沢山の光が差し込む……森の中の開けた場所の真ん中に置かれた白い寝台。
その寝台を取り囲む様に、沢山の色鮮やかな花々が咲き誇っている。
そんな寝台の上に寝かされている神アーロンの姿は……中世の宗教画の様にとても綺麗で、神秘的だった。
神様だからこそ余計に神秘的に見えるのかもしれないが……アーロンの放つオーラ的なものが、私達とは明らかに違うのだ。
これが力をほぼ使い果たし、目覚めない眠りの中にいる神の姿とは到底思えない。
神々しくも圧倒されるこの存在感。……なのにも拘わらず、見ているだけで心落ち着き、癒やされ……どこか懐かしいとさえも思えるこの矛盾。
本来……神とは、こんな風に近い様で、とてつもなく遠い存在なのだから、私が感じている事も間違いではないのかもしれない。
「アーロン……あなたの愛しい子供達が来てくれたわよ」
アーロンに寄り添ったセイレーヌがそっと語り掛ける。
しかし、アーロンは微動だにしない。
……出来ないのだ。
愛しい妻の声にも反応が出来ない程に弱ってしまっている神。
……私はアーロンを起こす事が出来るのだろうか。
本人を目の前にして、私の自信が揺らいだ。
この日の為に色々準備をしてきたが……それが必ずしも有効だとは限らないのだ。
「シャルロッテなら大丈夫だよ」
弱気になった所を……リカルド様に見透かされた。
私を気遣うようにそっと寄り添ってくれるリカルド様の心遣いがとても嬉しい。
「リカルド様!」
思わずギュッと抱き付くと……
「はいはいはい。空気読もうね」
お兄様にベリッと引き剥がされた。
『空気を読もう』だと!?
敢えて空気を読まないお兄様には決して言われたくない言葉なんですけど!!?
「シャルロッテ、大丈夫。みんな一緒だよ」
「ああ。心配するな。彼方が付いている」
彼方の肩を抱きながら寄り添うクリス様。
あれ……?いつの間にかラブですか?
ラブラブですか?
ジッと彼方の肩を抱いているクリス様の手を見つめると……パッとその手を離し、顔を真っ赤にさせながら右往左往し始めた。
彼方も真っ赤な顔で固まっている。
……ラブラブですね。
スン……と私の顔が悟りを開いた僧侶の様に真面目な顔になる。
良いな……邪魔する人がいなくて!!
なんならお兄様を熨斗付けてあげようか!?
……いや、そうすると彼方が可哀想だから駄目だ。
結局は、私が我慢するしかないのか……。
じゃあ、私は可哀想ではないのか!?
リカルド様と婚約する前も、そして婚約してからも邪魔をされてばかりではないか!!
やるせない……。この行き場のない思いは……!!!!!!
「シャルロッテ。そろそろ現実逃避は止めたら?」
「神の事を起こすのは止めたのか?主よ」
金糸雀とサイに呆れを含んだ視線を投げかけられた。
……すみません。《《ちょっとだけ》》ストレスが溜まっていたみたいです。
私はセイレーヌに頭を下げた。
しかし、セイレーヌは少しも気にした様子はなく、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべたままだった。
……この差。
少しはセイレーヌを見習って大人にならなくてはいけないかもしれない。
多分無理だろうけど。……なんて、試す前から諦めていたり……。
さて、そろそろ茶番はこの辺りでおしまいにせねば。
「宴の準備をしたいと思います」
私はそう言って、異空間収納バックの中から次々に料理を出し始めた。
ハンバーグに唐揚げ、グラタンにフライドポテト。チーズたっぷりのピザもある。
それらを大きく広げたシートの上にどんどん並べて行く。
「シャルロッテー、お皿とフォーク欲しいんだけどー」
「はい、少々お待ち下さい」
私は中からお皿とフォークを取り出して、お兄様に渡した。
皆が手伝ってくれているので、あっという間に準備が終わった。
この空間だけを見ると、まるで花見にでも来た集団の様だ。
もしくはピクニック?
そんな中で、私は各自のリクエストを聞き、乾杯の為のお酒を用意し始めた。
お兄様はラベルの酎ハイもどきで、リカルド様はシーラの酎ハイもどき。
クリス様はホットチョコレートにお酒を落としたもの。彼方にはクリス様と同じホットチョコレート(お酒なし)、サイト金糸雀はスーリーのロックだそうだ。
私以外の皆はもうシートの上に座り、私からの合図を待っている。
……ふむ。私は何を飲もうかな。
セイレーヌの希望は私と同じ物を……だった。
色々なお酒を作り出し、もうある程度の種類は出来たけど……
私はやっぱりこれだ!!
私は、クランクランのお酒を選んだ。
【ラブリー・ヘヴン】をプレイしていた私が一番飲みたかったお酒だ。
因みに二杯目はラベルのお酒、三杯目はシーラと続く予定だ。ふふっ。
最後に用意が終えたクランクランのグラスをセイレーヌに手渡した。
「では、皆さん。お酒や飲物は手元にきちんとありますね?」
このまま仕切って良いと言われたので、私は自分のグラスを掲げながら皆を見渡した。すると、皆も私と同じ様にグラスを掲げてくれる。
よし、じゃあ……
「乾杯!!」
私は皆の仕草を合図にし、更に高くグラスを掲げた。




