ホットチョコレート(女子会➄)
……ふと、目が覚めた。
目を擦りながら身体を起こした私は……今まで自分が眠っていた隣の場所を見て、思わず二度見をしてしまった。
そこにはスヤスヤと寝息を立てている白銀色の髪の美女……セイレーヌがいたからだ。
女神も寝るんだ……。
私はそんな至極単純な事を思った。
私達は女神や神達を崇高な者として崇めているから、人の抱える欲望とは無縁な生活をしているのだと思ってしまいがちだ。
しかし、シモーネ達の様な私利私欲にまみれた神もいたのだから……
案外、私達の送る生活と変わらなかったりするのかもしれない。
昨夜のセイレーヌと金糸雀との三人の女子会さんは明け方まで続いた。
眠るセイレーヌの枕元には金糸雀の姿がある。
女子会だが……私が彼方に感じたジェネレーションギャップなんて可愛いものだったと、感じさせられてしまった。圧巻である。
流石は女神と長寿の魔族……。昔話の年数の桁が違う。
仲良くなる事に年齢なんて関係ない!!
と、悟れた夜でもあった。
うん、うん。過去はどうあれ彼方と私は同い年!!
一人で相槌を打っていると……
「ん……」
セイレーヌが身動ぎ始めた。
ゆっくりと開いた銀色の瞳は、ぼんやりとしながら周囲に視線をさ迷わせている。
寝ぼけているのか、朝が弱いのか……。
ボーッとしているセイレーヌは幼い子供の様で可愛らしい。
「セイレーヌ。おはよう」
笑いながら声を掛けると、セイレーヌの瞳が丸くなった。
「……おはよう。シャルロッテ」
セイレーヌはどうやら寝ぼけていたらしい。
今、置かれている自分の状況を思い出したらしい彼女が、慌てて身なりを整え始めたからだ。
「女神なのに……ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
恥ずかしそうに眉を下げるセイレーヌに向かって私は首を傾げた。
セイレーヌに謝られる事なんてないはずだ。
「ええと……その……。幻滅しちゃうでしょ?」
……ああ。なるほど。
セイレーヌは女神としてのイメージを損なってしまった事を気にしているのだ。
「全然!」
私は笑いながら首を大きく横に振った。
「セイレーヌの信者の皆さんならともかく、私の事は気にしなくて大丈夫だよ。寧ろ、素のセイレーヌが見られて私は嬉しい」
「そ、そう?……ありがとう」
セイレーヌははにかんだ。
イメージ云々《うんぬん》の話をするのであれば、セイレーヌより……。
私はまだスヤスヤと寝ている金糸雀へと視線を向けた。
可愛い黄色の小鳥は、ぽっこりと膨らんだお腹を天井へ向けた格好で眠っている。
鳥らしくのない寝方。鳥らしくない食欲……例えを挙げたらキリがない。
元の妖艶な金糸雀の姿からは到底想像も付かない。
しかし、それだけ悩みがなく幸せに過ごせる事はとても良いと思う。
さて……。
今日はやらなければならない大事な事がある。
早く用意をして彼方と合流しなくてはいけない。
「朝ご飯用意して貰うけどセイレーヌも一緒に食べるでしょ?」
「ええ。頂くわ」
セイレーヌは微笑みながら頷いた。
「わらしもたべりゅわよー!!」
ガバッと金糸雀が飛び起きた。
金糸雀さん……えー……。
『朝ご飯』という言葉に反応したのだろう。
寝ぼけているのか、全く呂律が回っていない。
安定の食いしん坊さんだ……。
「はい、はい。ちゃんと三人分用意ね」
「フレンチトーストが良いわ!」
ちゃっかりと注文も忘れない。
「彼方はシャルロッテの作ったフレンチトーストを食べたんでしょ?私もそれが良いわ!!」
……教えなければ良かった……かな?
さっさと用意をしようと思ったのだけど……これでは……。
チラッとセイレーヌの方を見ると……セイレーヌの瞳がキラキラと輝いていた。
「……分かった。用意してきます」
肩を落とし、苦笑いを浮かべる私に金糸雀の要求は尚も続く……。
「アイスクリームとチョコシロップとー……ああ!ホットチョコレートも!!」
「また!?昨日、散々飲んだよね!?」
覚えているだけでも五杯は飲んでいた様な……。
そのお陰で、私は暫く要らないと思ってしまったと言うのに……。
「お願い!シャルロッテの作る物は私を幸せにしてくれるのよ!」
くっ……!いつだかお兄様が私に言ってくれた……あの言葉を引用するだなんて卑怯な!!
そんな嬉しい事を言われたら……
「分かった!分かったから待ってて。だけど時間掛かるからね?!」
作らない訳にいかないじゃない!!
こうして出発の時間が少しだけ遅れる事になるのだが……
金糸雀も……セイレーヌも嬉しそうだし、良しとしよう!
まだ今日は始まったばかりだ。
簡単に身支度を終えた私は、アヴィ家の厨房へ向かった。




