ランチ②
・・・口に・・・・・・出ていただと?
「お、お兄様!?それは・・・・・・っ」
「『流石、公爵家の料理人さん。素晴らしい』っていう所から・・・『ニホンシュ作りたいなー』っていう所まで」
おお・・・・・・っ。
まさかの全部ですか・・・・・・。
ずっとそれをペロッと言ってたの?
お兄様の前で・・・?
痛い・・・私は痛い子だ・・・・・・。
死んだ魚の様な目で宙を仰ぐ。
「・・・ショーユ、ミソ、マヨネーズ、ニホンシュ。こんな言葉を聞いた事が無いんだけど、それって何?イズミって誰?シャルには友達なんていないでしょ?公爵家ではマリアンナだけだよね?」
はう!?
サラリと友達いないって言れた!!
確かにいないよ!?
だって、しょうがないじゃない?
社交界デビューは学院に入る前だし、そもそも学院にだって行ってないんだから!
仲良くしてくれてるのはマリアンナを始めとした侍女さん達だけだ。
「それに、さっきの膨大な魔術は何?」
やっぱり、あのチートな魔術まで見られてたのね・・・・・・。
「シャルロッテは確かに膨大と言える魔力は持っている。でも、ほんの一部しか使えない様に封印されているはずなんだ」
封印?そんなの聞いてないよ?
・・・まあ、でも封印か。
両親やお兄様が普通に様々な魔術を使えるのに、シャルロッテだけがショボい魔術しか使えなかった理由がそれなら納得出来る。
「それで?シャルロッテの中にいる君は誰?」
瞳を細めたお兄様が私をジッと見つめている。
口元は笑っているのに、その瞳は全く笑ってない。
無意識に逃げ出そうと腰を浮かせかけた所を、お兄様にその腰を抱える様に押さえ込まれた。
「逃げられないよ?そもそも逃がすつもりもないし」
・・・・・・蛇に睨まれた蛙。
お兄様は更に私の身体をテーブルに押し付けて、自身の両腕の中に閉じ込めた。
俗にいう壁ドン状態だ。
いや、この場合はテーブル・・・・・・ドン?
壁ドンに憧れた次期があった。
でも・・・・・・壁ドンって本当には怖かったんだね!!
相手にもよるのかもしれないが、私には脅迫としか思えない。
キュンなんてしない!!
「・・・私はシャルロッテですよ?私の中に・・・の意味が分かりません」
怖い・・・。心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
思わず握り締めた両手は、うっすらと汗ばんでいる。
「僕を誤魔化せるとでも思ってるの?」
余裕気な微笑みを浮かべたままのお兄様は、私の頬を撫でながら瞳の中を覗き込んで来る。
・・・・・・っ!!
「昨日、倒れた後からシャルロッテの雰囲気が変わったのには気付いてた。ねえ?シャルはいつから玉葱が食べられる様になったんだい?」
は?・・・玉葱?
・・・・・・??
・・・・・・ぁああああああああ!!
ゲームの中のシャルロッテは玉葱が大嫌いだった。どんなに腕の良い料理人が分からないように調理しても何故か玉葱をかぎ分ける。
最近では、一切口を付ける事もなかった。
それ程までに玉葱が嫌いだったのだ。
それなのに、さっきの私はどうだ。
ハムサンドには玉葱が入っていたじゃないか。
それを何も言わずに美味しそうに食べた私。
シャルロッテの玉葱嫌いを知るお兄様からしたら、『?』にもなるじゃないか・・・。
たかが玉葱、されど玉葱・・・。
こんな所に罠が仕掛けられていただなんて・・・。
料理人さん酷い・・・。
因みに、和泉は玉葱が好きだった。
中でも甘い新玉葱を水で少しさらして、梅味のドレッシングをかけ鰹節を乗せたサラダが好きだった。
他にも炒め物にカレーにと何でも万能な玉葱だ。
そんな和泉とシャルロッテが混じり合った為に、シャルロッテも食べられる様に・・・寧ろ好きになったんだと・・・思う。多分。多分ね。
まさか玉葱でバレるとか・・・。
詰んだな。
再び魚の死んだ様な目で宙を仰ぐ。
「勘違いしているのかもしれないけど、僕は別に君を害そうとしている訳ではないよ?」
そう言いながら私の頭をゆっくり撫でる。
・・・本当に?
私はすがる様な視線をお兄様目に向けた。
「君は『赤い星の贈り人』だからね」